2024.07.16
Bリーグになって以降に限っても、最優秀新人賞に岡田侑大、西田優大、新人賞ベスト5に熊谷航。レギュラーシーズン最優秀選手賞に比江島慎、金丸晃輔が輝いている。
また鈴木貴美一ヘッドコーチ率いるシーホース三河は多数の日本代表選手を輩出。鈴木HCも2度にわたり日本代表の指揮を取った経験があり、その眼差しは自チームのみならず、日本のバスケット全体を強くすることに向けられていた。後編では、鈴木HCの育成論について聞いた。
取材・文=山田智子
僕は指導者としての最終的なゴールは、選手が上手くなることで、チームが強くなることだと考えています。逆に言えば、チームが勝ったとしても、選手が育っていなかったら、それは指導ではない。
選手を成長させるためには、失敗させながら、のびのびとプレーさせることが最も重要です。放任主義とは少し違うのですが、選手はのびのびとプレーして失敗すると、次からは失敗しないように努力するようになります。失敗して、自分で考えて、成功したときに選手はグッと成長するんです。考える力を植え付ける指導をして、選手が結果を出した時に初めて育てたことになるんです。
実はヘッドコーチになって数年は、怒り気味で、僕がいっぱい話をするという厳しい指導していました。でもJBL1部に昇格しても1995−96シーズンは10位、1996−97シーズンは11位、1997-98シーズンは10位と成績が伸びませんでした。それで怒らないスタイルにやり方を変えました。そしたらそれが結果に結びつくようになったんです。
最近の若い選手たちは、自分で考えることができない傾向が強いと感じます。今シーズンの前半も、選手たちがただ本能のまま一生懸命やって負けていたので、「考えてやりなさい。自分で考えられないと、長く選手を続けられないよ」という話を繰り返ししました。最後はみんな考えられるようになり、それで4月以降は勝つこと(9勝6敗)ができるようになったんですね。
西田選手はうちに来る前は得点も1ケタ代でまだ芽は出ていたなかったけれど、身体ががっちりしているし、ハートもいい。うちで育てれば絶対に2ケタ取れる選手になれると思っていました。彼もその期待に応えてくれて、ものすごい勢いで伸びました。考える力もついてきたし、以前は遠慮して思っていても発言しなかったのだけど、今シーズンの終わりには「僕はこう思うんですけど」と自分の意見を言うようになってきました。
アヴィ(シェーファーアヴィ幸樹)選手はケガもあって出だしは調子が悪かったのだけど、良くなってきたところでケガをしてしまって残念でした。角野亮伍選手は最後の方は本当にディフェンスが良くなったし、中村太地選手は最初の頃は一人でボール持って無理に攻めたりしていましたけど、パスを回すようになった。ダバンテ・ガードナー選手もパスをするようになったし、細谷将司選手もきっちりゲームメイクできるようになったし、柏木真介選手は鬼ディフェンスに徹している。橋本晃佑選手はケガがあってあまり力を発揮できませんでしたが、本当に全員が考えることができるようになってきました。若い選手は育ち始めるとみるみるうちに育つので面白いですよね。
今年のチームは、去年から作ったチームなので、種をまいて、育てて、花が咲くのは3年目だと思っていました。やり切ったので悔いはないですが、強いチームになってきたところだったので、この先を見届けられないのは少し心残りではあります。まだ未熟なところもあるので、安定して力を出すことができない。でも本当に伸びしろのある選手たちですので、これからも応援してほしいなと思います。
三河から移籍した選手が活躍しているのも誇りです。対戦すれば皆話しかけてくれるし、例えば、森川正明選手は横浜(ビー・コルセアーズ)でエースになって、代表候補にも選ばれ、今シーズンはCSにも出場しています。そういう姿を見ると本当にうれしいですね。
どちらかというと、スタートで出ていた選手たちは、移籍して1、2年目は苦労する傾向がありますね。うちでスターターとしてのびのびプレーしていた分、他のチームで細かいルールを覚えたり、控えになったりすると迷ってしまうのだと思います。でもクリエイティブさを出すように育てていれば、しばらくするとどの順応できるようになります。比江島慎選手は最初苦労していましたが、昨シーズン、花開きましたよね。
スタートですぐに活躍できたのは古川孝敏選手だけじゃないですか。彼は常に努力をする子で、トップクラスのメンタリティーを持っている。その点で、代表では渡邊雄太選手が、三河では古川選手がナンバーワンでした。
タイムアウトでなるべく簡潔に伝えるのも、僕がずっとポリシーにしていることです。あまり言い過ぎると、やらされている感が強くなるので、萎縮して伸びないんです。選手同士でコート内で解決することを覚えさせるため、あえてタイムアウトを取らないこともあります。
そこまで考えて選手を育ててきた結果、この20年で代表選手を一番多く輩出したことは、僕の誇りです。
インタビューのあと、鈴木HCと長く共闘してきた柏木真介に話を聞くことができた。
柏木は2006−07シーズンから前身のアイシン時代を含め11年間、三河に在籍。司令塔として4度のリーグ優勝や天皇杯4連覇に導き、2007−08シーズンにはレギュラーシーズン&プレーオフMVPに輝いた。その後一度三河を離れるも、2020−21シーズンに4年ぶりに復帰。今季はキャプテンを任されるなど、鈴木HCから絶大な信頼を寄せられていた。
柏木の話は、鈴木HCの話を裏付けるものだった。
「正直びっくりしましたし、一時代が終わったという感じでしたね。『帰ってきてくれてありがとう』という言葉をもらいました。
若い頃はスピードも身体も強くかったので、正直能力任せだったというか。三河に来て、考えるバスケットを教わって、1年目はすごく苦労をしました。でもイケイケのバスケをやめて、我慢しながら考えることを始めたからこそ、視野が広がって、自分の良さも活かせるようになりました。きみさん(鈴木HC)に考えるバスケを教わったことがすごく大きいし、それが僕の原点だと思いますし、これだけ長く現役を続けられるのも、考えるバスケを教わったおかげだと思います。思い出はありすぎますけど、出会ったことがすべてですね。
きみさんが築き上げてきたいい部分は残して、そこに新しい風を入れて、よりよりクラブ、チームにしていけるように頑張りたいと思います」
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