Bリーグ公認応援番組
『B MY HERO!』
「今年の代はいつも誰かがケガをしていて、フルメンバーできっちり練習した記憶がないんです。なかなか追い込み切れなかった…」
ウインターカップ開幕を約1カ月後に控えた11月19日、国立代々木競技場 第二体育館で行われた「U18日清食品トップリーグ2023」の最終日、東山高校(京都府)に67-74で敗れた福岡第一高校(福岡県)の井手口孝コーチはつぶやくように報道陣に話しかけた。言葉の端々に思いどおりにチーム作りができなかったことに対する無念さがにじみ出ていたとも言えるだろう。
今夏、北海道札幌市で開催されたインターハイ準決勝で、その東山75-93と大敗した福岡第一はウインターカップでの復権を目指して再スタート切った。しかし、エースの崎濱秀斗が9月23日、「U18日清食品トップリーグ2023」の福岡大学附属大濠高校(福岡県)戦の最中に左足を骨折。結局、復帰までに約2カ月を要する大ケガを負ってしまう。
井手口コーチの「冬までに鍛える」という誓いにも似た想いは、ここでももろくも崩れ去ってしまった。
ただ、崎濱(秀)の離脱は山口瑛司(3年)をはじめとする残されたメンバーに「自分たちがやらなければ」という強い気持ちに火を点すことにもなった。また、1年生の聡と耀の宮本ツインズをはじめとする新戦力が台頭することにもつながり、戦力は増していったとも言えるだろう。
そして12月に入ると、3月の『全九州高等学校バスケットボール春季選手権大会』でヒザを負傷したアピア パトリック眞、そして崎濱(秀)が練習に復帰した。
「(全員がそろった)練習が終わった後、当然涙流してないけど、それほどうれしかったですね、みんなが帰ってきて。やっぱりケガをすると(その選手は)かわいそうじゃないですか。ケガに泣いている子がいると切なくなる。こうして全員復帰して練習している姿を見ていたら、うれしくなりました」
井手口コーチの言葉に熱がこもる。ただ、全員が戻ったとしても優勝が狙える戦力が整ったわけではない。ケガによるブランクは個人だけでなく、チームプレーにもマイナスに働くものだ。
「鬼というわけではないですが、(ウインターカップ開幕までの)2週間で1年分の練習をさせるのが僕の仕事」と井手口コーチは意気込んだ。
しかし、「でも欲張らずにベストコンディションで行かせたいですね。色々やりたいけどね。消化不良を起こしてもしょうがないから」と冷静にチーム状況を判断できるのも歴戦の経験からきているものだろう。
気になる崎濱(秀)の様子を聞くと、「自分でかなり追い込んだ練習をしているので、逆にこちらがセーブをしている感じ」だという。「彼も勝ちたい気持ちが強くなっているので、準備はしっかりさせたいと思います」と全面サポートの構えだ。
福岡第一の初戦の相手は仙台大学附属明成高校(宮城県)。この6月に73歳で亡くなった佐藤久夫先生が手塩にかけて育て上げたチームでもある。その佐藤先生は井手口コーチにとっては目標であり、何度もアドバイスを仰いだバスケの師とも言える存在だ。
「バスケの神様っているんですね」
仙台大明成は佐藤先生の愛弟子ともいえる畠山俊樹コーチが引き継ぎ、指導者として初めて東京体育館のコートに立つ。その初舞台の相手となるのが井手口コーチ率いる福岡第一高校。それだけに熱戦が期待できないはずがない。
仙台大明成戦は12月24日第5試合、Cコート。運命ともいえる一戦を乗り越えられれば、福岡第一の勢いはさらに増していくはずだ。
文=入江美紀雄