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『B MY HERO!』
山﨑一渉が所属するラドフォード大学が8日、国立代々木競技場第二体育館で10日から13日まで行われるワールド・ユニバーシティ・バスケットボールシリーズに向けて、東京都のセントメリーズ・インターナショナルスクールで練習を行った。
しかし、そこに山﨑の姿はなかった。「一渉はリハビリをしているので、あとでコートに来ます」。チームのアシスタントコーチは、そう説明してくれた。
選手たちは、時差や気候の違いによる疲労を見せることもなく、声を出し、元気にコートを駆け回っていた。そこにようやく松葉づえをついて山﨑が姿を現したのは、練習が終わる頃だった。山﨑を見つけた同級生のケニヨン・ジャイルズが「一渉!」と言って手を振る。その後もチームメートたちが手を振ったり、微笑んだりしてようやくコートに現れた山﨑を迎えた。
「7月25日の練習で、リムにアタックして踏み込むときにヒザが内側に入って…」山﨑は、大ケガを負ったときのことを説明した。「痛みは全くなかった」そうで、「今もない」と言う。ただ「“やってしまった”というのは、なんとなくわかった」と振り返った。
検査の結果、右ヒザ前十字靭帯断裂、内側側副靭帯損傷、そして半月板損傷と判定された。
のちにコーチから聞いた話では、一番仲がいいジャイルズは、山﨑が負傷してコートを去ったあと泣いていたという。だが、山﨑はいたって冷静だ。
「自分の友達にも同じケガを乗り越えている人がたくさんいるし、NBA選手にもそういうケガから復帰した人がたくさんいる。友達からも『痛みがなくて、手術前にリハビリができているということは、結構いいこと』だと聞いたので、今年1年はたぶんプレーできないんですけど、しっかりリハビリをやって、自分と向き合って、足りないところをちゃんとやれる1年にしようかなと思っています」と、はきはきと答えた。
中でも、現在2度目の左ヒザ前十字靭帯断裂、そして内側側副靭帯損傷から復帰を目指す福岡大学附属大濠高校出身で、現在筑波大学2年の岩下准平の存在が大きいと言う。
「岩下とは前からすごく仲が良くて、よく話しています。彼が最初に前十字靭帯を切ったときは自分がウインターカップで優勝したんですけど、3年生のウインターカップですごく成長した姿で戻ってきて、(福大)大濠を優勝に導いたのを見ているので、そういう姿も励みになるし、今2度目、同じケガをして戦っている姿を見て、すごく励みになっています」と前向きだ。
「日本に来ると、やはりプレーしたいという気持ちがすごく大きくなってしまうということが改めてわかりました。でもSNSだったり、自分の知人だったり、いろいろな方が応援してくれているので、その人たちのためにも日本に行って、顔を見せたいと思いました」と山﨑は故郷への思いを口にした。
1シーズンのプレー資格を保持するために新たなシーズンはレッドシャツになるという。
「コートに戻ったら、いろいろできることがあると思う。そこを伸ばすのと、あとやっぱり体をもう1回、全身鍛え直したいと思っています」
孤独な、長い戦いは始まったばかり。だが、山﨑に悲愴感はない。温かく見守ってくれるコーチやチームメート、そして友人らの援護を背に、寄り道をしなければ得られないものを得て戻ってくるだけだ。
文=山脇明子