2019.07.24

【独占告白】吉田亜沙美が振り返るバスケ人生③「絶対的司令塔にまつわるエピソードとメッセージ」

フリーライター

惜しまれながら昨シーズン限りで現役生活にピリオドを打った吉田亜沙美。改めて言うまでもなくJX-ENEOSサンフラワーズ11連覇の立役者であり、女子日本代表を世界のトップレベルに押し上げた功労者だ。今回、彼女のバスケ人生を振り返るロングインタビューに成功。全3回でそれをお伝えしていく。

最終回は、第1、2回でお伝えできなかったエピソードや現役選手、ファンに向けた吉田のメッセージをお送りする。

取材・文=田島早苗

改めて引退を決めた理由「気持ちが限界に近付いてきたと感じた」

現役引退の理由を「一番は気持ちです」と吉田は改めて語った [写真]=兼子慎一郎

「一番は気持ちです。それと同じぐらい満足できるようなパフォーマンスができなくなったこと、自分の思い描いているバスケットに追いついていけてないことが歯がゆくなって。あとは絶対に勝たないといけないチームの中でキャプテンやポイントガードとして続けていくことに少し疲れてきたというか、気持ちの面で限界に近付いてきたと感じたこともあります。私は気持ちが上がってこないとプレーで表現できないタイプなので、このままズルズルと続けていても楽しめなくなるし、チームにも迷惑をかける。だったら11連覇も達成できたし、チームも若手を育てていく時期になってきているので、今かなと思って引退を決めました。

 リオデジャネイロオリンピックの切符を自分たちの力で取って、大会でも日本のバスケットができた。個人としても良いパフォーマンスが発揮できて満足感を満たしてくれたので、メダルには届かなかったけれど、東京オリンピックに向けてのモチベーションは上がってこなかったですね」

思い出の試合3選

アジア2連覇、そしてリオ五輪出場を決めた2015年のFIBA女子アジア選手権が思い出の大会 [写真]=fiba.com

①悲願の日本一!高校3年生のインターハイ
「ミニバスは千葉県のチームで、私は東京都民だったこともあり、全国予選には出られませんでした。だからミニバスで全国大会を経験する機会はなかったのですが、東京成徳大学中学校では1、2年生の時に全国優勝を経験させてもらった。だけど、中学3年生の時は関東大会で負けて全国大会の連覇はできず。そんなこともあったので、一緒に高校に進んだ同級生たちとはずっと『自分たちの代で優勝したいね』と話をしていました。高校1、2年とあと一歩のところで優勝に届かなかった中、3年生になって下坂先生の下で優勝できたことはうれしかったですね。

 特に私は中学3年生の関東大会で負けた時、泣いている私に(高校のコーチの)下坂須美子先生が『高校で一緒に頑張ろう』と言ってくれた一言がなかったら、バスケットを辞めていたかもしれないし、違う学校に進んで中途半端にやっていたかもしれなかったので。

 3年生のインターハイは、2年生のウインターカップで負けた後からずっと、悔しい思いを絶対に忘れてはいけないと思いながら取り組んできて、キャプテンになったこともあって覚悟を決めて臨んだ大会でした」

②ラストダンスとなったWリーグの2018‐19シーズン
「先シーズンは、『このチームで優勝したい』とすごく強く思ったシーズンでした。もちろん、それまでのシーズンも優勝への思いはあったけれど、個人的に最後のシーズンだと感じていたからかもしれません。それに麻菜美(藤岡)や樹奈(梅沢カディシャ)というフレッシュな2人がスタートになって、他にもアコ(石原愛子)だったりユラ(宮崎早織)だったりが、後から出て流れを変えて。新しいバスケットスタイルが確立されていく中で『優勝させてあげたい』という思いが強かった。前のシーズンからスタートが2人変わってもできるということを証明したかったのもありましたね」

③リオデジャネイロオリンピック予選を兼ねたアジア選手権(2015年)
「2020年は自国開催のオリンピックなので、地元代表として出場できる可能性が高かった。だから私としてはそれまで2回、アジア選手権、世界最終予選で負けていた思いもあったので、どうしても東京オリンピックの前のリオデジャネイロオリンピックに自力で行きたいと考えていました。他国とのサバイバルの中でチャンピオンしかアジア代表になれないという状況で勝ちたかった。

 2013年に43年ぶりにアジア選手権を優勝した時、周りはまぐれだと思っていた人もいたと思います。でも、自分たちはそうではないと感じていたので、それを証明するためにもこの大会で力の差を示さないといけない、結果を残さないといけないという思いは強かったですね。そういうプレッシャーの中で連覇を達成してオリンピックの切符も勝ち取れた。個人としては、それまで一緒に悔しい思いをしてきたレイさん(三谷藍/元富士通レッドウェーブ)が一緒だったこともうれしかったですね。これが3つの中で一番思い出深い大会かもしれないです」

今後もバスケットの魅力を伝える「一度見ればバスケットの楽しさは伝わるはず」

現役引退後はバスケをメジャーにすることに協力したいという [写真]=伊藤 大允

「現役の時にやり残したことに『オリンピックでメダル取ってメジャースポーツにしたい』という思いがあるので、これからもバスケットの楽しさを広めて、メジャースポーツにしていくことには全面的に協力していきたいと思っています(※6月にJBAアンバサダー就任)。

 バスケットは一度見ればその楽しさは伝わるはず。そのためにも、会場に来てもらうのにはどうすればいいか、どうしたらバスケットに興味を持ってもらえるか。特に女子はプロリーグではないのでお客さんも男子ほど入らない。その中でどう変えていくかは必要になってくると感じています」

ミニバスからWリーグまで現役選手たちにメッセージ「自分の武器を一つでも持ってほしい」

「覚悟を持って、強い気持ちを持っていろんなことに挑戦してほしいです。私自身、目標に向かう姿勢や常にバスケットが上手くなりたいという気持ちはブレずにやってきました。だからこそ、ここまでできたのかなと感じています

 Wリーグの選手には、どのチームのどの選手でも『日本代表に入ってオリンピックに出たい』という気持ちを持ってほしいですね。そうならないと日本は強くならないし、リーグが大きくならない。オリンピックで金メダルを目指しているのであればなおさらだと感じています。

 ミニバスや中学生高校生など学生たちにもオリンピックの夢を持ってほしいし、努力を続ければ叶うと思っています。その中で何か一つ自分の武器を持ってほしいですね。

『何が得意ですか』と聞かれた時に絶対に誰にも負けないものを持つこと。好きだからバスケットをしているわけで、絶対に自分が得意とするものはあるはずです。自分が得意だと感じていることには自信を持ってほしいです。ちなみに、私はディフェンスだけは負けないと思っていました。膝のケガをしてからは、それまでと比べて動けなくなったのでパスに変わりましたが」

ファンへの感謝の言葉「ファンの前で引退の挨拶ができなかったことは心残り」

JX-ENEOSサンフラワーズのファンの方はいつも温かったし、負けたとしてもずっと応援してくれました。それこそ私が入団する前からファンだった方たちは、私のような生意気なのが入ってきても受け入れてくれて(笑)。13年間、一緒に戦ってくれたことがうれしかったし、何より力になりました。その思いがプレーで伝わっていれば私としては幸せだし、これからもサンフラワーズを応援してほしいです。

 また、東京オリンピックも近いですし、日本のバスケット全体を応援してほしいなと思います。ファンの方の前で引退の挨拶ができなかったことは本当に申し訳なくて、それが心残りではありますが、今は応援してくれた全ての方に”ありがとうございました”という感謝の気持ちでいっぱいです」

インタビューの最後は応援してくれたすべての人に感謝の言葉を述べた吉田 [写真]=兼子慎一郎

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