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なぜ会見に歌詞を忍ばせたのか…カーHCと歌姫をつないだ“スウィフト・チャレンジ”

“歌姫”テイラー・スウィフトとウォリアーズを指揮するスティーブ・カーHC[写真]=Getty Images

■指揮官が仕掛けた“スウィフト・チャレンジ”

 ゴールデンステイト・ウォリアーズと2年の契約延長に合意したスティーブ・カーヘッドコーチ(HC)が、仕事場で誰も想像しないような驚きの“言葉遊び”を楽しんでいたようだ。

 現地メディア『ESPN』によると、カーHCは2022-23シーズンの記者会見で、テイラー・スウィフトの楽曲「All Too Well」の歌詞を密かに織り込んでいたという。一見すると耳を疑うような小ネタだが、勝負師であるカーHCが、記者たちの前で音楽界のトップスターの一節を忍ばせていたのであれば、実にウィットに富んだ遊びだ。

 そのさりげなさは、実に巧妙だった。最初の事例は、2023年3月のヒューストン・ロケッツ戦後の会見だった。カーHCは何気ない試合総括のなかで、「I walked through the door of the locker room at halftime(=ハーフタイムにロッカールームのドアをくぐった)」と口にした。これは、「All Too Well」の冒頭に重なる一節である。

■家族がつないだ会見映像、本人にも届いた驚きの試み

昨年11月に記者会見へ出席したカーHC[写真]=Getty Images


 カーHCはその後も、長いシーズンを通して「All Too Well」の歌詞を会見の中に少しずつ忍ばせていったという。ウォリアーズの関係者の一部はその試みを認識していたものの、カーHCはチーム内でもこの件を表立って広めないよう頼んでいたそうだ。

 やがて、息子のマシュー・カーが父の会見映像をつなぎ合わせ、まるでカーHCが1曲を丸ごと朗読しているかのような編集動画を作成した。その動画は家族内で共有され、最終的にはスウィフト本人のもとにも届いたという。カーHCによれば、スウィフトは「待って、これって本当なの?」と驚きつつ、この試みを「創造的で、面白い」と受け止めたそうだ。さらに、SNSに投稿してよいかと尋ねたものの、カーHCは公開を控えてもらうよう頼んだという。

 スウィフトは言うまでもなく、現代ポップミュージックを象徴するアーティストだ。“All Too Well”は、2012年リリースのアルバム『Red』の代表曲であり、映画『スパイダーマン』シリーズのミステリオ役で知られる当時の交際相手、ジェイク・ジレンホールとの関係性を歌ったものだとされている。2021年には、再録音版が発表。10分版の“All Too Well (Taylor’s Version)”はストリーミングサービスのグローバルチャートでも1位に輝いた。

2015年、テイラーのLA公演にコービーが来場[写真]=Getty Images


 恋愛の記憶を細部までたぐり寄せる「All Too Well」の歌詞を引用しながら、ある夜はステフィン・カリーを称え、ある夜はロードでの苦戦に苦言を呈していた。そんなことを、一体誰が想像できただろうか。なお、カーHCがこの“スウィフト・チャレンジ”を行っていた2022-23シーズン、ウォリアーズは王者として連覇を目指しながらも、レギュラーシーズンを西地区6位で終え、プレーオフでは2回戦でロサンゼルス・レイカーズに敗れている。

■名将とポップスターをつないだコート外のメッセージ

 カーHCが、なぜスウィフトの歌詞を引用したのか。それは単に、彼女が世界的なポップスターだからではないのかもしれない。

 この試みが始まる前の2022年5月、ウォリアーズ指揮官はダラス・マーベリックスとのカンファレンス・ファイナルの試合前会見で、テキサス州ユバルディのロブ小学校で起きた銃乱射事件に対して、怒りを顕にした。「バスケットボールの話をするつもりはない」と切り出し、机を叩きながら「もううんざりだ。いつになったら何か行動を起こすんだ」と訴えたあの会見は、アメリカの根深い銃社会問題に対しての力強いメッセージとなり、全米に大きな反響を呼んだ。

現地時間2022年5月24日、銃乱射事件の犠牲者に黙祷を捧げるウォリアーズ[写真]=Getty Images


 そしてスウィフトも当時、自身のTwitter(現X)でカーHCのメッセージを支持した。自身の投稿では、ユバルディを含む相次ぐ銃事件への怒りと悲しみの気持ちを表明すると同時に、「スティーブの言葉はあまりにも真実で、そして深く突き刺さります」と添え、彼の言葉に耳を傾けるよう訴えた。

 時系列から考えるなら、カーHCの“スウィフト・チャレンジ”は、自身の思いに共感し、声を重ねてくれたスウィフトへの、ささやかな感謝の表れだったのかもしれない。

 ポップスターの楽曲が、王朝を築いた名将の会見にひっそり紛れ込み、数年後に本人へ届く。カーHCのキャリアの余白に残された粋な逸話は、コート外の名場面として語り継がれていきそうだ。

文=Meiji

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