
2025.06.11
5月6日、国立代々木競技場第2体育館にてWリーグのオールスターゲームが行われたが、その試合でWリーグ担当審判員としてのキャリアを終えた人たちがいる。それが渡邊諭(さとし)さんと整(ひとし)さんの双子の審判員だ。
「これまでずっとWリーグの方たちに支えられながら、最後のオールスターまで審判をすることができて本当によかったです。(オールスターでは)選手に合わせるようにしていましたが、シーズンより疲れましたね(笑)。でも、楽しかったです」(諭)
「最後までこのような形で携わらせていただいたことにうれしく思いますし、続けていてよかったなという気がします。(オールスターは)選手も自由にやっていたので、我々が特別なことをやる必要はない、合わせていけばいいんだと思って楽しませていただきました」(整)
長きにわたってWリーグの試合を担当した諭さんと整さんについては、Wリーグの試合を多く見てきた人には、馴染みの顔と言えるだろう。S級ライセンス審判員の定年が55歳のため、2人は2024-25シーズンがWリーグでのラストシーズンとなった。
諭さんと整さんがWリーグの公式戦で最後に笛を吹いたのは4月14日のプレーオフ・ファイナルの第5戦。富士通レッドウェーブとデンソーアイリスとで争われたファイナルは5名の審判員が試合ごとに組み合わせを変えながら担当した。諭さんは第1と第3戦、整さんは第2戦と第4戦。そして最終戦となる第5戦は2人そろってコートに立つことになった。
とはいえ、どちらか先に3勝した方が優勝となる3戦先勝方式のファイナルのため、第5戦が行われない可能性もあった。それでも優勝候補同士のファイナルは接戦の末に最終戦へともつれることに。そして、諭さんと整さんがそろってWリーグ最後の試合を迎えることとなったのだ。
「ファンの方も含めてWリーグ関係者の方たちみんなが待っていたのかなと思います。巡り合わせというか、運命かなと感じました」と整さんが言えば、諭さんも「5戦目で一緒に吹くということは分かっていたのですが、5戦目はないかもしれないとも思っていたので、『最後は2人で吹いて終われよ』という天からの授かリ、教えなのかなと思いました。一緒に吹けてよかったです」と、目を細める。
高校時代の交通事故により選手の道を断念した2人は、バスケットボールに関わりたいという思いと、「中学時代から興味を持っていた」(諭)、「見ていて格好いいと感じていた」(整)ということからレフェリーに転向。「全国大会などの大きな大会を目指すことができる」(整)と、審判員として研鑽を磨いてきた。シーズンごとに表彰されるWリーグの『レフリー オブ ザ イヤー』は2015-16シーズンから設けられた賞だが、2024-25シーズンは諭さんが受賞。整さんも過去に5回受賞しており、これまで9回(2020-21シーズンは新型コロナウイルスの影響でシーズンが中止となり該当者なし)の表彰の内、2人が8回受賞している。
ここ最近ではWリーグとBリーグのどちらも笛を吹く審判員は増えている。かつては諭さんも整さんも男女のトップリーグを吹いていたが、ここ数年はWリーグに専念。それには「Wリーグに育ててもらったので、最後までWリーグで」という共通の思いがあったからだという。
そんな2人から見る日本の女子バスケットボールの面白さとは?
「緻密さがありますよね。そういう中で正確さもあって。それから高さも出てきましたし、スピードもあります。そういったことが非常に魅力的です」(整)
「一つひとつのプレーが緻密で、チームプレーがあり、選手が一生懸命。それが世界に通用しているところだし、シュート力も向上している。スピードもあって面白いです」(諭)
ともに『緻密』という言葉を用いたが、「だからこそ、いろいろなところでいろいろなことが起こるので目を配らないといけない。でも、そこが面白さであり、すごさです」とも口をそろえた。
女子アジアカップ5連覇や東京オリンピックで銀メダル獲得など、ここ10〜15年は国際大会で好成績を残している女子日本代表。だが、過去には世界の高い壁に阻まれ思うように結果が出せなかった時期もあった。そうした頃からWリーグに携わってきた2人は、日本女子バスケットボールの躍進、成長を近くで見てきた人たちともいえる。
「世界レベルの選手たちと一緒に時間を共有できてうれしく思います」(諭)
「選手たちと同じコートに立てたことは貴重な時間でした」(整)
選手へのリスペクトをこのように表した2人は、後に続く審判員へのメッセージも送ってくれた。
「私は生のゲームを見て、自分で考える時間は必要だと思っていました。もちろん、コート上での時間も必要だと思いますが、観客や選手の反応を(会場で)見て感じることは(審判の)レベルアップにつながるのかなと。選手やコーチとのコミュニケーションの取り方など現場でないと感じ取れないことはあると思うので、ぜひ生のゲームを見てほしいなと感じます」(整)
「私も同じ考えですね。あとはプレーの見極め。これも自分の足を運んで、自分の目で確かめて、それでどうだったのかということを判断し、吹く吹かないないを決める。ルールがありますが、選手の思い、チームの思いも感じながらやれるといいのかなと。そうすると、観客とベンチとレフェリーの一体感が出てくるのかなと感じます」(諭)
コート上の振る舞いと同じく、取材時も背筋を伸ばし毅然と質問に受け答えする様子からはまだまだWリーグで吹いてほしいとも感じてしまう。そんな話になると、「いや、もう十分やらせていただきました。ファンの方たちにも応援していただきましたし、良い時間を過ごさせてもらってよかった、ありがたかったと思っています」と整さんは笑顔を見せる。そして諭さんがそこにつけ加えるように「いろいろな方に支えられて今日まで来たので本当に感謝しかないです。ありがとうございましたという思いです」と、感謝の言葉を発した。
試合は選手やコーチだけでは成り立たない。審判員はなくてはならない存在だ。長い間Wリーグを支えてくれた感謝の思いとともに、渡邊諭さんと渡邊整さんの輝かしいキャリアに敬意を表したい。
文=田島早苗
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