2025.12.29
その涙は、単なる敗戦の悔しさだけではなかったはずだ。エースの佐藤凪が苦しみながらシュートを決めていく中、自らのシュートでそれをフォローすることができなかった。12月29日、東京体育館で行われた「SoftBank ウインターカップ2025 令和7年度 第78回全国高等学校バスケットボール選手権大会」男子決勝。初優勝を目指した東山高校(京都府)は71−97で福岡大学附属大濠高校(福岡県)に敗れた。
試合終了のブザーが鳴り響く中、2年生の中村颯斗は顔を覆った。しかし、この大会で彼が見せた飛躍は、東山の未来を照らす確かな光となった。
「死ぬほど練習してきたので、絶対に入れてくれると思ってパスを出しています」
そう語ったのは、司令塔も務める佐藤凪だ。初戦の中部大学第一高校(愛知県)戦は試合終盤まで一進一退の展開となった。苦しい時間帯に中村の3ポイントが何度もチームを救った。佐藤は中村の成長を、誰よりも近くで見てきた。
この日の中村は第4クォーター残り7分36秒に決めた4本目の3ポイントシュートを皮切りに、たった1分23秒の間に3本の3ポイントシュートを含む連続11得点をマークしてみせた。
「颯斗は皆が知らないところで、本当に死ぬほど努力を積み重ねてきました。今日は颯斗のゲームだった。彼を100パーセント信じているし、入っても入らなくても、颯斗の3ポイントは僕たちの武器。自信を持って打ち続けてほしい」
エースからの全幅の信頼。それは中村が日々の練習で勝ち取ったものだ。かつては好不調の波が激しく、判断に迷いが見られる場面もあった。しかし今大会の中村は、迷いなくリングを射抜いた。6試合で94得点(平均15.7得点)、3ポイントシュートの確率は28.0パーセントだったものの、成功数はチームトップの23本を数えた。
指揮官である大澤徹也ヘッドコーチは、中村に対して極めて高いハードルを設定している。大澤コーチが描く中村の理想像は、実に贅沢なものだ。
「颯斗にはよく言うんです。『目指すは(瀬川)琉久と凪のミックスだね』って。本人には『先生、それはハードルが高すぎます』と言われますけどね(笑)」
昨年度のエース・瀬川琉久(現千葉ジェッツ)が持つ、圧倒的なフィジカルと得点への嗅覚。そして佐藤凪が持つ、精密なスキルと勝負どころでのクラッチ能力。大澤コーチは、中村にはその両方を兼ね備えるポテンシャルがあると見ている。
中村のアイデンティティを語る上で欠かせないのが、四日市メリノール学院中学出身という経歴だ。今大会、メインコートには同校出身の選手が数多く立っていた。優勝した福大大濠の榎木璃旺は1つ上の先輩であり、本田蕗以や櫻井照大は同級生、今大会で得点を量産した北陸学院高校(石川県)の藤原弘大も、全国制覇を目指したチームメートだ。
今大会では四日市メリノール学院中学出身の選手の活躍が目立ったが、同級生の活躍について問われると、中村は笑顔を交えながらこう答えた。
「同じ中学でやってきた仲間が活躍しているのは、やっぱり意識します。あいつらがやっているなら、自分も負けてられない。お互いに刺激し合って、この舞台で戦えるのは本当に幸せなこと。でも、最後は自分が勝ちたかった」

決勝ではメリノール学院中の先輩、榎木璃旺とマッチアップ [写真]=伊藤大允
その「勝ちたかった」という思いは、来シーズンへと引き継がれる。
「歴代の先輩たちを見ても、東山はまだ一度もウインターカップで優勝したことがありません。来年は僕たちが最上級生になる。凪さんたちが残してくれた財産を胸に、今までお世話になった先輩たちの分まで背負って、次こそは必ず日本一を獲りたい」
中村颯斗が決勝で流した涙は、エースから認められた努力の証であり、同時に来季への決意でもあった。コーチが描く理想像に近づけるかどうかは、これからの1年にかかっている。
文=入江美紀雄
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