2026.01.15

ゴール下でハードにプレーを続けた [写真]=伊藤大允
まさにMVP級の働きだった。決勝では3ポイント3本(4本中)を含む17得点11リバウンドを記録。3年ぶりとなるENEOSの皇后杯優勝に貢献したプレッチェル レイン アシュテンは、初めて味わう日本一の喜びをこう表現した。
「日本で歴史のある皇后杯に参加でき、チームのみんなで勝利をつかんだことがすごくうれしい。今シーズンから外国籍選手が導入され、その貴重で特別な年の優勝に携われて光栄です」
チームメートからは名前の「アシュテン」または「アシュ」と呼ばれ、ENEOSでは主にシックスマンとしてコートに立つ。196センチのプレッチェルが起用されると、梅沢カディシャ樹奈(188センチ)やオコエ桃仁花(182センチ)が4番、馬瓜エブリンが(180センチ)が3番を務めることになり、その高さは脅威となる。また、リリースの速い3ポイントシュートを得意としているだけに、その『ストレッチ5』のプレーに対戦相手は手を焼いたのだ。
今シーズンのENEOSはディフェンスに課題があり、現在、Wリーグでの順位はプレーオフ圏外の5位。しかし皇后杯では、一戦一戦、勝利を重ねていくことで自信をつけていった。そのきっかけを作ったのが、日立ハイテク クーガーズとの準々決勝、残り33.8秒で決めたプレッチェルの起死回生となる逆転3ポイントだった。
激闘を乗り越えたことでチームディフェンスが徐々に上向き、デンソーアイリスとの決勝では前半からリバウンドで圧倒。得点源である髙田真希と赤穂ひまわりに仕事をさせないタイトなディフェンスを披露し、76−62のスコアで勝利をつかんだ。皇后杯でディフェンスが向上した理由を、プレッチェルはこのように考察する。
「ディフェンスはメンタルの勝負であり、相手の特徴を理解することが大切。私自身、最初は日本の選手やチームがどういうプレーをするか分かりませんでしたが、デンソーとトヨタとはリーグで4回も試合をしたので、今では何をしてくるか分かるようになりました。相手の特徴を理解したことがリーグと皇后杯の違いで、私たちはディフェンスを強めたことで勝ち方を覚えました」
決勝で11本もぎ取ったリバウンドについては「自分がコントロールできることの一つとして、リバウンドがあります。シュートが入る、入らないはコントロールできないにしても、リバウンドとディフェンスをハードにやり続けることはコントロールできるので、この2つを常に意識しています。皇后杯のようなビッグゲームであっても、普段のリーグ戦であっても、常にリバウンドとディフェンスを頑張るマインドを持ち続けることで、大きな舞台で自分にプレッシャーをかけないようにしています」と試合に臨む心構えを話してくれた。
また、Wリーグで42.42%の確率を誇るクイックリリースの3ポイントについては、「小さい時からシュートを打つのが好きで、大学時代はシューターでした」と言うように、効果的に決まる彼女の3ポイントは、ENEOSの新しい武器になったといえるだろう。
世界の大学ランキングでトップ5の常連に名を連ね、バスケットボールをはじめとするスポーツでもトップレベルの実績を誇る、文武両道の名門・スタンフォード大学出身。3年次の2022年にはNCAAトーナメントでファイナル4(準決勝)に進み、2年次の2021年には全米チャンピオンに輝いている。同年のエリート8(準々決勝)では、今野紀花(デンソー)が所属するルイビル大学と対戦。今野は当時のことを「彼女にやられたのですごく覚えている」という。
「スタンフォードとの試合は接戦だったんですけど、アシュテンのスリーが後半にバンバンバン!と決まって逆転負けを食らってしまいました。今日(決勝)もスリーを決められてしまったので、本当に悔しいです。あの身長で外からスナイパーのように打つので守りにくいし、コンテストしても上から打たれてしまうので、これからはもっと対策しなければなりません。彼女と日本で戦えることはうれしいですし、感慨深いものがあります。でも、次に対戦するときは負けないように、自分も成長します」

ENEOSの体育館に飾られる栄光の歴史 [写真]=小永吉陽子
これまでWリーグは「通算5年以上日本に在留」を条件に外国籍選手の登録を認めてきたが、今シーズンからはさらなる強化と発展を求めて、それらの条件を撤廃した外国籍選手の導入に踏み切っている。留学生以外の外国籍選手がWリーグでプレーするのは、1992−93シーズン以来、実に33年ぶりのことになる。
大学卒業後のプレッチェルは、フランスやハンガリーでプレーし、2023年にはロスターには残れなかったものの、WNBAのドラフト全体34位で指名を受けている。これまで、主に欧米で活動していた選手が、まったく馴染みのない日本という国でプレーすることに決めた理由は何だろうか。
「日本と欧米はバスケのスタイルも文化もまったく違います。けれども、日本のバスケットボールが強いことは分かっていたので、日本のリーグが外国籍を久々に導入すると聞いたとき、日本でプレーするいい機会だと思い、チャレンジを決めました。成長していくために、いろんな国でプレーをしてみたかったのです。
アメリカでも高さを生かした役割をこなしながら、シューターとしてプレーしてきたので、そこはあまり変わらず、日本でも自分の仕事に集中できると思いました。ただ、日本の選手は小さいし、走るし、速いので、そこへのアジャストは大変でした。また、土日の連戦を経験したことがなかったので、自分がどうフィットするかを探しながらプレーしていました。今はだんだん慣れてきたので、皇后杯のようなハードスケジュールでも戦えたと感じています」
今大会、ENEOSが成し遂げた28度目の優勝は、皇后杯における最多記録である。日本でもっとも権威があるトーナメントに臨むにあたり、彼女の脳裏には、来日してからの半年あまり、毎日のようにチームメイトと汗を流した体育館の光景が刻まれていたという。
「ENEOSの体育館には、リーグや皇后杯で優勝したバナーがたくさん飾られているので、毎日、体育館に行くたびにチームの伝統を感じていました。同時に、体育館に飾られたバナーを見るたびに、コーチやチームメイトたちにとって、この皇后杯がどれほど大切な大会なのか、身に染みて感じるようになりました。だから私も特別な意味を持ちながら、この大会を戦ったのです」
チームカラーの黄色と緑を基調とした体育館の壁に、今度は自身が貢献した優勝バナーが飾られる日がやって来る。ENEOSサンフラワーズの歴史の一員になれたことをうれしく思いながら、プレッチェルは残りのシーズンに向けての目標を語った。その言葉には、24歳の若き可能性と、日本の文化を尊重しながら学び続ける姿があった。
「残りのシーズン、まだ重要な試合が残っています。私自身、シーズン中にユラ(宮崎)とエブリン(馬瓜)の知識と経験に救われたことがあるので、2人からリーダーシップを学び、もっと成長していきたいです。ユラがラストシーズンなので、ユラのためにも勝ちたいという気持ちを持って、チームのみんなで勝利を目指します」
文=小永吉陽子
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