2026.01.20
2024年4月23日、三井住友銀行のWリーグ参入が発表された。同チームは1955年創部と歴史があり、これまで社会人連盟に属して地域リーグや全日本社会人チャンピオンシップを主体に戦ってきた。
「『仕事』と『スポーツ』を両立させた女子アスリートの未来を見据えたキャリアモデルの確立」を目指して臨んだ1年目の今シーズン(2025−26)、チーム名も新たに「SMBC TOKYO SOLUA」とし、17名の選手がWリーグの世界へ足を踏み入れた。
そのうち新人3名と移籍1名を除いた13名は、かつて実業団チームとして入部した選手たち。そのため、彼女たちにとってもWリーグ参入はバスケ人生にとどまらず、自身の人生設計の修正をも余儀なくされる大きな転機となった。それぞれのWリーグ挑戦に至った経緯や現在の思いとは。今回は実業団でのキャリアも長い中村和泉と熊倉菜々子をピックアップ。最初は先発センターを担う熊倉についてお届けする。
取材・文=田島早苗

チームでは副キャプテンを務める [写真]=W LEAGUE
「ヘッドコーチの今野(駿)さんや秋山(皓太)アシスタントコーチ、トレーナーの方たちから教えてもらう一つひとつが新鮮なことばかりで、それが本当に楽しいなって思って。専門的な知識や動き、戦略的なこと、それにワークアウトも今まではなかったので、毎日得るものが多いです」
熊倉菜々子は、終盤に差し掛かった1年目のシーズンについて笑顔でこう語った。
昨シーズンより、ENEOSサンフラワーズや女子日本代表でアシスタントコーチを務めた今野氏がヘッドコーチに就任。今シーズンからはトレーナーやマネジャーといったスタッフ陣もWリーグのチームや日本代表に携わった経験のあるメンバーが加わり、管理栄養士による食事管理など、チームを取り巻く環境は大きく変わった。
熊倉は5年間、実業団チームの一員として活動してきた。実業団ではどうしても仕事が優先となるため、平日2日と土日の週4日の活動のうち、平日では「残業で30分しか練習できなかったり、最悪は練習に行けない日が続いたりして、1週間ぶりにバスケットをするといったことも結構ありました」という。それが、今シーズンからは一変。新指揮官が求める練習の量や質、選手としての活動時間も増え、「5年間が一気に凝縮されたような1年」を過ごしている。
そんな目まぐるしい日々の中でも、体やスキルなどの変化は如実に表れた。体の面では体重や体脂肪などの数値が変わり、プレーでは「実業団でやっていたころの映像と見て比べてもスピードや体の動きが違う」ことを実感。実際にWリーグの試合では「目に見えてチームに貢献できているというわけではないけれど、シーズンを通して外国籍選手への戦い方が分かってきましたし、高さやパワーで負けることはあっても、圧倒的にやられることが少し減ったかなと思います」と、手応えもつかんだ。そうした練習の成果を発揮できたときや数字として自身の成長を感じられることが、冒頭の『楽しい』というコメントにもつながっているのだ。
「勝負の世界に入ったので、バスケットを一番に考えるようになりました。食事一つとってもすごく気にするようになったし、すべてがバスケットにつながる考え方になりましたね」
このように語った熊倉は、「最初に教えてもらったときに変わった実感があったので、それなら自分からもっと聞いたり、取り組んだりした方がより身につくだろう」ということから、今はトレーナーたちに自らが率先してアドバイスを聞きに行っている。
なお、「聞いたことが全部的確に返ってくるので何でも聞きたくなるというか。だから“私から”というよりは、そういう気持ちにさせてもらっているという感じです」と、スタッフたちへの感謝を口にするあたりは、謙虚な彼女の性格を表しているといえる。

大学以来の外国籍選手とのマッチアップを経験 [写真]=SMBC TOKYO SOLUA
実は熊倉、Wリーグ参入に際し、一時は「Wリーグ参戦のタイミングで辞めようかなと少し思っていた」という。先に挙げたように勤務時間と間違いなく増えるであろうバスケットに掛かる時間を考えてのこともあるが、大きかったのは少し前から「バスケットを辞めたあとのキャリアを考えていた」ことだ。
年齢的にも次のキャリアを考えるころ。さらに仕事も「お客さんとのやり取りや成果なども目に見えてきて楽しいなと思う時期だった」のだから無理もないだろう。それでもWリーグへのチャレンジを選んだのは、「Wリーグにこの歳でこうした環境の中で経験できることはないし、5年間、このチームでやってきて、Wリーグに挑戦できる機会があるのなら、『やらないで後悔するよりは』という思いがあった」から。「本当にいろいろと考えた結果、その結論に至りました」という言葉には、相当に熟慮したことがうかがえた。
現在はWリーグ参戦により以前とは異なる職場での勤務だが、「(会社から)すごくサポートしてもらっていて、『仕事をする』ことが崩れずにできている。仕事と競技の両立ができていることでより充実していると感じます」と、仕事の継続が、自身にとって一層の充実感を得ている要因となっているそうだ。
簡単な決断ではなく、大きな覚悟も必要だったはずだ。だが熊倉は、清々しい表情で「もし今、やらない世界線にいたら、ちょっとモヤモヤした感じがあると思うので、やって良かったと思っています」と語った。

「仕事と競技の両立ができていることでより充実している」と熊倉 [写真]=SMBC TOKYO SOLUA
SMBCは2025年12月29日時点で20試合を戦ったが、チームの中で唯一全試合にスターターとして名を連ねたのが熊倉で、試合では体を張ったプレーで奮闘している。それこそマッチアップする外国籍の選手たちは、180センチ台はもとより190センチを超える選手ばかり。
「私はずっと5番ポジションで大学のときは留学生とも対戦していました。でも、実業団ではそういった選手がいなかったので、今は大学時代を思い出した感じがあります」
こう語る177センチのセンターに掛かる負担は大きい。それでも怯むことなく大型選手と対峙し、数字に表れないところでも献身的に動く姿は文字通り、“縁の下”で支える存在だ。
「上手い人は、いなすようなプレーができると思うのですが、私はそれができなくて。でも、うまいプレーはできなくても泥臭いプレーは常にやろうと思っていて、当たり前ですが、試合に出させてもらってる以上、全力でとはいつも思っています」
熊倉はここまでを振り返り、大変な時期を乗り越えられたのは仲間の存在が大きかったと強調する。互いに声を掛け合ってきたからこそ頑張れたのだとも。そしてチームメートについてはこうも教えてくれた。
「全員が自分の役割を探してるというか、試合に出ている人も出られていない人も、『チームのために』という思いでやっているのをすごく感じます。(対戦相手の)アジャストでも相手役の選手たちは誰も腐らずにやっていて、みんなが強い責任感を持っています」
だからこそ、自身も仲間のためにという意識は強い。
記念すべき初勝利となった10月26日の姫路イーグレッツ戦は、「本当にうれしくて。それをみんなで味わうことができたので、もう一回みんなで味わいたいという思いは常に持っています」と、大切なチームメートと最高の瞬間を分かち合えたときでもあった。
「社会人リーグのときはある程度勝ってきたチームだったのですが、このときは(前シーズンも含めて)10か月ぶりぐらいの勝ちだったんです。それまできつい練習もしてきたので、そういったことが全部が報われたというか、少し心が軽くなったのはありますね」
再開するWリーグの試合は1月31日から。その試合に向けては、「プレータイムをもらっている分、目に見えるもので残せたら。残り4試合、今までの汚名返上じゃないですけど、最後にそれができたらなと思います」と意気込んだ。
「あっという間だった」というシーズンも終盤戦。SMBCの不動のセンターは、これまでと変わらず、応援してくれる人たちのため、そしてチームメートたちの思いも背負ってコートに立つ。
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