8時間前

大ケガから2年、広島・寺嶋良が辿り着いた境地「以前の自分を超えたと言われるように」

度重なる負傷を乗り越え、司令塔として広島をけん引する寺嶋[写真]=B.LEAGUE
広島のスポーツライター

 人生で初めての大ケガから2年が経った。

「自分の思い通りにいくことがほぼなかった2年だったなと思います。様々なものを失ったけど、それでもいろんな発見もあったので、いつか振り返った時に、この2年があってよかったなと思えるんじゃないかなと思います」

 2024年3月3日、広島ドラゴンフライズ寺嶋良千葉ジェッツ戦で右膝を負傷し、担架で運ばれてコートを後にした。検査の結果は右大腿骨内顆骨挫傷、右脛骨近位骨挫傷、右膝内側側副靱帯損傷の大ケガ。当初は全治8〜10週間の診断だった。

 だが、10週間が経過した頃、検査で右膝内側半月板損傷が判明して追加の手術を余儀なくされた。順調に復帰へと歩んでいると思っていた中での離脱期間の延長。チームのBリーグ初制覇もただベンチで見守るしかなかった。

23-24シーズンのファイナルでは病院から一時退院し、大舞台で戦う仲間たちをベンチから見守った[写真]=B.LEAGUE


 そこから長いリハビリを乗り越えて、2025年1月に復帰を果たした。ホームでの長崎ヴェルカ戦、寺嶋は速攻からのレイアップと3ポイントシュートでチームを逆転へと勢いづける連続得点を決めた。3ポイントを決めた直後には感情を解き放つように吠え、ホームブースターの大歓声に包まれた。

「自分のキャリアを振り返ったときに、僕を1番象徴する試合だと思います。たくさんの人に応援してもらえたし、応援される選手になりたいとずっと思っていた中で、試合の歓声を聞いた時にはこれだけ応援される選手だったんだと実感しました」

 昨シーズンはB1リーグ32試合に出場し、1試合平均でプレー時間19分15秒、6.2得点を記録。完全復活へと歩みを進めていた。しかし、新シーズンに向けて動き出そうとした矢先、違和感を覚えて精密検査を受けた結果、右膝は再手術が必要な状態であることが判明。再び離脱を強いられて、またリハビリ生活へと逆戻りした。

長崎戦で復帰を果たすも、オフに再手術を余儀なくされる[写真]=B.LEAGUE

■「僕が何をしたんだろう」…理不尽への抗い

「なんかもう、本当に、僕が何をしたんだろうってぐらい理不尽だったんすよね」

 度重なる手術とリハビリの日々。「もう治らないんじゃないかな」。最悪が頭をよぎって絶望の淵にもいた。トレーナーの元へ通い続け、日々の細かいケアもして、奥さんと一緒に岡山のお寺に行ってお祓いも受けた。「もうやれることは全てやっているような状態でした」。

 そこから這い上がり、昨年12月に寺嶋は2度目の復帰を果たした。数々の困難を乗り越え、強くなってコートに戻ってきた。「よほどの理不尽があっても、それに抗う精神力はすごくついたと思います。よっぽどなんかあっても大丈夫なんじゃないかなって僕は思いますね」と寺嶋は笑みをこぼす。

苦難の果てに「よっぽどなんかあっても大丈夫」な精神力を身につけた[写真]=B.LEAGUE


 精神面だけではなく、「ここまでのキャリアを順風満帆に歩んできたので、トントン拍子に上がってきたぶん、自分がまだ踏んでこなかった未踏の地を改めて見直せたと思います」とプレー面でも新たな発見があった。

「今までだったらレイアップシュートも、ただ単純に脚力があったので、スピードと高さで打っていましたけど、スピードやジャンプ力が落ちたことで1つフェイクを入れたり、バックシュートに切り替えたり、そういうことを練習し始めました。そうしたら、その影響で意外と脚力も戻ってきました。例えるなら、ストレートが投げられなくなってカーブの練習をしたら、カーブが投げられるようになった後にストレートも戻ってきた感じです。球種が増えたようなイメージで、ケガしたからこそカーブを覚えられた。それが(バスケだと)バックシュートとか、ダブルクラッチとか、フェイクとかなので、プレーの選択肢は増えたと思います」

■「忘れていいもの」と「忘れちゃいけないもの」

悔しさを活力に変えてきたからこそ「そこは色褪せちゃいけない」[写真]=B.LEAGUE


 最初のケガから2年が経ち、負傷した瞬間が脳裏をよぎることはなくなった。だが、それでもまだ不意に弱気が顔を出すときもある。

「ケガしたときのフラッシュバックはもうないです。でも、こんなこと考えても仕方ないですけど、ケガしていなかったらどうなっていたのかなと思ってしまう瞬間はたまにあります。やっぱりどうしてもケガをした今の自分と、ケガせずにそのまま2年後の自分がどうなっていたのか、みたいなことはふと考えてしまう瞬間があります。こんなには苦労しなかっただろうなとか、もっと違う経験をしていたのかなとか」

 復帰して約2カ月を順調に歩んできたが、「自分の膝のコンディションが合わないとか、痛みが出てしまうとかがあるので、やっぱり悔しさはあります」と今も苦しさを抱えながら取り組んでいる。大ケガを負ってから、悔しさだけではなく、不安や焦りなど様々な感情と向き合ってきた。ただ、そうした負の感情は、むしろ「色褪せない方がいい」とも思っている。

「朝山(正悟HC)さんとも『忘れていいものと忘れちゃいけないものがあるよね』という話はしました。やっぱりその悔しさが今の活力になっているので忘れちゃいけないし、そこは色褪せちゃいけないんですよね。でも、弱気になってしまうとか、フラッシュバックが戻ってしまうとか、そういうのは忘れないといけない」

■「過去の自分に戻らない」朝山HCと交わした約束

越谷戦では攻防両面での活躍で連勝に貢献[写真]=B.LEAGUE


 大ケガから2年後の公式戦となった3月7日、8日の越谷アルファーズ戦で、寺嶋は両試合とも先発出場した。背番号0は常に「アグレッシブにいくこととディフェンスにおいて背中で見せること」を意識してコートに立ち、見事に体現してホームでの連勝に貢献した。

 Game1は第4クォーターで同点に追いつき、残り約5分間はヒリつく接戦となった。その中で、175センチのポイントガードは、「ディフェンスリバンドを取り切ることがすごく大事だと思ったので、個人的にはどこに落ちてくるか考えて嗅覚を出しながらリバウンドに集中していました」と冷静に終盤の流れを読み、92-89の逆転勝利に貢献。2年前は担架で運び出されたが、この日はコート上で戦い抜いた。

 寺嶋は、「コートに最後まで立ち切ることがコーチからの信頼でもあり、自分の自信につながる部分でもあるので、最後までコートに立ったことが僕としては非常にうれしいことでした。ケガしてから自分もなかなか自信がなくて、周りからの信頼があるかどうかもわからない状況で、こうやって最後まで任してもらったことが本当に良かったです」と胸を張った。

 Game2では、前日の試合後の会見で「3ポイントが全然良くないので改善していきたい」と話していた課題を一夜で修正。第3クォーターに最初の1本を決めると、「ここまで苦労していたぶん、1本で終わってしまうのはダメだと思ったので何本も決め切りたかった」と意欲を燃やし、4本連続で3ポイントシュートを沈めた。

「感覚的に今までのシュートの打ち方とはちょっと違って、とりあえず真っすぐ打つことをイメージしていました。今までは(体が)横に流れていたけど、それをとにかく1回ピタッと止まって、ちょっとした動きや勢いを全て一旦0にして打つことを今日のアップの中からやっていて、それが試合でもできたと思います。僕が3ポイントを決められていなかったので、マーク的にもそこまで警戒されていなかった分、打つまでの時間があって、そこでしっかりと自分のフォームで打てたのが昨日と今日の違いだと思います」

選手時代から共に戦う朝山HCとの信頼関係は固い[写真]=B.LEAGUE


 バイウィーク明けの2試合で寺嶋らしさを発揮し、復活を印象づける活躍を見せた。だが、背番号0の視線はそのもっと先にある。朝山HCとも交わした約束でもある。

「朝山さんとも『ケガをする前の寺嶋良に戻ることは期待しない。それ以上のさらに成長した寺嶋良を見せられるように頑張ろうね』という話はしました。今までは前の自分のプレーを取り戻したいと思っていましたけど、そのさらに先を目指さないといけないと思ったので、『以前の寺嶋良を超えたね』と言われるように意識してプレーしています」

■「ケガ人にとって希望の象徴のような存在になりたい」

「ケガ人にとって希望の象徴のような存在になりたい」と寺嶋は語る[写真]=B.LEAGUE


 人生初の大ケガは、寺嶋良という選手に何をもたらしたのだろうか。広島のB1初制覇後の2024年6月1日、寺嶋は入院中に自身のnoteマガジン「余白」の「日本一になった怪我人から、怪我をして悩むキミへ」という記事でこう綴っている。

https://note.com/yohaku_note/n/n1f8b1ef10214

「怪我自体には全く意味なんてないと考えています。ただ、そのままでは意味がないということであって、努力次第で意味のあるものに変えることができます」

 28歳になった寺嶋は様々な経験をした2年間の月日を経て、ケガの意味を語る。

「僕のケガは、医者からも『なかなか治りにくい』と言われていましたし、同じケガをして復帰できずに引退したアスリートの経験談も聞いていました。だからこそ、ケガをした時に『必ず復帰して、このケガからでも戻れるんだ』ということを示したいと思いましたし、ケガ人にとって希望の象徴のような存在になりたいと思いました。実際にここまで復帰して、試合でプレータイムをもらえているところまで戻ってこられたのは、神様が与えてくれた試練だったのかなと思いますし、『これを乗り越えろ』という意味があったのかなと感じています」

 酸いも甘いも知るポイントガードがコート上で弾けるようなプレーを見せている。それは大ケガを乗り越えた寺嶋良が示す希望だ。この苦しい2年間が「あってよかったな」と思えるように今後もコート上で戦い続ける。

「ここから連戦が続く中でも残りの全試合で常にコートに立ち続けたいですし、大事な場面で広島を背負ってプレーすることが自分の目標なので。チームもケガ人が出すぎて大変な中で、痛みがあってもコートに立たないといけない選手たちもいるので、そこは自分もプライドを持ってチームのためにコートに立ち続けたいです」

取材・文=湊昂大

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