2020.04.03
辻直人にかかる負担は、一体どれほどだったのだろうか——。
「振り返ってもやっぱり『悔しい』という思いしか出てこないですし、いろんなアクシデントありましたけど、残ったメンバーでこうして戦ってここまで来れて……」
辻は涙をこらえて、こう続けた。「本当に良かったです」
全日本の頂点を決める「第95回天皇杯・第86回皇后杯 全日本バスケットボール選手権大会」がファイナルラウンドを迎えた時、川崎ブレイブサンダースは主力3人を欠いていた。準決勝からは篠山竜青とともに川崎の“2大ポイントガード”を担う藤井祐眞も欠場となったことは周知のことだろう。
辻は、この緊急事態に準決勝から先発ポイントガードを任された。決勝の相手はタイムシェアを駆使し、大半の時間オールコートでプレッシャーをかけ続けてくるサンロッカーズ渋谷。予想どおり、相手はシューターとしてだけでなく、攻撃の起点としても辻の歯車を狂わすべく試合開始からハードなディフェンスをしてきた。
「出だしからの激しい前からのプレスをかけられたのが苦しかったです。そこで流れに乗れなくてターンオーバーを出してしまって、相手の流れになったのかなと思います」
それでも川崎は「みんなで助け合って」(辻)ボールをフロントコートへ運び、ゲームメイクをし、SR渋谷と最後まで息詰まる熱戦を演じた。
辻は前日までの疲労が残る中でも、厳しいマークをかいくぐりコートを駆け回った。第4クォーターには、同点に追いつく3ポイントで自身22得点目をマーク。試合をとおして23得点を記録した。しかし、4点リードにできるチャンスであった試合終了残り3分19秒、同点に追いつけた同17秒は、いずれもノーマークのシュートを外してしまった。
「最後のフリースローもそうですし、3ポイントもそうですし……、あの場面は頭から離れないです。あれは練習してどうなるか、とも思いますが、あの場面で決められるようにならないと次のステップには上がれないので、決められるようにしたいです」
きっと、誰も辻を責めはしない。佐藤賢次ヘッドコーチは言う。
「耐えて耐えて、つないでつないで、最後あと1本で勝てるというところまで何とか粘りましたが、今日の試合はこれが自分たちの限界でした。選手たちは全部力を出しきってくれたと思います」
辻も大会をとおして成長したチームに、確かな手応えをつかんだ。「みんなが助け合う気持ちでやっていたので、チーム力も上がりましたし、自信にもなりました。これから藤井、篠山さんたちが帰ってきた時の川崎が楽しみになったという気持ちが、僕自身、大会を通じて一番です。この借りを早くBリーグのチャンピオンシップで返したいと思います」
この経験を糧に、辻直人、そして川崎ブレイブサンダースは、もっと強くなるのだろう。
文=小沼克年
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