2023.06.26
2023-24シーズン、シーホース三河のヘッドコーチに就任したライアン・リッチマン氏が6月16日、就任記者会見に臨んだ。
新指揮官は冒頭、「シーホース三河の過去の成功にも敬意を持っています。前任の鈴木貴美一コーチは28年間チームを率い、伝説とも呼べる存在です。そのあとを引き継ぐことを光栄に感じています」とこれまで築いてきた基盤に敬意を払い、「その歴史をさらに高めていくために貢献できるように努めたい」とコメント。
NBAワシントン・ウィザーズで約10年間指導者としてのキャリアを重ねてきたリッチマン氏は、「私はNBAで行っていることがすべて最高であるとは考えていません。NBA、Bリーグにはそれぞれ優れた部分があり、学ぶことがたくさんあります。柔軟に、二つを融合させて、最終的なゴールである優勝に到達したい」と意気込みを語った。
バスケットボールキングでは、就任会見及び会見後の個別取材でのコメントを交えて、新指揮官の声をお届けする。
取材・文・写真=山田智子
――最初にこのオファーを聞いた時の気持ちを教えてください。
リッチマンHC 非常に光栄に感じ、興味を持ちました。NBA(ワシントン・ウィザーズ)での契約はまだ1年残っていましたが、このオファーはあらゆる面から考えて、非常にスペシャルなものでした。信頼している人たちを通じてBリーグについてリサーチし、挑戦することを決めました。Bリーグは世界で最も急速に成長しているリーグであり、近い将来、世界でトップ2、3のリーグになると聞いています。ここ1カ月ほどBリーグについて学び、素晴らしいコーチ、選手がいることに魅力を感じました。これほど早くNBAを離れるとは考えていませんでしたが、 “逆境”に身を置くことが成長につながると考え、オファーをお受けしました。
また昨年9月に行われたNBAジャパンゲームで初めて来日し、日本の文化を感じることができたことも運命だと感じています。さらにウィザーズで八村塁選手(ロサンゼルス・レイカーズ)と緊密に仕事をしてきたことも、決断の後押しになりました。八村選手と直接話をしていませんが、彼の家族から「素晴らしい経験になるだろうし、きっと日本で成し遂げてくれると思っている」と言っていたと聞きました。
――日本のバスケットボールの印象を聞かせてください。
リッチマンHC 八村選手から日本のバスケットボール熱の高まりは素晴らしいと聞いているので、その熱狂に関わることができて光栄に感じています。
琉球ゴールデンキングスと千葉ジェッツのチャンピオンシップ決勝を見ましたが、両チームともにNBAに匹敵すると感じました。フロアのスペーシング、ピック&ロール、ペリメーターでの素早い判断、アグレッシブなディフェンスなどがとても印象的でした。日本のバスケットボールにできるだけ早く順応し、勝つために何が必要かを理解するため、これからも多くの試合映像を見続けようと思っています。
――シーホース三河にはどのような印象を持っていますか。
リッチマンHC 来日前に1年分の映像を見ました。非常にスキルが高く、ディフェンスにおいても非常にハードにプレーしているという印象を持ちました。彼らの持っている基礎的な力に、私が持っているスタイルをうまくはめ込み、攻守においてもう少し構造化したいと考えています。三河の選手たちは非常に才能がありますが、お互いがチームメートのためにプレーしないと成功できないですから。
言うは易くで、それほど簡単にいくとは思っていません。アメリカにいた時も毎日毎日「カイゼン」と口すっぱく言ってきたのですが、日々一生懸命取り組むことが重要で、その積み重ねが最終的には優勝につながっていくと考えています。1年後、このチームがどのように変化しているかとても楽しみです。
――リッチマンHCが得意なバスケットスタイル、目指すバスケットを教えてください。
リッチマンHC オフェンス面に関してはスペースをしっかり取ること、素早い判断でボールを動かしたいと考えています。分析的に価値の高いシュートを打つために、意図的にプレーする楽しみを知ってほしいです。ディフェンス面では、積極的にペイントを守り、ハードにプレーしたいと考えています。
フルコートでもハーフコートでもペースとスペースを大事にし、より速いプレーをしたいと考えています。そのためには世界クラスのコンディショニングを維持することが重要になるだろうと考えています。
――選手、スタッフ全員と面談をしたと伺いました。どのような話をしたのですか。
リッチマンHC それぞれの人となりを知りたいということが中心でした。例えば、家族は何人いるのか、どこの出身なのか、など。バスケットをする以前にその人を理解するが必要で、それによって良い関係構築ができると考えています。良い関係を築くことができれば、より良く導くことができますので。
そのうえで、チームの目標を伝え、選手たちがどのような助けを必要としているのかを尋ねました。「質問があればいつでも聞いてください」とも伝えました。多くの選手が(私が)どのようなバスケットボールをしたいのか、どのような練習をしたいのかを知りたがっていましたね。彼らと会って、彼らのことを知ることができて、大変有意義な時間になりました。
――今日は長野誠史選手、角野亮伍選手と一緒にワークアウトを行ったそうですね。
リッチマンHC シュートやスプリント、ロッカーではどのように過ごしているのかなどを見させていただき、スキルが高く、努力量も非常に多いと感じました。
今日はまだ6月15日ですが、(チームが始動する)8月中旬まで時間があることを考えるともっとリラックスしていいよと伝えたのですが、なかなかリラックスしてくれない(笑)。それくらい勤勉で、バスケットボールを愛し、情熱を持っています。そして情熱さえあれば、バスケットボールに言語は必要ないと感じました。日本の選手を指導することにとてもワクワクしています。
――リッチマンHCの人となり、キャラクターについて教えてください。周りの人からはどのような人だと言われることが多いですか。
リッチマンHC 「バスケットボールに対する情熱にあふれている」と、よく言われます。前向きでエネルギッシュであると同時に、高い基準を遵守して責任を負うことができるとも言われます。
そして、周りの人を鼓舞して、自信をつけさせるのがうまいし、その人の限界をさらにもう一段引き上げてくれる存在であるという評価も得ています。私はいつも、選手たちに到達できると思っていなかったレベルにたどり着いてほしいと考えています。
――これまで指導してきた中で、限界を引き上げることができたと感じた選手を教えてください。
リッチマンHC 今年で言えば、カイル・クーズマ選手とコーリー・キスパート選手が印象に残っています。彼らとは“真実を伝えること”ができる非常に良い関係を築くことができました。選手は必ずしも真実を聞きたいとは限りません。でも、毎日練習の終わりに、彼らに正直に真実を伝え、必要があれば厳しく接しましたし、彼らが苦しんでいる時は後押しをしました。この押しと引きのバランスが非常に重要です。彼らが人として、そしてバスケットボール選手として成長してくれたことを誇りに思っています。
――「カイゼン」や「真実を伝える」など印象的なキーワードがたくさん出てきましたが、これまで10年以上指導をする中で、最も大切にしてきたことは何ですか。
リッチマンHC バスケットボールに対する“ポジティブな喜び”を持ち続けることが大切だと思います。選手たちは毎日練習をしているので、それに慣れすぎてしまい、なぜバスケを始めたのか、なぜ好きなのか、という根源的な部分を見失ってしまうことがあります。そして、それは喜びや情熱を奪うことにつながります。
だから、うまくいかない時、厳しい真実と向き合わないといけない時にこそ、「バスケットボールを手に取ったのは、それが楽しかったからだ」という本質を思い出してほしい。コーチとして、常に前向きな姿勢を示すことで、彼らに喜びをもたらしたいと考えています。
――ヘッドコーチとしての、ご自身の目標を聞かせてください。
リッチマンHC 私はビデオ分析からキャリアを始めて、その後に選手の育成を始めました。だから毎日選手たちと一緒にフロアに立ち、選手と向き合うことを大事にするヘッドコーチになりたいと考えています。またリーダーとしてスタッフを指導し、スタッフを成長させることも重要だと信じています。
私はどのような環境でも常に学ぶということを重要視してきました。ヘッドコーチとして成長するには、ヘッドコーチを経験する以外にありません。これから困難なことも多く出てくると思いますが、自分は成長できているのか、カイゼンできているのか、人として何を学ぶのか、を常に求めていきたいと考えています。
――ファン・ブースターへメッセージをお願いします。
リッチマンHC 私たちの目標は優勝することであり、それを達成するためには、毎日ハードワークする必要があります。皆さんに私たちの試合を見て誇りを持っていただけるよう、点数問わず、誰がプレーしているかを問わず、一生懸命プレーすることを大事にしていきたいと考えています。
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