2022.06.20

越谷アルファーズが仕掛ける“ネギばんばん”だけじゃないムーブメント

今シーズンの越谷の取り組み、成果を井口基史氏がレポート [写真]=越谷アルファーズ
バスケットボールコメンテーター

収穫と出荷が追い付かない事態

 優勝のファイティングイーグルス名古屋、準優勝の仙台89ERSが見事B1昇格でシーズンを終えたB2。今回はシーズン中にコートの外で、大きくオフェンシブな姿勢を示した「越谷アルファーズ」をピックアップしたい。

 各メディアやSNSで大きな話題となった、越谷の新応援グッズ「ネギばんばん」が大ヒット。県外からのオーダーも相次ぎ、収穫と出荷が間に合わないという、ホンモノのJA全農もびっくりの取り組みだ。ネギフリークなら知ってて当然、埼玉県は全国トップクラスのネギ生産量を誇る。あえてスタッツに触れる必要はないだろう。

 この「ネギばんばん」の取り扱いはツッコミどころが多いので整理しておこう。
●定価:1,200円(税込)
●ネギった場合:1,000円(税込)
●値切らず購入の場合:200円が「ネギらい応援金」→特産品を活用した地域活性化へ
●「ネギばんばん」持参
・チアやスタッフとハイタッチではなく「ネギタッチ」が楽しめる
・一部の席限定で試合終了後には選手との「ネギタッチ」を行う
・選手入場時に花道ならぬ「ネギロード」で「ネギタッチ」で選手をコートに送り出す

 コロナ禍でふれあいが制限される中、ならば!と新たなふれあいの形を実現させた。

ヒット商品「ネギばんばん」をはじめ、攻めの戦術が奏功 [写真]=越谷アルファーズ

真剣なのか、ふざけているのかもう不明

 専属チアリーダー・アルファヴィーナスがリードする『幸せならネギたたこう』のダンスはTwitterで1日2万回再生を突破し、定番化に成功。シーズン終盤にはファンクラブ会員限定購入アイテムとして、ゴールドの「金のネギばんばん」まで登場し、もはやネギとは認識できないアイテムへ変化した。

 越谷が属するB2東地区を飛び越え、B2西地区の会場で「ネギばんばん」を持つブースターが、ちょっとした人気者になってしまうというレポートが届くなど、もうどこまでが本当なのか取材に苦労する案件だ。

他クラブがだんだん笑えなくなってきた

「越谷は遊んでいるんだなぁ」と多くが思っていた取り組みに、他のクラブが笑えなくなってきたのが、4月24日の仙台89ERSとのGame2だ。

 B2プレーオフへチームを後押しすべく、ホーム・越谷市立総合体育館をB2では特筆すべく2800名越えのブースターが埋めたのだ。

【Game1】2022年4月24日(土)越谷75-94仙台 2061名
【Game2】2022年4月25日(日)越谷66‐75仙台 2865名

 これまでの越谷の最多入場者数は2020年2月8日(土)の仙台戦で、その時が1659名とあるので、1000名以上を上積みすることに成功したことになる。

集客面でもシーズンを通して成果を見せた [写真]=越谷アルファーズ

地上戦と空中戦

 このクラブレコード達成は選手だけでなく、クラブ職員、協力会社、行政を含むホームタウンが一丸となって戦った参考事例が隠れている。

 まずJリーグで観客数のV字回復に成功した、名古屋グランパスに教えを請い、チケットセールスのアプローチの手法と予測値を見直した。

 ここでクラブが大切にしたのが、対3000人、対2000人を相手にした考えではなく、一人ひとりのファン・ブースターと向き合う気持ちを大切にすること。

 そして、潜在的な観戦候補者を特にフォーカスし、アプローチしたというのだ。

 長期的なクラブの成長を見越した集客に飛び道具は存在しない。データをしっかりと蓄積・活用し、数字と向き合いながら、シーズンを通して地道な努力を重ねた。

 その取り組みはクラブ職員だけでなく、選手やコーチ陣、チア、アカデミースタッフなどすべてのメンバーで行われ、試合告知、チケットの案内、再度のリマインド、来場のフォローという地味ではあるが、バスケと同じように「基礎=ファンダメンタル」を大切にし、1枚1枚を積み上げた結果だという。

朝の最寄り駅でのビラ配りなど、地道な活動が実を結んでいった [写真]=越谷アルファーズ


 チケットセールスだけでなく、地道でリアルな地上戦でも関係者が一丸となった時間が増えた。越谷駅と新越谷駅前の2駅を主戦場としたビラ配りは週2日敢行。時間も少しずつ変え、ホームタウン住民との接点を増やした。チケットセールス手法を見直したことにより、朝のビラ配りの効果で、その日の夕方にはチケット販売が増えるという状況をオンタイムで確認でき、クラブ職員のモチベーションは上がったという。

 また、シーズンを通して大切にし続けた地域活動が徐々に浸透し、普段からホームへ来てくれるブースターたちから、ビラ配りのさいに声を掛けられる機会が増え、心の距離もグッと近づいた。

 これまでアルファーズには、「どうせ客席は埋まらない」、「フロントは何しているんだ」と、どこかチームとフロントに半信半疑な雰囲気がゼロではなかったそうだ。ただネギばんばんのヒットにより、たかがネギではなく、次も成功できるのではないか?という雰囲気に変わった影響が大きいという。

会場が埋まったことによる変化

 終盤の大一番で2800名の来場者というクラブレコードを達成した影響は多岐にわたる。

 選手・スタッフ・クラブ職員含めて、あの迫力あるホームの景色を一緒に体感する成功体験が必要。さらにすでにチームを応援してくれている、ブースター・スポンサー・関係者にとっても「オレの応援しているチームは凄いだろう!」と一緒にいえる体験になったそうだ。

 効果は早速表れ「来シーズンはこうしよう」という関係各所からの提案や、シャトルバスや駐車場など、B1昇格に備えた満員御礼の来場者対策についても、ホームタウンである越谷市など行政関係者から、前向きな話し合いが増えたという。

 いかに多くの関係者と一緒になり、ホームゲームを成功させるかが大事かを教えてくれた。

■2021‐22シーズンB2上位平均観客数
1位 仙台89ERS/1538名
2位 熊本ヴォルターズ/1168名
3位 越谷アルファーズ/952名(前シーズンの12位から躍進)

B1昇格の戦いはココからだ

 とは言っても平均観客数では1000人を僅かに切っている危機感も忘れない。そしてコート上もFE名古屋とのクォーターファイナルで完敗だったと現実も直視する。

 かつて実業団として多くのサラリーマン選手を抱え、BリーグになってもBリーマンとして、社業を抱える選手が所属するこのクラブの本当の戦いは、ホームの迫力を一緒に経験したあの景色を実現したことにより、さらに大きな一歩を踏み出したのかもしれない。

より地域密着が進んだシーズンを終え、来シーズンもさらに飛躍が期待される [写真]=越谷アルファーズ


文=井口基史
写真協力=越谷アルファーズ

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