2024.08.03
歴史的勝利まであと16秒だった。7月31日(現地時間30日)にスタッド・ピエール・モーロワで行われた「第33回オリンピック競技大会(2024/パリ)」の男子バスケットボール競技。日本代表(FIBAランキング26位)の4点リードで迎えたフランス代表(同9位)のラストオフェンスでまさかの笛が鳴った。試合終了残り10秒、21歳の若きマシュー・ストラゼル(ASモナコ)の放った3ポイントが認められて“4点プレー”で同点。延長戦では高さを支配され、戦える選手層が残っていなかった日本は、力尽きて90-94で敗れた。
両者ともに3ポイントの応酬だった。日本は前半で15本中7本、試合を通じて37本中16本と、43.2パーセントの確率で3ポイントを決めて、40パーセントの目標値には達した。だが、フランスも同様に、前半で12本中7本、試合全体で37本中15本と、40.5パーセントの成功率で3ポイントを沈めた。FIBAによれば、オリンピックで両チーム合わせて31本もの3ポイントを決めた試合は、2012年に行われたロンドン大会のアメリカ代表vsナイジェリア代表で計35本決めた試合以来だというほど、高確率な打ち合いだった。
そんな、完全アウェーの激闘のなかで、日本は何度のハイライトシーンを作っただろうか。
フランス戦でスタメンに抜擢された比江島慎(宇都宮ブレックス)は、ボールハンドラーとなってゲームをクリエイトし、7得点4アシスト。延長戦で決めた最後の3ポイントは、得失点差において望みをつなぐ一投になった。
吉井裕鷹(三遠ネオフェニックス)はオリンピックのコートに立つたびに、フィジカルを活かしたディフェンスで頼りになる存在になり、見る者の心を熱くしている。
ジョシュ・ホーキンソン(サンロッカーズ渋谷)は前半に連続で3ポイントを決め、終盤は高さを誇るフランスを相手にしてリバウンドとブロックショットで体を張り続けた。延長では脚がつってしまうなかで、インサイドの番人として極限まで戦った。
八村塁(ロサンゼルス・レイカーズ)は初戦のドイツ代表戦よりも上向いたシュートタッチを活かし、ディフェンス2、3人に囲まれてもインサイドでねじこむ力を発揮して24得点。1人でディフェンスを引き付けられる力があるからこそ、日本には3ポイントを打つチャンスも生まれている。
渡邉飛勇(信州ブレイブウォリアーズ)は八村が退場した第4クォーター残り8分31秒から、ゴール下で奮闘し続けた。同1分33秒、ダンクを試みたルディ・ゴベア(ミネソタ・ティンバーウルブズ)をブロックしたことは、彼のバスケ人生において、飛躍するターニングポイントのプレーになるのではないだろうか。
八村は2回のアンスポーツマンライクファウルを犯してコートを去ったことに、本人が一番責任を感じているだろう。ただ、エースが抜ける窮地に陥っても、「塁一人に頼るバスケはしない」とトム・ホーバスヘッドコーチが常々言っていたように、選手一人ひとりがステップアップしたことで、最後まで競ることができた。
さらに言えば、日本の男子がオリンピックでメダルを獲得するような強豪国と大接戦を演じたのは、近年ではなかったことだ。フランスは、3ポイント以外は冴えなかったが、オリンピック開催国と常連国の意地を最後の最後に見せつけた。こうした、一つのプレーで勝敗が決するような試合経験を積んでいく以外に、国際大会で勝利する力をつける近道はないのだ。
そして、ハイライトシーンを一番多く作ったのが河村勇輝(横浜ビー・コルセアーズ)だ。23歳、日本の若き司令塔は、このフランス戦で国際的に知名度を上げたといっていいだろう。
序盤からシュートタッチの良さを活かして3ポイントを狙い、速い展開で何度もドライブを仕掛け、ホーキンソンとの2対2の展開を作った。第4クォーターの終盤は逆転の3ポイントやフリースローを沈めて4点のリードを演出。トータルで3ポイント6本を含む29得点に7リバウンド6アシストを記録するハイパフォーマンスを見せた。
だが、最後はシュートコンテストに飛んだことで痛恨のファウルをコールされてしまい、「ポイントガードの僕がゲームをコントロールできず、勝てるゲームを落としてしまったのは自分の責任」と悔しさを募らせた。
それでも、日本の司令塔は目標がある限り前を向く。
「目標が途絶えたわけではありません。次のブラジル戦ではこのフランス戦での経験を糧にして必ずベスト8という目標を達成したい」
日本が強豪国と争えるチームに成長していることは間違いない。負けはしたが、このフランス戦は、日本のバスケットボール史において語り継がれる試合になるだろう。ただ、フランス戦に勝ち切れなかった悔しさは、次にぶつけなければ意味がない。最終ブラジル戦は死ぬか、生きるかの大勝負。日本のオリンピックはまだ終わっていない。
文=小永吉陽子
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