2019.02.01
今季、八村塁が心に抱いていることがある。
それは、「今までやってきたことの集大成」ということだ。
出場時間が、勝敗が決まったあとに限られていた1年生。力強いシックスマンとしてチームを支え、多くの関心を得た2年生。そして、全米の注目選手20人に名を連ね、エースとしてゴンザガ大学を引っ張っている今季。
2年前は英語がほとんど話せなかったが、今では英語でのインタビューに受け答えできるまでになった。試合中もチームメイトに進んで話しかけ、指示を出す。
何よりも、完成度が増したプレー。1年生の時にコーチから得意な中距離シュートではなく、スリーポイントを打つよう指示された。将来八村がNBAでプレーする可能性も見据え、プレーの幅を広げるためだった。その成果もあり、八村はNCAAトーナメント出場を決めたウエストコーストカンファレンス・トーナメント決勝とファイナル4進出を決めたNCAAトーナメントの準々決勝という大舞台でスリーポイントを決めた。
2年目は、日本では経験したことがなかったベンチからの出場。ゲームを読み、途中から試合に入ってエネルギーを持ち込む役目をしっかり果たし、控えながらドラフト候補に挙がるまでになった。アイダホ・ステイト大学を相手に33得点でシーズンを明けた今季は、インサイドにガンガン攻め込むパワーを見せつける。
そして、経験。
今季のプレシーズンの試合後、八村は言った。「どういう風に相手がやってくるかもわかりますし、どういうところでシュートを決めてくるかもわかりますし、どういうところでファウルを狙ってくるっていうのもわかります。経験が生きているんじゃないかと思います」。
今年のドラフト1位指名候補のザイオン・ウィリアムソンら、1年生ながらドラフト指名候補が顔を並べるデューク大学と戦ったマウイ・インビテーショナル決勝でもそうだった。
その後もワシントン大戦で残り0.6秒に決勝シュートを決めるなど活躍する八村について、4年生のジョシュ・パーキンスは「1年生の時の彼は大人しかった。でも今はビーストだ。彼はビッグなハートを持っていて、とてもいい奴。でもコートに立てばアニマルだ。どんどん自信を増していて、なるべき選手になっている」と成長を喜んだ。
今季を「集大成」としたのは、次の目標が定まっているからで、それは紛れもなく、NBAである。
実際、昨季もドラフトへのアーリーエントリーが注目されたが、八村は「まだわかりません」と決して明言しなかった。もちろん、迷っていたからである。
本人は、まだ準備ができていないと思っていた。しかし「周りから(ゴンザガ大に残る)意味がないというか、そういう風に言われたりして、そういうところで迷ったりした」と八村。「でも、やっぱり自分で決めることなので。自分はゴンザガでもっとやりたいと思っていたので。チームもこれからよくなるとわかっていたし」と続けた。
もし昨季でNBA入りしていたら、今頃Gリーグで、NBAレベルで戦う準備をしていたかもしれない。大学よりも高いプロレベルで早くからプレーし、自らを高めることも当然選択肢の一つだ。しかし、ゴンザガ大学のトミー・ロイドアシスタントコーチは言う。「ドラフトにかかるのは、わずか60人。たとえ、その中に入ったとしても、キャリアの早い段階でカットされる選手もいる。Gリーグで向上させるのもいいけれど、ゴンザガ大にやっと慣れてきた塁にとって、それはまた一からのやり直しになる。それならばここで、NBAで長いキャリアが積める土台作りをした方がいい」。
八村には、ゴンザガ大のエースとしてチームを再びファイナル4に導き、優勝したいという希望もある。だから「(後悔は)絶対にないです。それがしたかったんです」と言う。
4日付のNBAドラフトネットで1巡目7位に予想されている八村は、即戦力として考えられるロッタリーピックが有力だ。
今は残りの3カ月で目標達成に向けて精進するのみ。その過程で、学生時代でしか遭遇できない成長のきっかけに何度も出くわすはずだ。
文=山脇明子
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