2025.10.07

ファンの“見る”が変わる…NBAとAWSが創る次世代の視聴体験

「AWS Media & Entertainment シンポジウム 2025」で基調講演に登壇したウォルシュ氏
バスケットボールキング編集部

グローバルで進む“NBA × アマゾン”の連携

 NBAは今シーズンから、アマゾンの映像配信サービス「Prime Video」とワールドワイドでのメディア契約を締結した。Prime Videoは2025-26シーズンより、世界各地でレギュラーシーズン66試合を独占配信するほか、プレーオフの一部試合も中継予定である。日本でも『NBA on Prime』として、プライム会員が追加料金なしで注目試合を視聴できるようになった。

 一方で、10月3日にはアマゾン ウェブ サービス(AWS)がNBAとグローバルレベルの複数年パートナーシップ契約を締結。公式クラウドおよびAIパートナーとして、新たなデータプラットフォーム「NBA Inside the Game powered by AWS」の構築が進められている。配信と技術基盤の両輪を通じて、NBAは次世代の視聴・分析体験を世界規模で拡大させる構想を描く。

NBAAWSがグローバルレベルの複数年パートナーシップ契約を締結

 10月6日に都内で開催された「AWS Media & Entertainment シンポジウム 2025」では、その取り組みの背景と今後の展望が紹介され、クラウドとAIによってNBAの楽しみ方がどのように変わっていくのかが示された。

AIとクラウドがもたらす“新しい観戦体験”

 基調講演に登壇したのは、Amazon Web Services Global Leader of Industry BD for M&E, Games & Sportsのニーナ・ウォルシュ氏。AI技術とクラウドを活用し、スポーツやエンターテインメントの楽しみ方をどのように変えていくのかをテーマに語った。

 ウォルシュ氏は「ファン一人ひとりに合わせた体験づくりが、これからの時代の鍵になる」と述べ、世界中で進む映像配信の個別化について説明した。講演では、PGAツアーやF1などでの活用事例を紹介。AIがデータを解析し、選手の動きや試合の展開をリアルタイムで伝える仕組みを取り上げた。スポーツの中でもグローバルに人気のあるNBAのようなコンテンツでは、多言語対応や自動要約など、クラウド技術が欠かせないと強調した。

バスケの現場の立場からパネルセッションで発言した佐々木クリス氏(右)

 続くPrime Videoパネルセッションでは、NBA配信を含むPrime Videoのスポーツ分野における取り組みを題材に、AWSの技術がどのように配信とデータ体験を支えているのかが語られた。登壇したのは、バスケットボール解説者の佐々木クリス氏、アマゾンジャパンPrime Videoスポーツ事業部の横尾賢氏、そしてAWSジャパンの山口賢人氏の3名である。

 横尾氏は「映像の安定性や遅延の少なさはもちろん、データを生かした“深み”のある視聴体験を届けたい」と話し、AWSが支える分析基盤の活用に言及。試合中のデータを可視化し、選手や戦術をより立体的に理解できる取り組みを進めていると明かした。

 佐々木氏も「ファンが自分でデータを見ながら楽しむ時代になってきている。その中で解説者の役割も変化している」と語り、AIが自動で生成するハイライト映像やプレー分析が、ファンとの新しいコミュニケーションを生み出していると述べた。

 AWSの技術は、こうした体験を裏側で支えるだけでなく、ファンが“自分だけの視点”で試合を見つめ、語り合うための基盤にもなりつつある。

データが導く“理解の深化”──AWSが描く未来像

 AWSとのパートナーシップでは、NBA、Gリーグ、バスケットボール・アフリカ・リーグなどのデータ基盤をAWSクラウド上に統合し、AIによって算出される新しい分析指標を導入する。「Defensive Box Score」「Shot Difficulty」「Gravity」などのデータが公開される予定で、ファンが自分の視点でプレーを検索できる「Play Finder」機能も開発中だ。Prime VideoNBA公式アプリ、League Passなどの配信プラットフォームと連携し、より没入感のある体験を目指している。

AIが算出する「Shot Difficulty」では、シュートごとの期待成功率(xFG%)をリアルタイムに表示

 会場でのプログラムを終えたあと、別室で行われたQ&Aセッションでは、ウォルシュ氏と山口氏がメディアからの質問に答えた。

 私は、AWSが今後スポーツデータの分野でどこまで踏み込むのかを尋ねた。ウォルシュ氏は少し考えたあと、「AIは目的ではなく手段。スポーツの物語をより多くの人に届けることが本当の目的」と語り、テクノロジーの先にある“人”を中心に据える姿勢を示した。

 山口氏は続けて、「たとえばブンデスリーガではAIを活用して多角的な分析を進めていますが、NBAはもともとデータ収集の設備が非常に整っており、特別な投資をしなくても高度な環境が整っています。だからこそ、これからはさらに多様なデータが生まれ、スポーツの見方そのものが広がっていくでしょう」と答えた。

 さらに、「AWSは裏方の存在として、誰もが高品質なスポーツ体験にアクセスできるよう支えていく」とも述べた。

 Q&A全体を通して浮かび上がったのは、AWSが単にデータを扱う企業ではなく、ファンが“より深くスポーツを理解するための橋渡し役”になろうとしているという点である。

 NBAAWSの関わりは、まだ始まったばかりである。AIとクラウドを通じた次世代の視聴体験が、どのように進化していくのか。今後の展開に期待が集まる。

文=入江美紀雄

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