2025.10.06

“NBAをもっと身近に”NTTドコモの挑戦…八村塁と河村勇輝が牽引役に

NTTドコモのNBA戦略について、同社の田中智則部長に話を聞いた [写真]=兼子愼一郎
バスケットボールキング編集部

 2025-26シーズンからNTTドコモが日本国内のNBA配信を担う。「NBA docomo」は10月20日に専用アプリをリリースし、日本語実況・解説付きで毎週10~15試合を届ける。対象料金プランの契約者は追加料金なしで視聴可能となり、アプリではニュースやスタッツ、オリジナル番組も展開する方針だ。さらに、視聴者投票を編成に反映する参加型の取り組みや、Gリーグ配信の準備も進んでいる。開幕前の多忙な時期に、コンシュマーサービスカンパニー 映像サービス部長の田中智則氏に狙いを聞いた。

インタビュー=入江美紀雄
写真=兼子愼一郎

ドコモがスポーツに取り組む理由

(左から)マーク・テイタムNBA副コミッショナー兼最高執行責任者(COO)、齋藤武NTTドコモ代表取締役副社長

――開幕直前でご多忙と伺いました。準備の状況はいかがでしょうか。
田中 はい、イベントや番組作りなど最終調整の真っ最中です。どのようにファンに楽しんでいただくか、社内外の関係者と細かく議論を重ねています。新しい配信のスタートは一度しかありませんから、記憶に残る演出にしたいという思いが強いです。開幕に向けて大きな責任を感じながら準備を進めています。

――NBAに取り組むことになった背景についてお聞かせください。
田中 ドコモではこれまでもサッカーやボクシングといった人気競技に注力してきました。スポーツは多くの人が楽しむコンテンツであり、ドコモブランドを生活の中で自然に感じてもらうきっかけになります。バスケットボールは近年、日本国内でも注目度が高まり、Bリーグの盛り上がりや国際大会での日本代表の活躍も相まって大きな存在感を持ち始めています。そこにNBAという世界最高峰のコンテンツを加えることで、より幅広い層にスポーツの魅力を届けられると考えました。私自身も以前からNBAを視聴しており、挑戦する価値のある取り組みだと感じていました。

――日本国内でのライセンス契約はどのような形になるのでしょうか。
田中 NTTドコモが日本におけるメインパートナーとなります。Amazon Prime Videoはグローバル契約で、世界的にリーグパスを提供していますが、国内での配信権の中心はドコモにあります。したがって、日本国内のファンに最も身近にNBAを届けられる立場にあるのが私たちです。単なる配信にとどまらず、イベントや情報発信を含め、NBAを日本で根付かせる役割を担っていると考えています。

八村塁河村勇輝の存在感

名門レイカーズでプレーする八村塁(左)、NBA挑戦2年目を迎える河村勇輝(右)[写真]=Getty Images

――NBAに挑戦する日本人選手が増えています。八村塁選手をどのように評価されていますか。
田中 八村選手は日本のバスケットボールにとって大きな象徴です。フィジカルの強さに加え、試合の流れを変えるようなシュート力や存在感を持っており、チームに欠かせない戦力となっています。日本の子どもたちにとって、名門ロサンゼルス・レイカーズで活躍する姿は大きな夢そのものです。私自身も現地で彼の試合を見ましたが、観客席で八村選手のユニフォームを着る日本人ファンを数多く見かけ、影響力の大きさを実感しました。日本の未来を担う世代にとって、八村選手の存在は「NBAを目指していいのだ」と思わせる力を持っていると考えています。

――河村勇輝選手の魅力について教えてください。
田中 河村選手は体格的に海外のガード陣と比べると不利な面がありますが、それを補うスピードと判断力を備えています。常にストイックに練習を重ね、状況判断の正確さと果敢なアタックで結果を残してきました。若い世代にとっては「小さくても世界で戦える」という希望の象徴です。また、女性ファンが多く、彼が履くバッシュのモデルが人気を集めるなど、マーケット面でも大きな影響を与えています。八村選手と河村選手の二人が異なる個性でNBAに挑んでいることは、日本のバスケットボール界にとって非常に心強いことです。彼らがけん引役となり、NBAそのものへの関心を広げる効果も大いに期待しています。

――NBAの文化的な側面とはどのようなものでしょうか。
田中 NBAは単なるスポーツリーグではなく、カルチャーとして社会に浸透しています。試合そのものの魅力はもちろんですが、音楽やファッション、ライフスタイルと結びついて観戦体験全体が一つの文化になっています。現地視察で訪れたアリーナでは、試合開始前から音楽と照明が融合した演出が行われ、観客はエンターテインメントの一部として楽しんでいました。ファンはユニフォームやスニーカーを日常的に着こなし、街全体がNBAの空気を共有している印象を受けました。日本でもスポーツを通じた文化形成の可能性は十分にあり、そうした側面をしっかり伝えることが裾野を広げる鍵になると考えています。

ファンの裾野を広げる仕組みづくり

「日本でNBAの裾野を広げたい」と語る田中部長 [写真]=兼子愼一郎

――編成にあたってはどのような工夫を考えていますか。
田中 日本人選手の試合を軸に配信する方針ですが、それに加えて「見たい試合を自分で選べる」仕組みを導入します。具体的には、視聴者投票を通じて編成に反映させる予定です。ファンが主体的に関わることができる仕掛けを作ることで、配信が一方通行ではなく双方向の体験になります。従来の放送では固定カードが多く柔軟性に欠けましたが、ドコモではファンの意見をリアルタイムで吸い上げられることが強みだと考えています。これにより、日本人選手の試合はもちろん、海外スター選手の注目ゲームも広く届けていくことが可能になります。

――専用アプリにはどのような機能が盛り込まれるのでしょうか。
田中 10月にリリースする専用アプリは、NBA視聴の入口となる総合的なプラットフォームです。中継映像だけでなく、試合カレンダーや選手情報、詳細なスタッツを閲覧できます。さらにオリジナル番組やハイライト映像を通じて、初心者にも楽しめる工夫を凝らしています。SNSとの連動も強化し、特に若年層に人気のTikTokでは短尺コンテンツを毎日配信する予定です。電車の移動時間や隙間時間にもNBAに触れられる環境を整えることで、日常生活にバスケットを取り込むことを目指しています。

――ドコモ契約以外のユーザーはどのように視聴できますか。
田中 ドコモの対象プラン契約者は追加料金なしで視聴できますが、他社ユーザーも制限なく利用可能です。アプリをダウンロードし、動画配信サービス「Lemino」を通じてNBA専用プランに加入すれば、同じように全試合をご覧いただけます。さらにahamoユーザーには特別料金を設定し、若年層が気軽にNBAに触れられるよう配慮しています。携帯キャリアに縛られることなく、誰でもNBAを楽しめる設計にした点は大きな特徴です。

――最後に、今回の挑戦に込める思いとはどのようなものですか。
田中 NBAの魅力を日本でより身近に感じてもらえるようにすることが私たちの使命です。試合の迫力やスター選手の存在感だけでなく、文化やライフスタイルまで含めて伝えることで、ファンの層を広げていきたいと思っています。八村選手や河村選手の挑戦はその象徴であり、彼らをきっかけに新しいファンが増えていくことを期待しています。ドコモとしては、配信やアプリだけでなく、イベントやパブリックビューイングなども展開し、NBAを体験する場を数多くつくりたい。日本でNBAを“見る文化”を根付かせることが大きな挑戦であり、長期的に取り組んでいきたいテーマです。ご期待ください。

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