2025.10.07

異例のトレーニングで“暴力的進化”…怪物が過ごした過酷な夏休み

NBAキャリア3年目に臨むウェンバンヤマ[写真]=Getty Images

■少林寺で心身を鍛錬…日本文化を楽しむ姿も

 ビクター・ウェンバンヤマサンアントニオ・スパーズ)の夏休みは、誰よりもハードで多忙だったかもしれない。

 スパーズの未来を託された7フッターのビッグマンは今年2月下旬、右肩の深部静脈血栓症と診断され、昨シーズン後半戦の全休を余儀なくされた。裸足でのトレーニングなど独自の方法で体をケアしてきた“エイリアン”にとって、予期せぬ知らせ。負傷したわけでもなく、サイドラインの外からチームメートを見守ることしかできなかったことに、ウェンバンヤマは大きなフラストレーションと失望を感じていたという。

 現地メディア『The Athletic』のジャレッド・ワイス記者は、ウェンバンヤマがこの夏をどのように過ごしてきたか、その軌跡を辿っている。

 キャリアを脅かす可能性のあった血栓症を克服するべく、ウェンビーはプレーオフ期間を利用して通院。そして、血栓の問題が解消され、再び渡航許可が下りると、痛みやフラストレーションを断ち切るための旅に出て、その目的地に中国と日本を選んだ。

 中国・鄭州では少林寺を約10日間体験した。僧侶の衣をまとい、頭を丸めたウェンバンヤマの写真は広く拡散されたが、この体験の目的は瞑想や気功、少林拳の動作を学び、普段使わない体の動かし方を通じて柔軟性やバランス、集中力を高めることだった。精神性と強く向き合うウェンバンヤマにとって、少林寺は心身を磨く最適な方法であり、本人も「可動域や強度、バランスを改善することが目的だった」と語っている。

 一方、東京では都内の体育館やピッチでバスケットボールやサッカーを楽しむ様子が確認されている。また、ゲームセンターやナイトクラブ、ドン・キホーテでのショッピングなど、日本の多様な文化にも触れたほか、日本の景観を象徴する富士山の麓にも訪れている。

■限界を超える“暴力的”進化

今年6月に番組に出演したウェンバンヤマ[写真]=Getty Images


 ウェンバンヤマは、アジアへの旅を以下のように振り返っている。

「他のどんな経験でも理解できなかったことを、理解させてくれた。この夏の活動は、あのトラウマ体験と深く結びついている。人生は永遠ではないし、逃してしまう経験が必ずある。それは避けられない。でも自分が逃す経験を最小限にして、最大限の経験をしたい。それが自分の望みだった」

 エイリアンの異名を持つ同選手は帰国後、NASAのジョンソン宇宙センターやアクシオム・スペース本部を見学し、夏の終わりにプレーを再開。そして、メディアデーで語った「この夏は、より暴力的なことをやろうと決めた」という発言の中身は、想像を絶するものだった。

 ウェンバンヤマは、ジムにいる全員と連続で一対一を実施。通常であれば、複数名でオフェンスとディフェンスを交代しながら取り組むドリルだが、ウェンバンヤマは参加者で唯一休みを与えられず、ひたすらディフェンスに徹しては得点を試みる参加者を次々にストップしたという。さらに、全員を相手にしたらコートの反対側まで全力で走り、そのまま同じ一対一ドリルを再開。ジムにいたチームメートのジュリアン・シャンパニーも「こんな練習をしている選手は見たことがない。本当にクレイジーだ」と驚きを隠せなかった。

 スパーズを率いるミッチ・ジョンソンヘッドコーチも、多様な手法で選手としても人間としても高い向上心を抱くウェンバンヤマに脱帽している様子。また、自身もシューティングへ取り組む時間が減少したことを認めつつも「でも関係ない。僕は身体を取り戻したかったんだ」と、フィジカルコンディションの回復に軸足を置いたことを強調している。

 常識離れした身長とスキル、そこに夏場に培ったフィジカルとメンタリティが備わったウェンバンヤマは鬼に金棒だ。肉体と精神の両面を鍛え直したウェンバンヤマは、昨シーズンの悔しさを糧に新シーズンで爆発する準備を整えている。

文=Meiji

ビクター・ウェンバンヤマの関連記事

NBAの関連記事