2021.08.30

【2021-22シーズン版井口基史のスカウティングレポート】各チームの現在地は?(西地区編Part1)

6年目のシーズンに臨むB1各クラブの現状を井口基史氏が独自の目線でチェック[写真]=B.LEAGUE
バスケットボールコメンテーター

 Bリーグ開幕までいよいよ1カ月を切った。この日を待ちわびたファン・ブースターは各クラブの状況に気をもんでいることだろう。そこで今シーズンも開幕を前にバスケットボールコメンテーター井口基史氏による各クラブのレポートをお送りしたい。

文=井口基史

「西低東高? 時代は進んでいます!」

 一部で西低東高などと言われ続け、我慢を重ねてきた西地区のブースターの皆さん、大変長らくお待たせしました!! 「東地区の皆さんは、なんだか調子が良くないみたいですね~」と言えるまであともう少しです!

 確かにBリーグ創設以降リーグタイトルが東から移ったことはなく、過去Bリーグチャンピオンシップのベスト4へ勝ち進んだ西日本クラブはシーホース三河琉球ゴールデンキングスだけ。また、天皇杯では2016年の三河の優勝が最後と、これはBリーグ開始前のタイトルになる。ことあるごとに「西地区の盛り上がりなくして、Bリーグの盛り上がりはなし」と常々言い続けてきたつもりだが、その狼煙をあげたのは広島と島根だった。

広島ドラゴンフライズ「バスケが熱くなるべき理由の多い街」

日本を代表するシューター・辻を獲得した広島[写真]=加藤誠夫


 誰よりも悔しかったのは選手たちのはず。広島の昨シーズン9勝46敗の成績はBリーグ発足以来最小勝利数だ。実は新型コロナウイルスにより中止となったシーズンをのぞき、毎シーズン最小勝利数は更新し続けているので、広島にだけ原因があるわけではないのだが、B1とB2の差を体感するには十分すぎたシーズンだったはず。昨シーズンからロスターに残ったのは5人だけと、大変革というか、レギュラーシーズン終了前からフロントの戦闘は始まっていた。

 クラブ決算概要の最新データは2019-20シーズンしか現時点ではなく、現在を語る資料としてはいけないが、かの実績でみると実は広島のチーム人件費は安くない。決算月の違いもあり一概には言えないが、B2在籍時(3.9億円)でB1中位(9位:名古屋D 3.7億円)の人件費を越えていることをみても、2018年12月に発表されたNOVAホールディングスによる新経営体制は、チームに資金を投入しながら戦っていることが分かる。

 それでも結果がついてこなければと、シーズン中からさまざまな噂が飛び交いながら、B1他クラブから6名を獲得した。なかでも衝撃的だったのが、日本代表候補の日の丸シューター・辻直人選手(川崎ブレイブサンダースから加入)の獲得だろう。新指揮官のカイル・ミリングHC(横浜ビー・コルセアーズから加入)はビーコルHC就任前だったので、おそらくご存じないはずの前々回の天皇杯ファイナル・サンロッカーズ渋谷vs川崎の映像をどなたかコーチに届けていただき、シューターとかポジションとかいう垣根を取っ払い、存分に辻選手の魅力を日本中に広めてほしい。

 もう知らない方も多いだろうが、広島は2006年に「2006世界バスケ」(現・FIBAバスケットボール ワールドカップ)で日本のグループリーグ、ホーム開催(広島グリーンアリーナ)を行った由緒正しいバスケの地であり、実は目の肥えたオールドファンが多い街だ。

 またバスケをやったことある方であれば一度はお世話になっただろう、Bリーグやオリンピック公式球でおなじみモルテン社の本拠地でもある。バスケが熱くなるべき理由の多い街が、西地区をけん引する日はもうすぐだ。

島根スサノオマジック「反攻開始」

実力者を獲得し、反攻のシーズンを迎える島根[写真]=加藤誠夫


 Bリーグ創設以降、流した涙が一番多かったのは実はこのクラブではないかと思う。まずBリーグ開始時点は、財務体質が脆弱との判断でB2スタートを甘受している(2016-17)。悔しさはクラブもブースターもあったはずで、コート上の結果とクラブライセンスを地域全体で勝ち取り、Bリーグ2年目にB1最短昇格を果たした。

 ドラマはまだまだ続く。B1初年度となった2017-18シーズンは11勝49敗。当時の記録となる21連敗の屈辱を味わい、残留プレーオフを経て、再びB2に降格する悲劇があった。しかし島根は再び這い上がる。舞い戻った2018-19シーズンのB2で西地区2位のワイルドカード出場ながら、プレーオフで3位となり、上位の信州、群馬がクラブライセンスを持たなかったため、再びB1へ返り咲いた。

 再昇格を果たした旧経営陣は、悲劇を繰り返してはいけないと、経営権をバンダイナムコンターテインメントへ引き継ぐことにより、島根とマジックの未来を託した。簡潔にしてしまうと申し訳ないが、コート上でもコート外でも流れた涙があったことは想像できる。

 降格がないシーズンだったことも幸いし、島根は初めて2シーズン(2019-20、2020-21)続けてB1を戦い、昨シーズンは勝率5割へ手が届く位置まで這い上がってきた(西地区5位/勝率46.7パーセント)。

 そして本格的な反攻はこれからだ。昨シーズンのロスターから9名を残し、東京オリンピックでもその存在を改めて、アルゼンチンの方々以外に強く知らしめた、金丸晃輔選手(三河から加入)の獲得だ。なにものにも代えがたい彼の存在価値を、島根が手にするとはまさにマジック。さらにオリンピックメンバーから惜しくも漏れ、いま日本で一番ハングリーなガードかもしれない、安藤誓哉選手(A東京から加入)を迎え入れることに成功している。

 マジックがまだできる前、島根でのプロバスケ創設の機運づくりのため滋賀レイクスターズvs東京アパッチにプレシーズンゲームが行われ、レイクスのスタッフの一員として、その試合を戦わせていただいたことがある。調べると2009年9月、手作り感あふれるゲームだったが、官民をあげてバスケを通して街を盛り上げようと取り組まれた方々の顔が目に浮かぶ。その試合を覚えている方はもういないかもしれないが、マジックを昔から支える方も、最近好きになってくれた方も、今度チャンピオンシップホーム開催という全国から注目を浴びるゲームが行われますんで、またマジックの試合に顔を出してくださいね。

富山グラウジーズ「矢でも槍でも新B1基準でも持ってこい戦法」

宇都やマブンガ、スミスといった主力選手に加え実力者をロスターに迎えた富山[写真]=B.LEAGUE


 昨シーズンの富山を「矢でも槍でも鉄砲でも持ってこい戦法」と評させていただいたことがある。すでにリーグで評価されている選手たちと、若くアグレッシブな選手たちとの融合を思いきり楽しんだ昨シーズン。B2移籍を選択した城宝匡史選手(B2愛媛オレンジバイキングスへ移籍)を除き、4選手が移籍と、ビッグクラブではないだけに、タレントを維持し続けることがいかに難しいかをこのオフにブースターも実感したはずだ。

 しかし、代わりに富山を選んだのは、晴山ケビン選手(千葉ジェッツから加入)、松井啓十郎選手(京都ハンナリーズから加入)、小野龍猛選手(信州ブレイブウォリアーズから加入)と、いずれもどこかのカテゴリーで代表経験を持つ選手ばかりと、逆にロスターのアップグレードに成功した。CSではGame3まで琉球ともつれる激戦を演じたチームに、さらに彼らが加わることで富山の危険度がブラフではないことを証明するだろう。

 昨シーズンいきなりクラブとしてBリーグ最高勝率65パーセントをマークした浜口炎HC。さらに浜口イズムが浸透すれば、見た目の貫禄はすでにビッグクラブ。ホームの熱狂もビッグクラブ。足りないのはマネーだけと言いたいところだが、こういうドラマ好き、エンターテイメントクラブもいないとプロバスケは盛り上がらないだろうから、「矢でも槍でも新B1基準でも持ってこい戦法」に改名させていただきます。

信州ブレイブウォリアーズ「B1の歩き方は信州に学べ!」

今シーズンの信州には西山らの負担軽減が期待できるメンバーがそろった[写真]=B.LEAGUE


 昨シーズン信州が残した、20勝34敗(勝率37.0パーセント)の成績は過去の昇格クラブでは最高勝率だ。格差が広がるBリーグではB1に居続けること自体が難しくなるなか、降格のないシーズンとはいえ、クラブとしてしっかりと戦い抜いたシーズンととらえるべきだ。

 しかもホームでは12勝14敗と勝ち越しが目前に迫り、信州にとっていかにブースターの影響力が大切なのかも表している。

 このオフはロスター9人を残留させ、なおかつ外国籍選手と全員再契約した点をみると、実はリーグで2番目に失点の少ない、日本アルプスディフェンスの継続性を優先した判断か。逆にオフェンスではリーグ最下位に甘んじてしまった、平均71.9得点の改善は日本人選手に託したようにも見える。

 岡田侑大選手(富山から加入)には平均2ケタスコアどころか、平均20得点へのチャレンジが求められるだろう、というのは半分冗談で。熊谷航選手(三河から加入)により、これまでガードとスコアの両方を引き受けていた西山達哉選手の負担軽減が可能で、かつアンソニー・マクヘンリー選手もボールキャリアーだった時間を、もっとスラッシャー、アタッカーにシフトできれば信州のスコアが自ずと上がってくると期待できそうだ。

 当然既存選手たちがおとなしくベンチにいるわけもなく、激しいプレイタイム争いがおきれば信州の未来は明るい。昇格組のベストシナリオモデルを信州が作れるのか。昇格を控えたB2ブースターの皆さん。「地球の歩き方」じゃなくて「B1の歩き方」は信州ブースターに聞きましょう。

三遠ネオフェニックス「バスケ過密地帯でサバイブするには」

今シーズンはその真価を発揮することが期待されるラベナ[写真]=B.LEAGUE


 昨シーズンは開幕9連敗。新型コロナウイルスの影響で中止となった一昨シーズンは開幕16連敗と2年連続の開幕ダッシュ失敗は、さすがの三遠ブースターにもダメージは大きかったに違いない。

 愛知県は日本で一番トップカテゴリーに近いクラブが多い県で、男子:名古屋D、三河、三遠、FE名古屋、アイシン、豊田合成=6クラブ/女子:トヨタ、デンソー、トヨタ紡織、三菱電機、アイシン=5クラブと、計11クラブが1県にひしめくバスケ密集地帯だ。ファンにとってはいつでもバスケを楽しめる最高の県ともいえるが、新B1基準が示されたBクラブにとっては、このエリアで存在感を示すにはある意味今シーズンが勝負かもしれない。

 そのために違いを示すべく、アジア枠で話題のサーディ・ラベナ選手(アジア枠・フィリピン国籍)の獲得に取り組んでおり、このオフのフィリピン国籍選手の大量Bリーグ加入のムーブメントを起こしたパイオニアとなった。昨シーズンはケガでその真価を見られなかったが、フィリピン本国はもちろん三遠ブースター以外からも高い期待が集まる。

 昨シーズンからの残留は4選手だけと、新加入選手の8名にはプレッシャーはかかるが、生き残りをかけた戦いはマネジメントチームにも求められ、不死鳥のように這い上がる姿を見たい。まずはホームの勝率からブースターとともに取り戻せれば、長く三遠の歴史を知るオールドファンも安心だろう。

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