2025.10.24
全国大会での遠征活動費不足が話題になるなど、活動環境の変化が顕在化している学校の“部活動”。少子化や教員不足といった社会課題も重なり、「部活をどう支えるか」は地域社会全体のテーマになりつつある。
そうした中、人材総合サービス会社の株式会社ネオキャリア(本社:東京都新宿区 代表取締役CEO:西澤 亮一)が、企業と高校の部活動をつなぐスポンサーマッチングサービス『Bスポンサーズ』を立ち上げた。
教育と地域、企業を結ぶ“インフラ”となりうる可能性を秘めているサービス開始の背景、描く未来像とは…。同社事業開発部の西野太基事業部長と若林伸之介グループマネージャーに話を聞いた。
インタビュー=藤田皓己
写真=須田康暉

高卒採用の課題に着目[写真]=須田康暉
――9月には國學院大學久我山高校バスケットボール部とネオキャリアがスポンサー契約を結んだことが発表されましたが、現時点で「Bスポンサーズ」はどれくらい広がっているのでしょうか。
國學院大學久我山高校バスケットボール部は、我々のテストモデルとしてスタートしたケースです。事業開始から約3カ月かけて学校側の開拓を進め、現在は全国で約200〜250校まで広がっています。高校側はスポンサーを求めるニーズが非常に高く、6〜7月頃から企業への紹介を始め、8〜9月には実際に受注も入り始めました。具体的には、町工場と徒歩圏内の高校がつながったり、老舗旅館と地元の高校がマッチングするなど、地域に根ざした事例が出始めています。
――主な支援内容はどういったものなのでしょうか。
実際のスポンサーはこれからさらに増えていく段階ですが、地方の高校におけるニーズの1位は「移動費」です。遠征費などに充てたいという声が圧倒的に多く、次に多いのが外部コーチなどの人件費です。用具の提供は一部ありますが、想定より少ない印象です。

日本全国を駆け回っているという若林氏[写真]=須田康暉
マッチングの場では、企業・学校(担当教員)・我々の三者に加え、生徒が参加するケースもあります。双方の課題や背景を共有し、「スポンサーとしてどのような支援ができるか」をざっくばらんに話し合う場を設けます。この段階まで進むと、多くのケースでそのままスポンサー契約へとつながっています。

――全国高等学校体育連盟では「競技者および指導者規定」にて「金品の支給」が競技者の禁止事項として明記されています。このハードルはどのように乗り越えられたのでしょうか。
高体連の規定は“大会に出場する際にスポンサー資金を使ってはいけない”という内容であり、部活動にスポンサーをつけること自体を禁じているわけではありません。大会参加費用は自費または関係者の負担で賄う必要がありますが、部活動へのスポンサー導入は規約上NGではないんです。実際、一部の強豪校はすでにスポンサーを導入しており、全国大会にも問題なく出場しています。
一方で、課題となるのは資金の受け渡し方法です。部活動は法人格を持たず、契約主体も銀行口座もないケースが多いため、学校や教員が直接資金を受け取ることは非常に難しい状況です。そこで我々は、学校法人と契約し、資金はSportsBank(株式会社Asian Bridgeが運営するスポーツ活動支援アプリ)というシステムを介して管理・運用するスキームを構築しました。
具体的には、企業からの資金はネオキャリアが管理する預かり口座に集め、システム上で各学校・部活ごとに「仮想口座」を分けて管理します。高校側はSportsBankのアプリ上で残高を確認し、例えば遠征費などの支出が必要な場合は「出金依頼」を提出。内容を確認したうえで、我々が企業から預かった資金を指定先に振り込みます。高校側が現金を直接受け取ることはなく、支払代行のような形式をとることで、会計処理や契約の煩雑さを解消しています。
企業と高校は直接契約せず、企業とは広告宣伝費として我々が契約、学校法人とは利用申込を交わす形です。資金の使用履歴はスポンサー企業にも共有され、透明性が担保される仕組みになっています。
――お話を伺っていると「Bスポンサーズ」は軌道に乗り始めている印象ですが、その中で見えてきた課題や、まだ実現できていないことはありますか。
現在、約250校を開拓していますが、日本には全日制高校だけでも約5000校あり、まだ5パーセントほどのカバー率に過ぎません。教員の方々は前向きなケースも多いのですが、最終的な決裁には教頭・校長・理事長、あるいは教育委員会の判断が必要になることも多く、保守的な姿勢から導入に踏み切れない学校も少なくありません。また、企業から見て「支援したい地域に学校がない」ケースも出てきます。今後はこの仕組みを「当たり前」にしていくためにも、広報・PRを強化し、認知を広げていくことが重要だと考えています。
――バスケットボール以外の競技で例はありますか。例えば個人競技の場合、どういったお金の流れになるのでしょうか。
バスケットボールなどの団体競技のみならず、個人競技やニッチな部活動の事例も多くあります。例えば射撃部、スキー部、ドローン部、eスポーツ部など、全国的には競技人口が少ない種目でも、支援の申し込みは多数いただいています。こうした競技は人数こそ少ないものの、備品や移動費が高額になるケースが多く、特に大会や練習試合のために遠征しなければならないことも多いです。そのため、企業とのマッチングは難易度が高い部分もありますが、ニーズは非常に強いと感じています。個人競技の場合も、基本的にはすべて学校・部活動を通した支援になります。個人に対して直接資金を渡すことはできません。スポンサーからいただいた支援金は、部活動単位で受け取り、そこから個人競技の選手に必要な形で分配していく仕組みです。

バスケットボールは再注力している競技の一つだという[写真]=須田康暉
――今後、國學院大學久我山高校バスケットボール部に期待すること、またモデルチームとしての成長イメージについて教えてください。
國學院大學久我山高校バスケットボール部は、我々にとってのモデルケースの1つです。ここではスポンサー企業との連携の一環として、企業説明会や会社見学などを実施しました。部員や先生、一部の保護者も参加し、企業との対話の場を設けることができました。
このスキームでは、スポンサー契約の条件として「ロゴ掲出」は必須ではなく、企業見学・説明会を実施することを必須条件にしています。実際に高校1・2年生のうちから企業と接点を持つ機会はほとんどなく、従来は就職活動のタイミングになっても自由応募ができず、限られた求人の中から1社を選んで受験するのが現状です。そうしたなかで、企業見学や若手社員との交流は生徒にとって貴重なキャリア教育の機会になっています。
また、スポンサー企業・学校・生徒の三者が連携することで、民間企業との接点を教育の中に取り込む新しいモデルを示せています。多くの高校生はプロ選手になるわけではなく、いずれ民間企業で働くことになります。部活動を通じて培った情熱や努力を、社会に出ても生かして欲しい――それが企業側の思いでもあり、我々人材会社としての願いでもあります。
「部活を頑張る」という経験が、そのまま社会で活躍する力につながる。國學院大學久我山高校バスケットボール部の取り組みは、まさにその第一歩であり、今後もこうしたモデルを全国に広げていきたいと考えています。

Bスポンサーズが課題解決への突破口となるか[写真]=須田康暉
1つ目は、感情的な「応援したくなる気持ち」です。実際に企業の方と部活動を見に行くと、生徒たちの一生懸命な姿に触れ、「応援したい」という気持ちになる方が多いです。これは採用の観点とは少し違う、純粋な支援意欲としての価値があると感じます。
2つ目は、企業活動との自然な接点づくりです。例えば吹奏楽部は楽器や遠征の費用がかさむためスポンサー需要が非常に高いのですが、聞いたところでは、ある介護施設を運営する企業が地元の学校の吹奏楽部を支援し、施設での演奏会などを通じて地域との交流を深めているケースもあるそうです。こうした活動は施設利用者の満足度にもつながり、単なる金銭的支援にとどまらない価値を企業側も感じているようです。
さらに、学校との関係構築がしやすいという声もあります。従来、企業が学校と関わる機会は「採用活動」が中心で、学校側からは“営業”として警戒されることも少なくありませんでした。しかし『Bスポンサーズ』では、まず「部活支援」が主軸であり、そこにブランディングや採用の可能性が付随する形になるため、企業も自然な形で学校とパイプを太くすることができます。この点は、多くの企業から「今までにない関係性が築ける」と好評をいただいています。
――Bスポンサーズを通じて、今後どのような世界を実現したいと考えていますか。大きなビジョン・野望を教えてください。
まず定量的な目標としては、高校だけでなく中学校の部活動も含めて、地域移行・地域展開の流れに合わせながら支援の輪を広げていきたいと考えています。いま部活動やスポーツ・文化活動は、人口減少や教員の人手不足などを背景に大きな転換期を迎えています。これまで学校内で保障されてきた「誰もが一定期間、費用や環境を気にせず活動に打ち込める権利」が、民間移行によって失われかねない状況です。経済的・家庭的な事情で参加できない子どもが出てくると、それは教育格差に直結します。
私たちは、地元の企業が地元の学校・教育機関を支える仕組みを社会に根付かせたいと考えています。企業が未来の地域人材を育てるという観点からも、部活動や文化活動への支援は自然な投資であり、このスキームがその「受け皿」となることを目指しています。さらに、企業の関わりが生徒にとってキャリア教育の機会にもなり、若いうちから社会や仕事を身近に感じるきっかけになるなど、相乗効果も期待できます。将来的には、このモデルが社会全体に広がり、地域・教育・企業が自然に連携する“当たり前の構造”を作っていくことが理想です。
情熱をもって部活動に打ち込む高校生たちの姿勢は、企業からも高く評価されています。社会に出たときに同じ熱量で働く若者が増えれば、日本全体の力にもつながっていくはずですし、一生懸命働く若者が国としても会社としても財産になると思います。こうした未来につながる取り組みであれば、人材会社としても積極的に取り組む意義があると考えています。

『Bスポンサーズ』という名称は、部活(Bukatsu)と“be a sponcer”(スポンサーになる)の「B(be)」に由来[写真]=須田康暉
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