2025.02.25

「ずっと一緒に歩んでくださった方々に…」…東京羽田ヴィッキーズの本橋菜子が涙した日

三菱電機との大一番に臨んだ東京羽田の本橋菜子 [写真]=Wリーグ
フリーライター

満員の観客の中でプレミアリーグ昇格を達成

「ホッとしたのと、うん、ホッとしたのと、うれしいのと、幸せすぎて。もうなんて言うか、どんな感情だろうっていう感じです(笑)。でも、本当に感謝の気持ちが大きいですね」

 2月23日、Wリーグのフューチャーリーグで優勝を果たし、来シーズンのプレミアリーグ昇格を果たした東京羽田ヴィッキーズ本橋菜子は、試合後、満面の笑みで優勝の感想を語った。

 22、23日と2日間にわたって行われた三菱電機コアラーズとの首位決戦は、2連勝したチームがその時点でフューチャーリーグの優勝が確定、1勝1敗になると3月2日の試合に持ち越しとなる大一番に。東京羽田にとっては1勝1敗だと、5度の対戦で三菱電機に負け越すこととなるため、3月2日の試合は他力本願の要素が含まれてしまう。そのため、是が非でも2連勝、しかもホームコートの大田区総合体育館で優勝を決めたかった。

 もちろん、それは三菱電機も同じこと。それだけに意地と意地がぶつかり合った試合は第1戦から激戦で、第1戦は加藤優希の決勝シュートで東京羽田が68−67と辛うじて勝利した。

 続く第2戦、「三菱電機も昨日負けたことで強いプレッシャーと気持ちで臨んでくるだろうと思っていたので、私たちも最初から気持ちで負けないようにと試合に入りました」(本橋)という東京羽田は、その本橋がティップオフからボールを保持すると隙を付いてドライブからシュートを試みる。シュートはファウルで阻まれたものの、しっかりとフリースローを沈めて幸先良いスタートを切った。

 その後も千葉歩、加藤らで得点を重ねた東京羽田だったが、三菱電機も一歩も引かず、司令塔の藤田和がパスに自らのシュートにと奮闘する。そのまま前半は三菱電機が2点リードで終えた。

 迎えた後半、東京羽田は一時8点のビハインドを負ったが、「今シーズンは日替わりで活躍する選手がいる」(萩原美樹子ヘッドコーチ)という言葉通り、ここからルーキーの洪潤夏が外角シュートを確率良く沈めていく。千葉のブザービーターも飛び出し、第3クォーターを終えて5点のリードを奪った。

 第4クォーターでは三菱電機に点差を詰められる場面があったものの、終盤には相手がミスをしている間に確実に得点。最後は86−76で勝負を決めた。

チームを高みへと引っ張る本橋の存在

 この試合、東京羽田の絶対的司令塔である本橋は足を痛めて後半開始早々にベンチへ下がることに。相手のヒザなどが入る“ももかん”だったと後に教えてくれたが、ベンチに下がった直後は「大事な試合だからなんとしても立ちたいと思っていたのですが、力が入らなくてどうしようという気持ち」だったという。それでも、仲間の活躍に途中からは「ベンチでみんなが戦っている姿を見たら私自身がすごく感動して勇気をもらって。本当に幸せだなという思いで見ていました」と、試合終了のブザーが鳴るまでベンチで戦況を見守った。

後半はベンチからチームメートを鼓舞した [写真]=Wリーグ

「最高のチームメートだなと思って。あと会場の雰囲気も、ファンの皆さまがあの雰囲気作り上げて、後押ししてくれたので、本当に幸せな環境でいられたと思います」

 こう語る本橋について、萩原ヘッドコーチは、「パリオリンピックから帰ってきてチームへのコミットの仕方が変わった」と、語る。

「もともと発言力はある選手だったけれど、期するものがあったのだと思います。選手たちも彼女の言うことは私が言うより聞くので、彼女のコミットの仕方がチームに波及していったと思います」と、本橋のリーダーとしての働きを称えた。

 本橋は東京、パリと2大会連続でオリンピックに出場。日本代表でも実績を積んでおり、押しも押されもせぬ東京羽田のリーダーだ。

 シーズン中にも「個人的にオリンピックでの悔しい思いがあって、あの経験をなかったことにはしたくないし、みんなにもそういう思いをしてほしくない」と語っていたが、改めてオリンピック以降の思いを聞くと、このようにコメントした。

「(オリンピックでの)負けがすごく悔しくて。負けたことというよりは、結果に至るまでのプロセスだとか、言葉で表現するのが少し難しいのですが、やり切ったと思える終わり方をしたいというもどかしさがありました。悔しいのと情けないのといろんな感情で終わってしまったので、そういう思いを自分もしたくないし、チームとしても絶対にしたくない。絶対にこの経験を次につなげるんだという思いはすごく強かったです。でも、そう思うことができたのはヴィッキーズがあったから。個人的にはそれでまた踏ん張れることができました。だからこのチームに貢献できるようにという気持ちでした」

 さらに本橋は、今シーズンのチームについても彼女らしい実直な言葉でこう振り返った。

「(選手)一人ひとりがチームのために、優勝にふさわしいチームであるために練習中から努力していました。今日も(ビハインドの状態から)終盤に追い上げることができたのはベンチメンバーの支え(活躍)があったから。それはやろうと思って(簡単に)できることではないと思っていて、どんな状況でも、どんな場面でも自分がチャンスをつかむと思ってコツコツ積み上げてきた人たちしかできないと思っています。あの大舞台で大事なところでそれを出せたというのは、(努力を重ねた)そういう人たちの集まりだったんだと改めて実感しました。本当にいいチームメートに恵まれてうれしいです」

 東京羽田在籍9シーズン目。これまで試合ではうれしい勝ちも悔しい負けもたくさん経験してきた。本橋といえば、どんなときも試合後の取材では冷静に現状を語ることが多く、たとえ負けた試合でも自分の言葉にして振り返ることができる、そんな強さを持つ選手でもある。

 その本橋が優勝を決めたあと、珍しく目にいっぱい涙を浮かべ声を詰まらせたシーンがあった。それは「会場を満員に埋めることができたのは今シーズンだけでなく、これまでの東京羽田の活動があってのことではないか」というこちらの問いについて答えたときだ。

「勝てなくてすごくもどかしい思いをさせてしまったファンの方たちだったり、スポンサー企業の方たちだったり、それでも応援すると言って、ずっと一緒に歩んでくださった方々には、今日こういう景色を一緒に見られたことをうれしく思います。それに、応援席にもこれまで一緒に戦ってきた仲間の姿があって、その人たちを見たら、『あ、この人たちが作り上げてきてくれた、んだな』って。もちろん、その上の方たちもいるんですけど、そうした人たちが積み上げてきてくれて、今のヴィッキーズがあるんだと思いました。私自身はその人たちの分も背負わなくてはいけないと思っていたので、今日それが報われた。ヴィッキーズはこれからのチームではあると思うのですが、一つ形として優勝を達成することができてうれしいです」

 苦楽を共にしてきた仲間やファンの目の前でプレミアリーグ昇格を決めたこの日、“ヴィッキーズの顔”である本橋は、人目をはばからず涙を流していた。

昇格を決め、本橋菜子の体が宙を舞った [写真]=Wリーグ

文=田島早苗

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