引退発表の“勝負師”柏木真介が3年ぶり先発出場「出しきったという気持ちでしかない」

「大野（篤史）ヘッドコーチをはじめとしたスタッフから、『最後はスタメンでいく』という話を金曜日の練習が終わったあとから言われていました。その時から本当にラストなんだなと思って、今日まできました。試合に入れば、これまでチームとしてやってきたことをやり通そうという気持ちでした。出しきったという気持ちでしかないです。チームとしても自分たちらしいディフェンスからいいオフェンスをできました。チャンピオンシップにつながるバスケットをできたと思っています」

　現役引退を発表してから3日後の5月4日、三遠ネオフェニックスの柏木真介が川崎ブレイブサンダースとの「りそなグループ B.LEAGUE 2024-25 SEASON」最終戦でスターティングファイブに名を連ねると、会場の川崎市とどろきアリーナは大きな拍手に包まれた。先発出場はシーホース三河に在籍した2022年5月8日以来、3年ぶり。「年齢による筋肉系の故障がかなり多かったのは事実です。年が明けてからはずっとリハビリで、つい最近復帰したばかりです」と大野HCが明かしたように、試合への出場自体も12月22日以来となった。

　久々の実戦になったものの、今シーズン最長16分37秒のプレータイムで3得点1リバウンド1ブロックを記録。指揮官が「全然動けるし、まだまだやれるんじゃないかと思いました」と評価する働きで、チームの勝利に貢献した。そんな43歳は現役引退の決断を下した理由を明かす。

「ここ数年は年齢が年齢なので、常にいつ終わってもいい覚悟というか、気持ちでいました。プレーさせていただける機会があり、チームに必要だと求められてここまでプレーさせていただきました。三遠に来た時、ラストかなという気持ちがありました。ただ、プレーしていくなかで、（まだ）できるなという気持ちが出てきます。自分でもわからない部分がありましたけど、シーズン途中にやりきった気持ちが強くなったんです。選手を終えて、次のステージとしてコーチをやってみたいなと。もともと引退後はできるならコーチをやりたいと思っていましたから、その気持ちが強くなりました」

持ち味のディフェンスでチームに貢献 [写真]=B.LEAGUE

　柏木は2004年に日立サンロッカーズ（現サンロッカーズ渋谷）でキャリアを始め、2006年から在籍したアイシンシーホース（現三河）では中心選手として活躍。その後は名古屋ダイヤモンドドルフィンズ、新潟アルビレックスBBを渡り歩き、2020年に三河へ復帰した。今シーズン開幕前に期限付移籍で三遠へ加入。「まだまだ新たな学びと経験を積みたい」（三遠のリリースより引用）との思いで新天地を選んだ。

「ここに来て最初に思ったのは、選手間のコミュニケーションをすごく取ることです。ほかのチームの若手はあまり話さない印象でしたけど、ここはみんながしっかりと話してコミュニケーションを取り、チームが良くなるための言い合いというか、会話をしています。僕が何かをしたというより、一緒にハードな練習をこなし、試合に向かって一緒に戦いました。もちろん、苦しい時に声を掛けることはありましたけど、基本的にはみんなと一緒に戦いました」

　旧リーグ時代から対戦経験がある川崎の篠山竜青は、試合終了後のセレモニーで「柏木さん、お疲れさまでした。本当に素晴らしいポイントガードで、入団1年目のデビュー戦がアイシンシーホース戦だったのですが、柏木さんが怖くて怖くて。ちびりそうになりながら、何とかついていったのを思い出します」と言及。会見で「怖さ」の意味について聞かれると、次のように説明した。

「まずは迫力、勝利に対する意欲。常にハンティングするというか、ディフェンスもオフェンスもそうです。隙があればリングを狙ってくるし、スティールを狙ってプレッシャーを掛けてくる。オーラというか、コートに入った時の勝負師としての気迫が1年目の僕からしたら本当に刺激的でした。覚悟を持ってチャレンジしないと、あっという間に飲み込まれるようなことを感じながらプレーさせてもらえたのは、1年目の僕にとってすごく勉強になったし、学ぶものがたくさんあったという意味で言わせていただきました」

　レギュラーシーズンは終わったが、三遠には優勝を目指す戦い「りそなグループ B.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2024-25」が控える。柏木の“ラストダンス”はオーバータイムに突入した。

笑顔でレギュラーシーズン最終戦を終えた [写真]=B.LEAGUE

取材・文＝酒井伸