2025.08.14

ママプレーヤーとして挑む富士通の前澤澪…サマキャンでは3年のブランクを感じさせないプレーも「まだまだ」

ママプレーヤーとなってWリーグのステージに復帰 [写真]=W LEAGUE
フリーライター

■4シーズンぶりの復帰、観客の前でプレー

「ちょっと緊張しましたけど、前の週に(Wリーグのチームと)練習ゲームをやったのですが、そのときが“爆”緊張で(笑)。だから今日はそのときより少しは試合には慣れたかなと思います」

 7月19日から21日にかけて、石川県金沢市にて行われた「能登半島地震復興支援 Wリーグサマーキャンプ 2025 in いしかわ」。サマーキャンプはWリーグに所属するチームをメインに15を超えるチームが集結して試合を行う毎年恒例の交流戦。今年のこの大会で実に4シーズンぶりに観客の前でプレーしたのが、富士通レッドウェーブ前澤澪だ。

 前澤より篠崎という苗字の方が馴染み深いかもしれない。神奈川県出身の前澤は、旭中学校、金沢総合高校、松蔭大学と一貫して地元のチームから全国大会で活躍し、大学卒業後に富士通に入団。1年目からローテーションの一角を担い、この年のルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得した。その後も富士通で主軸として8シーズンを戦い、その間に5人制、3人制ともに日本代表に名を連ね、2021年夏の東京オリンピックには3x3女子日本代表として出場している。そして、オリンピックを終えて秋から始まったシーズンを最後に、惜しまれながら引退をした。

背番号は昔のままだが、名前は「MAEZAWA」に [写真]=W LEAGUE

 最後のシーズン終盤にはすでに入籍をしていた前澤は、その後、2023年に第1子となる女児を出産。子育てや仕事復帰も果たし、忙しい日々を過ごしていたが次第に現役復帰への思いを強くする。

 キッカケとなったのは出産から約半年後、国民スポーツ大会の予選となる関東ブロック大会に神奈川県代表として出場したことだ。「やっぱりバスケットをやりたいな」という思いが芽生えた。当初はその思いを秘めていたが、時間が経つにつれ「やりたいことがあるのにこのままでいいのか」と考えるようになり、家族に相談。現役アスリートでもある夫は「これが何年か後だったらできないこと、今しか復帰はできないから、『それならやった方がいいよ』と言ってくれた」と、彼女の背中を押したという。

■復帰の決意とモデルケースとしての挑戦

 やると決めたら妥協はしない。時間を作っては体力作りに励んだ。かつて”篠崎”といえば無尽蔵なスタミナの持ち主で、豊富な運動量を生かし、どんなときもタフに、そして献身的に体を動かす選手として知られていた。そして今回のサマーキャンプで4シーズンぶりに見せたそのプレーは、当時と見劣りしないほどだった。復帰を決めたときからサマーキャンプまでの期間、どれだけストイックに自分の体と向き合ってきたかはその動きから見てとれた。

 これには、熱視線を送っていた関係者からも、「3年間のブランクがあるとは思えない」といった声が多く飛んでいた。

 一方で、前澤自身は「自分の中ではまだつかめていない。試合勘というか、もう少しやりたいし、できるようになりたいと思っているからこそ、できる感覚やイメージっというのはないです。頭では『ここで動きたい』と思っているけれど、そこに体が動かないとか。それが感覚的なものなのか、体がまだ動けてないのか、なんと言っていいのか難しいですが。頭でイメージしていることに対して一歩付いていけていないところがあります」と、言う。

 久しぶりの試合。こうしたイメージと実際の動きとのズレは、開幕に向けた練習や試合で戻すことができるのか? すると前澤は、「分からないです(笑)。体がこれ以上動くのかも不透明です」と、表情を緩めながらも素直な思いを吐露する。約3年間、第一線から離れていたのだから無理もないだろう。本人にとっても未知の世界だからこそ、「もしかしたら今がマックスで動ける状況になってしまうかもしれないし、まだまだ動けるかもしれない。もちろん、まだまだ動けるように努力はしていくので、リーグ戦が始まって、その感覚がつかめるようになっていればいいなと思います」と、語った。

若手をリードする前澤には様々な期待が寄せられる [写真]=W LEAGUE

 サマーキャンプでは日本代表の宮澤夕貴やコンディション調整中の町田瑠唯林咲希赤木里帆らが不出場だったこともあり、ポイントガードをする時間も多かった。そのため、「今はボールを持つケースがすごく多くて、私のやりたい、一番得意なことはまだやれていないところはあります。でも、今はハンドラーの練習になるのでプラスだと思っています」と、前向きに捉え3試合を戦った。

 試合こそ不出場だったものの、ベンチで彼女のプレーを見ていた町田は、早く一緒にやりたいという気持ちを強くしたという。それを本人に伝えると「うれしいですね。私が言うのはおこがましいですけど、私も一緒にやりたいと思っています」と、ここで謙虚な言葉。

「だって、3年もブランクあるので。もうみんなには保険をかける意味でも『私は1年目だから』と言っています(笑)」とは、実にユーモアも持ち合わせる前澤らしい。

 Wリーグの中では唯一のママプレーヤー。今後を考えればWリーグも出産を経て現役復帰という選手が出てくる可能性は高いだろう。前澤はそのモデルケースともなるわけだが、「しっかりコートに立ってやっていきたい。ただ復帰して、みんなの中である程度やるというのではなく、やるからにはしっかり結果を出したいという気持ちは強いです。結果を残さなければ、周りに『出産後でも頑張れば選手に復帰できる』と思ってもらえないので。(同じような環境の人に)ちょっとやってみようって思ってもらうためにも活躍しないといけないと思っています」と、決意を新たにする。

 未だかつてない挑戦ではあるが、前澤は家族のため、応援してくれている人たちのためにも、これからも全力で取り組み、来たるシーズンを迎える。

文=田島早苗

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