2026.04.10
4月10日、アルバルク東京は菊地祥平が今シーズン限りで現役を引退することを発表した。翌11日に行われた島根スサノオマジック戦後、菊地はメディアの取材に応じ、自らの口で引退を決意した背景や家族の反応、そしてチームへの思いを明かした。
竹内公輔(宇都宮ブレックス)や竹内譲次(大阪エヴェッサ)らを筆頭とする“黄金世代”の1人として、大学時代まではスコアラーとして名を馳せていた菊地。そんな彼にとって大きな転機となったのが、2013年にトヨタ自動車アルバルク東京(現アルバルク東京)へ加入したことだった。当時の東芝ブレイブサンダース(現川崎ブレイブサンダース)からの退団時には引退も覚悟していたというが、妻の「まだやりなよ」という言葉に引き止められ、現役続行を決断した。
移籍先では運命的な出会いを果たす。当時のドナルド・ベックヘッドコーチから「お前はエースを潰すようなディフェンスを持っているのだから、もっと極めないとダメだ」と言葉をかけられたのだ。
「バスケットはリングにボールを入れ合うゲームなので、点を取った方が絶対面白いのですけど、そのスペシャリストを目指す人はたくさんいます。では自分はどうしたらいいか? このチームでどう生き残るかと考えた時に、ディフェンスだという思いに至ったのです」
菊地はかつての取材でこのように語っていた。
A東京において、その姿勢はチームカルチャーの礎となった。泥臭いディフェンス、ルーズボールへの執着、献身的なスクリーンワーク。スタッツには表れにくいプレーの積み重ねこそが、クラブの強さを支えてきた。Bリーグにおいていまだ他クラブが成し得ていないリーグ連覇の達成にも、菊地の存在は欠かせなかったと言っていい。

記者の質問に答える菊地 [写真]=B.LEAGUE
この日の島根戦で菊地はベンチ外となったものの、試合後のメディア対応に姿を見せたその表情はいつものように穏やかだった。引退の決断に至った経緯について、菊地は今シーズン開幕前から「ロスター外がメイン」となる役割を受け入れていたと明かす。シーズンを通してケガ人が続いたことでベンチ入りや出場機会を得ることもあったが、「僕がそういう状況じゃない方が、チームとしては一番いい状況であることには変わりない。自分の良し悪しよりも、チームを優先して、チームが一番いい状況で戦えるのがベスト」と、どこまでも“フォア・ザ・チーム”の精神を貫いた。
その上で、「メンタルは正直、全く悔いはない」と清々しく語り、年齢や体力面と相談しながら「ここが良い区切りなのかな」と、伊藤大司GM(ゼネラルマネージャー)とのミーティングのなかで自ら引退を申し出たという。
また、家族の反応について問われると、妻からは「自分の好きにしていいよ」と声をかけられ、子どもたちからも「次も頑張ってね」と背中を押されたことを笑顔で振り返った。「子どもの記憶にバスケットをしている姿を残す」という自身の目標をしっかりと果たせたことも、未練なく区切りをつける大きな後押しとなったようだ。
現役生活を振り返る場面では、過去に一度引退を覚悟した際に当時のチームから「拾ってもらった」という恩義に触れつつ、A東京というクラブへの深い愛情を口にした。役割の変化を受け入れ、自身の価値を見出し続けてきたキャリアが、菊地という選手の本質を物語っている。

コートに立てない試合も多くなったが、ベンチ外からも菊地の指示が飛ぶ [写真]=B.LEAGUE
同日のメディア対応には、チームメートのライアン・ロシターと小酒部泰暉も出席。菊地の引退について、それぞれの立場から言葉を寄せた。
ロシターはかつて宇都宮に所属し、A東京とは幾度となく激闘を繰り広げてきた。ライバル関係にあった時代を振り返り、「インポート(外国籍選手)相手にもフィジカルに戦うことをいとわない選手だった」と語る一方で、チームメートとなってからは、スタッツに表れない部分でチームを支え続けるリーダーシップに触れ、「彼のために、最後はチャンピオンシップを獲って送り出したい」と深い敬意を示した。
一方、小酒部は“後継者”として菊地からいやらしいプレーを伝えていきたいと名前を挙げられた存在だ。「ルーキーイヤーから祥平さんを見てやってきた」と語るその言葉には、単なる技術的な継承にとどまらない意味が込められている。日々の練習への向き合い方、試合における献身性、そしてチームを第一に考える姿勢。そうした無形の価値こそが、次の世代へと受け継がれていくべきものである。
華やかな個人成績で語られるタイプの選手ではなかった。しかし、菊地祥平という存在は、確かにA東京というクラブの歴史に深く刻まれている。勝利の裏側で献身的な働きを貫いた“仕事人”は、最後までその役割を全うしようとしている。
B.革新を来シーズンに控え、サラリーキャップや外国籍選手の登録数など様々なレギュレーションの変更への準備がスタートしている。クラブとしても数多くの対応を否応なく進めなければいけない状況だ。現在41歳の菊地は前述の通り、伊藤GMとのミーティングのなかで今シーズン限りの引退を決めたという。チームメートは、ファイナルが行われる「祥平を横浜アリーナに連れて行く」と気持ちを一つにする。しかし、本人はクラブ発表のメッセージでもあるように「残りのシーズンも、ベンチに入れても入れなくても、試合に出られても出られなくても、自分の役割は変わらないです」と滅私の姿勢を変えていない。
そもそも引退を事前に発表する予定ではなかったという。しかし、様々な関係者と話をするなかで、自身が山形県出身ということもあり、遠方の地元の人たちやこれまでのファンに「最後に観に来るタイミング」を作りたいと考え、クラブに快諾をもらって告知を決めたという。また、「私個人ではなく、いまのアルバルク東京をぜひ観に来ていただきたい」というクラブ愛も、このタイミングでの発表を後押しした。
それもまた菊地らしい。ただ、菊地のメンタルをさらにチームメートが共有することで、アルバルクはさらに強さを増すはずだ。順位争いが最終節まで続くのではないかと予想されるシーズン終盤の戦いのなか、菊地の決断がさらにチームを強くするはずだ。
文=入江美紀雄
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