2026.06.15
今シーズン限りで現役引退を表明していた菊地祥平が、来シーズンから古巣である川崎ブレイブサンダースのディベロップメントサポートコーチに就任することが発表された。新たに設けられた同職は、選手個人のスキルアップや育成を専門に支え、アシスタントコーチ陣と連携しながら個の成長をサポートする役割を担うという。
5月30日、有明コロシアムで開催されたファン感謝イベント「THANKS FESTA 2025-26」の一環として、菊地の引退セレモニーが実施された。当初、菊地はクラブ関係者から「短いムービーを流すだけ」の大げさではないイベントだと聞かされていたが、会場には元チームメートであり同い年の竹内譲次、そして同じく元チームメートの田中大貴が花束を持って登場するサプライズの演出が用意されていた。
イベント終了後、メディアの取材に応じた竹内と田中は、長年ともに戦ってきた戦友へはなむけの言葉を送った。竹内が「寂しさはもちろんありますけど、彼の表情を見て『やり切ったんだな』というのが伝わってきました。プロスポーツの世界で、これだけ納得して晴れやかな気持ちで現役を終えられる選手は一握りだと思います」と語ると、田中も「祥平さんは常に自分の役割を理解して黙々と遂行し続けてくれました。年齢を重ねた今のほうが、プロフェッショナルな姿勢の難しさがよく分かります。本当に尊敬する先輩です」と賛辞を贈った。
さらに、今後指導者としての道を歩む菊地に対し、竹内は「彼がスピーチで『悔いはない』と言ったのは本心でしょうし、そんな彼の姿を見られて、こちらも嬉しい気持ちになりました」と語り、田中も「祥平さんとともに二つのチャンピオンリングを取れたことは、僕のキャリアのなかでも特別な思い出です」と、これまでの労いと今後の活躍を祈るはなむけの言葉を送っている。
A東京の黄金期を支えた3人にとって、ルカ・パヴィチェヴィッチ元ヘッドコーチの下で過ごした厳しい練習の日々は特別な記憶だ。竹内が「一つのミスも許されないような緊張感のなかで、毎日自分たちを追い込んでいました。あのプロセスこそが僕たちの絆を強くしてくれました」と振り返れば、田中も「あの厳しい日々をともに乗り越えた仲間は一生の宝物です」と語り、固い絆をのぞかせた。また、竹内は「彼が引退するなかで、僕はまだいつまでとは決めていません。ベテラン世代もまだまだやれるんだというところを見せたい」と決意を語り、田中も「祥平さんのような『背中で見せる』ことの大切さを改めて感じています」と現役としてのモチベーションを高めていた。
かつての戦友たちから厚い信頼とリスペクトを受ける当の菊地本人も、「ちっちゃな悔いもないですし、やり切りました」と晴れやかな表情を見せる。「ふとしたときに『ああ、もうバスケ競技が終わったんだな』と幸せを感じる瞬間があります。悔いがあったら『もうちょっとやりたかったな』と考えるんでしょうけど、それが一切ない」と、現役生活に一切の未練がないことを強調した。

菊地が目指すルカHC(左)と安齋HC [写真]=B.LEAGUE
すでにB級コーチライセンスを取得している菊地は、川崎の地で指導者としてのキャリアをスタートさせる。当面の目標については「1年の経験を経て、ゆくゆくはトップカテゴリーでアシスタントコーチができたら幸せだろうなと考えています」と言及。将来、指揮官に就くことについては「すぐできるものではないです。プレーヤーのときと同じように一から構築していって、自分はこういうコーチングだよと作り上げていく面白さがあると思っています」と、一歩ずつ着実にキャリアを積み重ねる覚悟を示した。
そんな菊地が理想とするコーチ像は明確だ。指標として名前を挙げたのは、前述の竹内や田中とともにA東京の黄金期を築き上げたパヴィチェヴィッチ元HCと、越谷アルファーズでともに戦った安齋竜三(来シーズンからシーホース三河のHCに就任)だった。
「リーグが発展していくなかで、若い選手がたくさん入ってくる環境になったとき、バスケットIQだったり、バスケットに対する姿勢の振り幅が大きく出てしまうと思うんです。若手のうちに、ある程度の姿勢やIQをしっかり身につけられる環境下ではないと、ベテランになったときに『こういうのが必要だったんだな』と気がついても遅い。僕が習ってきたルカHCや竜三さんは、僕のなかでの一つの指標です。しっかり練習をするタイプの、あのようなコーチ像を目指していきたいと思っています」
ルカHCの「一つのミスも許されない厳しい練習」を選手として乗り越えてきたからこそ、菊地はその重要性を誰よりも理解している。現役時代、常に自身の役割を理解し、ストイックに遂行し続けてきたプロフェッショナルな姿勢を若手に伝承したいという強い思いが垣間見える。指導者へ向けての準備は、実は現役時代からすでに始まっていた。「越谷に移籍したのも、竜三さんのバスケを習いたくて行っているので。将来コーチングをするときに、竜三さんのバスケを学んでおきたいという気持ちがありました」と明かし、コーチ業を始めるにあたっても、エージェントに対し「自分が魅力的だと思うヘッドコーチの下で学びたい」と打診していたという。「プレーヤーのときも、これからコーチになっていく上でも、どん欲に学ぶ姿勢は変えたくない」と語る通り、探求心は尽きない。
インタビューの終盤、菊地はこれからBプレミアへと向かうリーグ全体に対しても熱いメッセージを送った。
「僕のプレースタイル上、他チームのブースターからは好かれていないと思うんですけど(笑)。でも19年やってきて、自分のプレースタイルに悔いはないですし、胸を張ってやり切ったと言い切れます。コーチとして立場は変わりますが、チームを強くして他チームと切磋琢磨していくことで、日本バスケ界がもっと盛り上がってほしい。Bプレミアになったときにもっと発展できるように、どのホームアリーナに行っても、アウェーチームが『めちゃくちゃ嫌だよね』と思うような圧倒的な環境を皆さんと作り上げていけたら、コーチとしてもうれしいです」
竹内や田中が「一生の宝物」と語った厳しい練習の日々を糧に、プロフェッショナルとしての確固たる姿勢を築き上げた菊地。恩師たちから受け継いだ厳しくも愛のある指導哲学をもって、自身のバスケ人生をスタートさせた川崎という新天地で次世代の育成に尽力していく。
文=入江美紀雄
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