2023.08.07
小川麻斗は、基本どんな試合でも緊張しない男だ。彼の高校時代、全国大会で「緊張したか」と聞いたときも、「全然」とあっさり返されたことがある。それは今回の「第98回天皇杯 全日本バスケットボール選手権大会」の決勝戦も例外ではなかった。つまりは、加入して2カ月あまりのルーキーという立場でいきなり出番がきても、小川はいつも通りコートに立てたのである。
「ビックリというか、やってやるぞっていう気持ちでした」
琉球ゴールデンキングスとの天皇杯決勝、千葉Jは先発出場の佐藤卓磨が開始1分22秒で2つ目のファウルを取られ、ベンチへ下げざるを得ない状況になった。しかもマークしていたのは相手の中心選手である岸本隆一。このアクシデントの際、ジョン・パトリックヘッドコーチに指名されコートインした小川は、マークマンもそのまま引き継いだ。いきなり大仕事が舞い込んできた格好となったが、176センチのポイントガードは同じ身長の相手に食らいつき、岸本を自由にさせなかった。
「シュート力もスピードもあって、ドライブもできるので本当に色々やってくる選手でした。でも、自分も足がある方なので、粘り強く守れたかなと思います」
小川は持ち前のスピードを生かして難敵に挑んだ。本来は岸本のように高いオフェンス力を武器とするガードだが、激しい守備を求める指揮官のもと、現在は第一にディフェンスの意識を持っていると話す。「今はベンチから限られた時間で出場しているので、自分がどれだけプレッシャーをかけられるか、エナジーを出せるかを大事にしていますし、そこをヘッドコーチから求められていると思っています」。
繰り返しになるが、小川はどんな試合でも緊張しない。この場面は琉球ベンチ側でのフリースローだった。しかし、相手のファンで埋め尽くされた白い壁の前に立たされても、何も考えずに、無心でシュートを放ち、2本とも綺麗にネットを揺らした。
試合は何度も追いすがる琉球を振り切り、最終スコア87−76でタイムアップ。千葉Jは4年ぶり4度目となる天皇杯の頂点に立った。パトリックHCがチーム全員を称えたように、荒尾岳と西村文男の両ベテランや、決勝戦に立てなかった選手たちの活躍もなければトーナメントを勝ち抜くことはできなかった。
いきなりこんなものを貰えて
感謝しきれないくらい感謝してます! pic.twitter.com/8L2WZBQ9Rd— おがわあさと/ogawa asato (@asato_ogawa3) March 13, 2023
昨年の12月23日にプロ契約を果たした背番号3は、今大会の出場は2試合のみ。「契約してすぐにこんな経験をさせてもらえて、本当に貴重な経験させてもらいました」と控えめに喜びのコメントを残したが、しっかりと役目を果たしたと言えるだろう。パトリックHCも「ニューフェイスの麻斗が頑張った」と、優勝インタビューでルーキーの活躍を評価。個人としては高校3年次以来となる日本一に輝いた小川は、「久々ですね」と白い歯を見せた。
天皇杯直前に行われた宇都宮ブレックスとのリーグ戦でも、小川は2本の3ポイントシュートとブロックショットをマークして勝利に貢献している。船橋アリーナでのお立ち台に立ち、“ジェッツ締め”の音頭を取った。「まだ慣れていないので(笑)」と、この時はさすがに緊張したようだが、試合を重ねるたびに赤いユニフォームにも馴染んできたルーキーは、ますます千葉Jに欠かせない存在になりそうだ。
取材・文=小沼克年
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