2023.03.14

“緊張しない男”小川麻斗、いきなりの大役も「粘り強く守れた」…天皇杯優勝は「本当に貴重な経験」

入団2カ月で大舞台に立った千葉Jの小川 [写真]=兼子愼一郎
フリーライター

攻撃が武器の男が要所の防御で勝利に貢献

 小川麻斗は、基本どんな試合でも緊張しない男だ。彼の高校時代、全国大会で「緊張したか」と聞いたときも、「全然」とあっさり返されたことがある。それは今回の「第98回天皇杯 全日本バスケットボール選手権大会」の決勝戦も例外ではなかった。つまりは、加入して2カ月あまりのルーキーという立場でいきなり出番がきても、小川はいつも通りコートに立てたのである。

「ビックリというか、やってやるぞっていう気持ちでした」

 琉球ゴールデンキングスとの天皇杯決勝、千葉Jは先発出場の佐藤卓磨が開始1分22秒で2つ目のファウルを取られ、ベンチへ下げざるを得ない状況になった。しかもマークしていたのは相手の中心選手である岸本隆一。このアクシデントの際、ジョン・パトリックヘッドコーチに指名されコートインした小川は、マークマンもそのまま引き継いだ。いきなり大仕事が舞い込んできた格好となったが、176センチのポイントガードは同じ身長の相手に食らいつき、岸本を自由にさせなかった。

「シュート力もスピードもあって、ドライブもできるので本当に色々やってくる選手でした。でも、自分も足がある方なので、粘り強く守れたかなと思います」

 小川は持ち前のスピードを生かして難敵に挑んだ。本来は岸本のように高いオフェンス力を武器とするガードだが、激しい守備を求める指揮官のもと、現在は第一にディフェンスの意識を持っていると話す。「今はベンチから限られた時間で出場しているので、自分がどれだけプレッシャーをかけられるか、エナジーを出せるかを大事にしていますし、そこをヘッドコーチから求められていると思っています」。

小川は限られた時間で以下にエナジーを発揮するかを意識しているという [写真]=兼子愼一郎


「自分でもブレイクを出せたり、アタックできることも持ち味」と自負する強みは、大一番の局面でも発揮された。9点リードで迎えた第4クォーター中盤、千葉Jは相手陣内でボールを奪取。そのこぼれ球を富樫勇樹から受け取った小川は、一気にスピードに乗りボールプッシュを試みた。琉球はそれをたまらずファウルで止めたが、判定はアンスポーツマンファウルとなり、小川は2本のフリースローを獲得した。

途中入団も次第に存在感を大きくするルーキー

 繰り返しになるが、小川はどんな試合でも緊張しない。この場面は琉球ベンチ側でのフリースローだった。しかし、相手のファンで埋め尽くされた白い壁の前に立たされても、何も考えずに、無心でシュートを放ち、2本とも綺麗にネットを揺らした。

 試合は何度も追いすがる琉球を振り切り、最終スコア87−76でタイムアップ。千葉Jは4年ぶり4度目となる天皇杯の頂点に立った。パトリックHCがチーム全員を称えたように、荒尾岳西村文男の両ベテランや、決勝戦に立てなかった選手たちの活躍もなければトーナメントを勝ち抜くことはできなかった。


 昨年の12月23日にプロ契約を果たした背番号3は、今大会の出場は2試合のみ。「契約してすぐにこんな経験をさせてもらえて、本当に貴重な経験させてもらいました」と控えめに喜びのコメントを残したが、しっかりと役目を果たしたと言えるだろう。パトリックHCも「ニューフェイスの麻斗が頑張った」と、優勝インタビューでルーキーの活躍を評価。個人としては高校3年次以来となる日本一に輝いた小川は、「久々ですね」と白い歯を見せた。

 天皇杯直前に行われた宇都宮ブレックスとのリーグ戦でも、小川は2本の3ポイントシュートとブロックショットをマークして勝利に貢献している。船橋アリーナでのお立ち台に立ち、“ジェッツ締め”の音頭を取った。「まだ慣れていないので(笑)」と、この時はさすがに緊張したようだが、試合を重ねるたびに赤いユニフォームにも馴染んできたルーキーは、ますます千葉Jに欠かせない存在になりそうだ。

取材・文=小沼克年

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