2023.03.13

自身初のFINALに挑んだ牧隼利、存在感を示すも優勝には届かず…「この悔しさを次につなげる」

優勝には届かなかった攻守に合わたり存在感を見せた琉球の牧 [写真]=兼子愼一郎
フリーライター

千葉Jのエースとマッチアップ。オフェンスでも貢献

 琉球ゴールデンキングス牧隼利にとって、3月12日の「第98回天皇杯 全日本バスケットボール選手権大会」はプロ入り後初となるFINALの舞台だった。

 昨シーズン、チームはBリーグ開幕以降初めて「B.LEAGUE FINALS」の舞台に立つことができた。しかし牧は、その様子をベンチで見守ることしかできていない。昨年2月に負った右足首のケガの影響のためだ。

「去年はBリーグのファイナルをベンチで見ることしかできませんでした。今回は少し舞台が違いますけど、ファイナルという場所に自分がコートに立てたことに関しては、若干感慨深くなった部分もあります」

 スターティングファイブとして天皇杯決勝のコートに立った牧は、攻守でチームを引っ張った。守備では富樫勇樹のマークマンを託され、まずは富樫のこの日最初の3ポイントシュートを見事にブロック。琉球は試合序盤で3−11と出遅れたが、中盤には牧のオフェンスリバウンドからの得点や3ポイントなどで対抗し、第1クォーターを持ちこたえた。第2クォーター以降も、琉球の背番号88はフローターやアシストでも得点を演出し、計14得点3アシストをマーク。ただ、試合は最後まで千葉Jを捉えることができず、87−76で敗れた。

「千葉さんは岸本(隆一)選手と今村(佳太)選手のところを徹底的に守ってくると思ったので、そうなった時に自分が打開していかないと上手くいかないということは試合前からわかっていました。そういった面では積極的に行けた部分はあったんですけど、やっぱり要所で決めきれないシュートが多かったので、そこは非常に悔しいです」

千葉Jの攻撃の起点、富樫とマッチアップ [写真]=兼子愼一郎


 牧は自身のオフェンスをそう振り返った。「富樫選手を乗せないこと」が任務だったディフェンスにおいても、最終的には19得点8アシストの活躍を許した。その中でも、「自分が1本決められたところから乗せてしまった印象があった」と、牧が特に悔やんだのは第3クォーターでのプレーだ。

 同クォーター序盤、琉球は今村の3ポイントで4点差に迫った。だが、すぐさま富樫にミドルシュートと3ポイントで返され、3ポイントの場面では必死に食らいつく牧をいなすように振り切られた。

「優勝できるチャンスで勝ちきれず、シンプルに悔しいです」。惜しくも初の天皇杯制覇には届かなかったが、牧はこの日、ケガから復帰して以降、最長となる29分58秒というプレータイムを獲得した。

ケガから復帰のシーズン。今度はリーグ初制覇を目指す

 振り返れば、昨年ケガを負った試合は天皇杯セミファイナル。相手は今回の決勝と同じ千葉Jだった。今シーズン開幕前の8月、牧は足関節内側靭帯再建の手術に踏み切り、11月のリーグ戦でようやくコートに戻ることができた。

「その間、どんな思いで過ごしてきたのか」と、牧に尋ねると、「まあ…」と一瞬遠い目をして、こう答えた。

「正直きつかったですね。ケガをしてから手術するまでも長かったですし、手術後も周りより遅れていたので、それこそ皆んなの試合を携帯の映像で見ることもありました。でも、自分がチームに合流した時に何ができるか、というのは常にイメージはしていましたし、年明けくらいからは徐々にプレータイムも増えてきて、プレーの幅も増やせています。これからも当時の気持ちを忘れずに、引き続き取り組んでいきたいなと思います」

 牧が言うように、1月末からはプレータイムを増え、リーグ戦や3月1日から5日まで開催された「EASL Champions Week」を含めても先発出場を続けている。今季は並里成群馬クレインサンダーズ)が抜けたことでポイントガードを担う時間帯もあり、「自分にとってはすごくいいチャレンジですし、さらにステップアップできるチャンスだと思っています」とポジティブに捉えている。

 チームはカール・タマヨ渡邉飛勇らの新戦力を加え、次は最も渇望するBリーグ制覇へ焦点を当てる。開幕当初とは違ったチームケミストリーの構築へは、やや急ぎ足になるかもしれない。司令塔としての新境地を切り開こうとしている25歳は、「使う側の僕たち(ガード陣)がどう活かしていけるかにかかっている」と語り、休む間もなく控えるリーグ戦を見据えた。

「自分たちの最終ゴールはBリーグ優勝ですし、もう負けてしまったことは仕方ないです。こういう舞台でバスケットができて、悔しい思いできて良かったと最後に言えるように、また水曜日の試合につなげていきたいと思います」

 2022ー23シーズンは牧隼利にとってもリベンジのシーズンだ。昨季、そして天皇杯での悔しさを噛みしめながら、優勝へのキーマンはコート上で輝き続ける。


取材・文=小沼克年

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