Bリーグ公認応援番組
『B MY HERO!』
頂点に立ったのは、福岡県代表の福岡大学附属大濠高校。振り返れば、2001年からは6度の準優勝に泣いてきた。しかし、「SoftBank ウインターカップ2021 令和 3 年度 第74回全国高等学校バスケットボール選手権大会」の男子決勝戦では、帝京長岡高校(新潟県)との我慢比べを制し、最終スコア59−56。実に28年ぶり、通算3度目のウインターカップ制覇を成し遂げた。
歓喜の瞬間、片峯聡太コーチは喜びを爆発させた選手たちを一歩引いた目で見るように、静かに拍手を送っていた。
インターハイは3位に終わり、11月の福岡県予選でも福岡第一高校に敗れ、今大会は福岡県2位での出場。組み合わせ抽選の結果、強豪校がひしめく激戦ブロックに入ったが「これで勝てば真の日本一」(岩下准平/3年)と、それさえもモチベーションに変えた。
初戦から開志国際高校(新潟県)、夏に敗れたインターハイ王者の中部大学第一高校(愛知県)を退け、準決勝では前年度覇者の仙台大学附属明成高校(宮城県)にも勝利。そして迎えた決勝戦は守りを固めてきた相手に対し持ち前の攻撃力は発揮できなかったものの、福大大濠も粘り強いディフェンスで対抗し、苦しんだ末にわずか3点だけ上回った。
「本当に選手たちがどんどん自信に満ち溢れた表情になっていきました。彼らにも言いましたが、大会に臨む頃は80点くらいの状態でした。そこから毎試合ごとに学んで、成長して初戦の開志国際に勝って、(3回戦の)中部大学第一のときには90点になっていて、準決勝の仙台大学附属明成から決勝戦にかけて100点にするつもりで戦っていました。本当に試合を重ねるたびに、選手たちが学んで、自信をつけて、成長していった大会だったと思います」
今大会の福大大濠は、先発を担った最上級生がゲームキャプテンの岩下とシューターの泉登翔のみと、若い布陣を敷いた。それにも関わらず、「チームとしては3年生がしっかりしている」、「今年は3年生7人の結束がすごくありました」などと、片峰コーチは大会期間中、何度も取材エリアで3年生の存在の大きさを我々に教えてくれた。
指揮官の言葉を物語るように、決勝戦だけを見ても森岡裕貴(3年)が30分以上コートに立って10得点9リバウンドを挙げている。キャプテンの大澤祥貴、ガードの本山遼樹もつなぎ役を担い、針間大知と島﨑輝の3年生もベンチから「リバウンド、ルーズ(ボール)!」と声を張った。
2年生エースの湧川颯斗は言う。「このチームは准平さん、祥貴さんをはじめ、3年生がしっかりリーダーシップをとってくれました。自分は本当に3年生に支えられてきて、この3年生と一緒に優勝できたことをすごくうれしく思います。来年は頼もしい存在がいなくなりますけど、自分が准平さんのような頼もしい存在になってこの舞台に立って、必ず2連覇したいです」
「あいつとは小学校からの付き合いです。(湧川は)ちょっとメンタルが弱いので、常に声をかけてカバーすることを大事にしました」と口にするのは、湧川と同じ広島県出身の泉。その泉は、「僕は中学校の実績がなかったなかで大濠高校に来させてもらいました。中学までは全国大会まで行ったことがなかったので、今回のウインターカップ優勝が初めての経験でした。すごくうれしく思っています」と、自身のキャリアを振り返りならが優勝の喜びを噛み締めた。
大会ベスト5には、岩下とともに湧川とルーキーの川島悠翔が選出された。2人は今大会でもポテンシャルの高さと伸びしろを披露し、来年以降も他チームの脅威になることを示したが、指揮官はそれを可能にさせた要因の1つにも3年生が関与していると明かす。
「今年の3年生は、勝つためではなく日本一になるために大濠に来たという連中の集まりでした。今までは逆にその『勝ちたい』という気持ちが『勝たなきゃ』という気持ちに変わってしまうことが多くて、自分自身の主張と周りへの尊重のバランスが取れていなかったり、いい能力を持った後輩たちがいるけれども、それを上手に使えなかったりしたところがありました。けれども、本当に県予選の負けから3年生がしっかり自分自身と向き合って、その部分でも変わってくれました。それができたことによって、下級生たちが伸び伸びプレーできたことにつながったんじゃないかなと思っています」
県でも、全国でもなかなか結果がついてこなかった。昨年はケガに泣いた岩下の言葉を借りれば、「本当に苦しくて、悔しくて、申し訳なさもたくさんあった」。けれど、最後の最後で今まで積み上げてきたもの、信じ続けてきたものを実らせ、大きな花を咲かせた。
きっとみんなが思っているはずだ。今大会のTROJANS(福大大濠バスケットボール部のニックネーム)は、本当にカッコよくて、本当に強かった――。
文=小沼克年