2022.10.12
8月30日、「FIBAバスケットボールワールドカップ2023 アジア地区予選」Window4、日本対カザフスタンが沖縄アリーナ(沖縄県沖縄市)で行われ、日本は73-48で勝利した。日本は同予選で3勝目(5敗)を挙げ、精力的に合宿と試合を重ねた夏を終えた。
ワールドカップ本戦があと1年に迫るなか、この夏を経てトム・ホーバスHCのスタイルが浸透し、どの選手が本大会へ向けて有利な立場にあるかが見えてきた。
若き成長株、吉井裕鷹(アルバルク東京)はホーバスHCからの評価が高い選手の一人だ。しかし、彼が本大会の選考で有利な立場にあるかどうかは、まだ分からない。そんな位置にいる選手だ。
Window4のイラン戦、カザフスタン戦の2試合では、これまで通りの愚直なプレーぶりを継続した。攻防で相手選手に強く体を当てるのをいとわない様は、テレビ画面を通じてでも伝わってきた。
ホーバスHCは常々、ディフェンスを激しくプレーすることでオフェンスのリズムにつなげていくことを強調しているが、ある意味でそれを最も体現できている選手の一人が吉井だ。
それでも、彼の口をつく言葉は反省ばかり。カザフスタン戦ではニック・ファジーカス(川崎ブレイブサンダース)が久々の日本代表ゲームの出場を果たしたが、吉井は「みんなニックが入ってきて、それにアジャストするのに時間がかかった」と振り返った。
ファジーカスはホーバスHC体制下で初めての出場だった。ましてほとんどチーム練習もせずに臨んだのだから、しかたのないことだったはずだ。だが、吉井は「ニックは本当にすごい存在で、それに僕らがアジャストしないといけなかった」とし、彼のプレーに合わせることに苦戦したのは「僕自身の実力の問題でもっと早くアジャストできたんじゃないか」と、自らに厳しかった。
Bリーグでは実質2シーズンしかプレーをしておらず、出場試合数はわずか42試合で、プレータイムも短い。そんな男がホーバスHCに見いだされ、今夏のワールドカップアジア地区予選Window3でA代表に初招集。同予選とアジアカップの8試合に出場し、平均5.9得点4リバウンドと存在感を示してきた。
しかし、吉井は自身が代表に完全に定着したとは考えていない。機動力と激しい当たりを生かしたディフェンスには自負があるようだが、オフェンス面では、アウトサイドでボールを貰えば積極的にドライブしたり、3ポイントシュートを放ち、インサイドでも大きな相手の臆することなくリングへ向かう姿勢は持っているものの、実際に得点につなげられる確率はまだまだ低い。
ホーバスHCは3ポイントシュートのうまい井上宗一郎(サンロッカーズ渋谷)とディフェンスに長じる吉井という、インサイドの2人が「互いを補い合っている」(ホーバスHC)とは言うものの、どちらに対しても、その若さを鑑みてまだ大目に見ているところがあるのではないか。
また、成功率の上がらない3ポイントシュートに関しては「最近全然入っていないのでちょっと気持ちが落ち込んでしまうところは多少あるんですけど、打ち続けないと。入らないから打たないではなく、入らなくても打ち続ける。打ち続けてどれだけ外しても、次は決めるというメンタリティを作るのが大事。いまはその段階です」と語る。
ワールドカップ本大会まであと1年となり、ホーバスHCも今後は「選手のプール(候補者数)を減らそうかな」と話している。選手選考はこれから本格化していくこととなる。
井上や張本天傑らとのポジション争いは続く。本大会では八村塁(ワシントン・ウィザーズ)や渡邊雄太(ブルックリン・ネッツ)らも加わってくる。限られたインサイド陣の「椅子取り合戦」は予断を許さない。
だが、吉井はそこについても意識は「あまりしていない」と語った。人は人。「毎日どうやったら自分が成長していけるか。次、また自チームに帰るので、そこでもどうやってチームに貢献し、どうやって自分を上げていけるか。常にそう考えるだけなので、パリ・オリンピックに向けて意気込んでいるという感じではないです」。
激しいプレーぶりと、自らへの厳しさを貫き通す異質の男・吉井は今後、どのような成長曲線を描いていくのだろうか。
取材・文=永塚和志
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