2022.08.31

ファジーカスがホーバスジャパン初見参…それは首脳陣の訪問から実現

2019年のワールドカップ以来の代表戦出場を果たしたファジーカス [写真]=伊藤 大允
スポーツライター

2回のチーム練習、完全ではない体調のなかでのプレー
 8月30日、「FIBAワールドカップ2023 アジア地区予選」Window4、日本対カザフスタンが沖縄アリーナ(沖縄県沖縄市)で行われ、日本は73−48と快勝を収めた。

 この試合で最も大きな関心を集めたのが、3年前、中国で行われたワールドカップ以来の日本代表戦出場となったニック・ファジーカス川崎ブレイブサンダース)だった。

 日本のバスケットボールファンならば、彼に過去の日本代表としての活躍やBリーグでの圧倒的な実績があることを知っている。それだけにコートに立つ37歳ビッグマンの醸し出す存在感は、別格だった。

 この試合、ファジーカスは22分弱の出場時間で8得点8リバウンドを挙げたが、得意の3ポイントシュートは4本放って1本も決められず、チームメートとの連携でも苦戦が目立った。以前、代表の常連だった頃には毎試合20点10リバウンド以上を記録するのがあたり前だっただけに、残した数字だけを見てもパフォーマンスは物足りなく感じた。

 だが、無理もなかった。他の代表メンバーが夏の間、常に合宿と試合を重ねてきたのに対し、オフだったファジーカスには試合勘がなかった。日本に戻ったのは本人曰く、8月15日。そして25日(日本時間26日)のワールドカップ予選・対イランの開催地であるテヘランへ渡航しなかったトム・ホーバスヘッドコーチとコーリー・ゲインズアソシエイトHCが、その間に川崎を訪れ同選手との会談を経て、招集に至った。

首脳陣の訪問からカザフスタン戦の出場が決まった [写真]=伊藤 大允


 ファジーカスがチームで練習をしたのは2度ほどでしかない。ホーバスHCの採用するスピードと3ポイントを重視したスタイルは、前任のフリオ・ラマス氏のそれとは大きく異なる。以前のように毎試合、20得点をいきなり叩き出せというわけにはいかなかったのだ。

「今回の代表活動に関しては、気持ちを入れて貢献したい」
 ファジーカスは試合後、「(日本はこの夏)3カ月かけてチームを作り上げてきたのに対し僕は2日間いるだけ。今夜もできるだけフィットできるようにと努めはしたけどね」と述べ、自身の数字はパフォーマンスについて大きくフラストレーションは感じている様子はなかった。

 コンディショニングについて問題はなかったとしながらも、「5対5(の練習)をほとんどしていなければ、いきなりコートに立ってリズムをつかむのは難しい」と振り返った。

 またこの試合、カザフスタンにさほど大きな選手がいなかったこともあって、身長207センチのファジーカスがローポストでリングを背にする形でボールを持つ場面が多かったが、所属クラブの川崎では近年、ファジーカスがポストアップする頻度はぐっと下がっている。彼がリズムをつかみにくかったのにはそういったところもあったかもしれない。

 それでも、ポストアップから持ち味である手首を柔らかく使うことによるフックシュートやフローターによる得点など「ファジーカスらしさ」を見せる場面もあった。また第4クォーターには、トップ・オブ・ザ・キーでボールを持った彼が、ゴール下に切れ込んだ西田雄大(シーホース三河)に片手によるパスでアシストを決めてもいる。このあたりは、「ファイブアウト」を敷くホーバスHCのスタイルに彼が合う要素のひとつとなる。

 試合前日の公開練習後、ホーバスHCらが川崎を訪れたときの会話の内容について「長い話」があったとした。2018年に帰化を果たしたのは翌年のワールドカップのみならず、東京オリンピック出場も念頭に入れてのことだったはずだが、後者への出場ができなかったことで、代表に対して複雑な気持ちを抱いてきたことは間違いない。

 同じくアメリカ・コロラド州出身で長年の知人であるホーバスHCが「長い話」を通じて、ファジーカスの胸のうちにある「氷」を氷解させたことで、今回の実現した――。想像の範疇を出ないが、「長い話」とは恐らくそういうことだったのではないか。

「ここにいるみんなが、衝撃を受けていたね」

 前日練習後。彼がここにきて代表メンバー入りしたことに驚いたと伝えた筆者に対して、ファジーカスは冗談めかしてそう返してきた。そして、こうも話した。「(Window5の)11月や(Window6の来年)2月、ワールドカップ本大会で自分がどうなっているかはまったくわからない。だけど自分は日本のバスケットボールが成長してほしいと思っているし、今回の代表活動に関しては、気持ちを入れて貢献したいと思っているよ」。

 年齢的な衰えやスピードのなさがディフェンス面での穴となるといった懸念はあるが、それでも、ファジーカスがホーバス指揮下の代表チームでどのような化学反応を起こすのか、また見てみたい気もする。

体調なコンビネーションが不完全の中、存在感の大きさを示したファジーカス [写真]=伊藤 大允


取材・文=永塚和志

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