2021.09.24

【短期連載・TOKYOの先へ】林咲希(ENEOS/女子日本代表)

ENEOSサンフラワーズでも主軸を担う林咲希[写真]=Wリーグ
フリーライター

 東京2020オリンピックでは、3x3女子日本代表がメダルこそ届かなかったものの5位と健闘。そして5人制では快進撃を続けて準優勝、銀メダルを獲得した。

 日本だけでなく世界を熱狂させた日本代表選手たちにオリンピックのことや10月から始まるWリーグ、さらにはその先についての話を聞いた。

 第5回はシューターとして銀メダル獲得に貢献した林咲希(ENEOSサンフラワーズ)。死闘となった準々決勝での決勝シュートはいまだ記憶に新しいところだが、そのシュートについてや五輪を経ての収穫や課題を聞いた。

ベルギー戦で決勝シュートを放った時の心境は⁉

――オリンピックは林選手にとっても初めての出場でした。
 個人的には普通の大会に出場しているという感覚が強く、試合中はそこまで緊張はしなかったです。『オリンピックだから』という過度なプレッシャーを感じず、楽しくやれたというのが正直なところです。

――銀メダルを獲得の要因は何でしょうか?
 一人ひとりがやることを徹底したのかなとは思います。私自身もやることが明確だったし、周りも誰が何をやるのかを分かっていたので、話をしなくても意思疎通が取れていました。それと、トムさん(ホーバスヘッドコーチ)が先頭に立って引っ張ってくれたことが一番の要因かなと思います。

――大会では接戦をものにしながら勝ち上がりました。
 個人的にはずっと心にゆとりはありました。『このチームなら大丈夫』と思っていましたね。さすがに(準々決勝の)ベルギー戦の時はめちゃくちゃ競ったし、負けていたので、少し焦りはありましたが、大会を通して気負い過ぎることもなくやれました。

 いつもは緊張するタイプですが、試合では練習したことしかやれないので、練習したことに自信を持って戦うことができました。チームに関しても、試合を重ねるにつれて合わせや選手のコンディションも良くなるだろうとは思っていて、実際にそれを感じることができたので、『まだまだ強くなれる』と思いながら試合をしていました。

――4か月の代表活動中、シュートが入らず苦しんだ時期もあったと聞きました。
 しんどかったですね(笑)。しかも一番調子が悪い時が選手選考の真っ最中で…。トムさんが焦っているのも感じるけれど、どうしたらいいか分からない。バスケットの楽しさも分からなくなってしまって。今までいろいろな経験をしてきましたが、あの時が一番苦しかったと思います。

――その辛い時期を乗り越えられたのは?
 “自分を受け入れる”ことをしました。私に対して、シュートが入っているイメージをみんなが持っていたと思うんですね。それで私も『(シュートを)入れなきゃ』と思って、高望みをしていたというか、入れたい欲などがあった。でも、『今のシュートを入っていない自分』を見つめ直して、なぜ入らないのかを先に考えるのではなく、まずは入っていないことを受け入れるようにしました。その間は、オリンピアの名言なども本などで目にしましたが、そこにも「自分を受け入れる」という内容の言葉が多かったので、そうだなぁと思いながら少しずつメンタルも良くなっていきました。

 名言については、(アシスタントコーチの)恩塚(亨)さんからのアドバイスで、その時期はコミュニケーションをたくさん取ってもらいました。その後、自主練習などでも段々とシュートタッチが良くなり、楽しさを感じることもでき、調子が上がっていきました。

――そしてあの活躍につながるのですね。
 『決めよう』と気負い過ぎず、自分のタイミングで打つことができました。初戦の前日練習でタッチが良くなっていたし、大会の1本目が入ったのも良かったと思います。

(大会を通してシュートは)結構決めることができたと思います。そこはちゃんと自分を褒めないといけないのかなって。オリンピックという舞台で自分のプレーを出せたことも良かったです。

――準々決勝のベルギー戦では残り15.2秒で勝負を決するシュートを沈めました。
 あれは自然と体が動きました。あれが多分、右手でボールを付いていたら難しかったかもしれないけれど、本当にやりやすい動きで。自分の得意な動きでシュートを打つことができました。逆の動きだったら入ってなかったかもしれないですね。

――ボールを放った瞬間、入った感覚はありましたか?
 入ったなという感覚はあったのですが、『大きいな』とも思って。『入ったな』が6割、『大きいかな』が4割ぐらいですかね。

――そして決勝で対戦したアメリカは、ハードにディフェンスしてきました。
 身体能力もあってアジャストも完璧でコミュニケーションも取れている。あのチームに勝つにはもっといろんなことを考えないといけないし、予選で一度対戦しましたが、そこで全部出し切るのではなく、自分たちがもう一つ何かを持っていることが必要だと感じました。

 

オリンピックでは3ポイントシュートを量産した[写真]=fiba.com

Wリーグでは「毎試合気持ちを入れて頑張りたい」

――オリンピックを経て得たものは?
 練習で不安になってもそこまで思い込みすぎないようにはなりました。大会では練習でやったことをやるだけなので、練習をやりたい欲がさらに強くなりました。それと、集中する方法、自分の中でスイッチを入れる気持ちの持っていき方は少し学べたのかなと思います。

――メダルが首にかかった時は?
 こんなに重いんだと思いました。今回は選手同士でかける形だったので、『みんな頑張ったね』『みんなを称えたい』と思ったら普通に泣けてきました。

――地元・福岡県でも盛り上がったのでは?
 母校の精華女子高校もパブリックビューイングで試合を見てくれましたし、本来なら私が言わなくてはいけないんですけど、『ありがとう』という言葉をたくさん頂きました。ミニバスを始める子が増えたとも聞いたので、すごくうれしいですね。

――これまでストイックに積み重ねてきた成果が出たましたね。
 そうですね。それ以下のこともそれ以上のこともできなかったので。まだ引き出しをたくさん持っておきたいなと思っていますし、最終的に悔しい気持ちが残ったので、それは良かったかなと。次のステップに進めるのではないかなと思っています。

――五輪後のテレビ収録などで会えてうれしかった人はいましたか?
 ラグビーの五郎丸(歩)さんなど、スポーツ選手に会えたのはうれしかったですね。『スポーツで頑張ってる人』と会えるのは、私自身、学びたい欲が強いので、何でも聞きたいと思っています。

――10月にWリーグが開幕。所属のENEOSでオリンピックの経験をどう生かしたいですか?
 体が強い相手と戦ってきたので、当たり負けはしないと思っています。相手は3ポイントシュートを止めてくると思うのですが、3ポイントシュートだけではなく、いろんなプレーを練習しているので、それを発揮したいですね。

――3ポイントシュートが代名詞ではありますが、もともと得点パターンはそれだけではないですよね。
 2ポイントのシュートも普通に打っているし、むしろ2ポイントの方が多いこともこれまではありました。今は3ポイントシュートだけというのが当たり前になっているので、その概念は取った方がいいなと自分自身も思います。役割は増えていますが、ディフェンスをしつつ、いつも落ち着いてオフェンスをできるようにしたいです。

 今回の「FIBA 女子アジアカップ2021」では、3ポイントシュートだけでなく、2ポイントシュートも打つので、プレースタイルはENEOSとあまり変わらないので、アジアカップで成長して帰ってきたいです。

――注目されるシーズン、Wリーグでの意気込みをお願いします。
 オリンピック同様、見ていただいている方々に、『この選手いいな』と思ってもらえるプレーをしたいです。どの試合も気持ちを前面に出し、思い切ってプレーする。他チームの選手とバチバチやり合っているところも楽しく見てもらえたらと思います。バスケットの楽しさを伝えるためにも、毎試合、気持ちを入れて、頑張ります。

取材・文=田島早苗

TOKYOの先へのバックナンバー

女子日本代表の関連記事