1時間前

女王アメリカへの挑戦…髙田真希と町田瑠唯から見えた3年間の変化とさらなる改善点

アメリカ戦、髙田真希はゴール下でも果敢にプレーした [写真]=Getty Images
スポーツライター

「運命を感じた」アメリカ戦は東京五輪決勝の再戦

 アメリカに終わり、アメリカに始まる――。

 東京五輪ではアメリカと決勝で対戦し、75−90で敗れて銀メダル。あれから3年経ったパリ五輪では、東京と同様にアメリカと同組になり、今度は初戦で顔を合わせた。そして76−102の26点差で敗れた。この点差と内容をどう判断するか。

 パリ五輪の組み合わせが決まったとき「運命を感じる」と語っていた恩塚亨ヘッドコーチ。というのも、恩塚体制のスタートは、東京五輪の決勝でアメリカに敗れたことに対する悔しさから始まったからだ。

 東京五輪では速さとディフェンスの運動量、3ポイントのシュート力を生かして得点効率にこだわる『スモールボール』という唯一無二のスタイルでファンを魅了し、決勝まで上り詰めた。ただ、アメリカとの決勝だけは、アメリカが繰り出したサイズを生かしたスイッチディフェンスによって、攻撃の起点である司令塔をつぶされてしまい、足が止まるシーンがあった。

 司令塔の町田瑠唯(富士通レッドウェーブ)は自身が大会のオールスター5を受賞し、準決勝のフランス戦で1試合最多アシスト新記録(18本)を樹立した大会だとしても、「決勝でアメリカに負けた悔しさが残る大会」だったと振り返っている。

 日本の目標は東京五輪と同じく「金メダル」。そのためには、1996年のアトランタ五輪から7大会連続金メダル、オリンピック55連勝中の絶対的女王のアメリカを倒さなければならない。恩塚HCは「相手がこう出てきたら、こう対応するといった後出しジャンケンのようなカウンターバスケット」と目指した。そのためにはチーム原則のもと、足を止めずに停滞しない手段を全員で共有して戦う。修正を重ねて最終的に行きついたのが今年2月のOQT(オリンピック世界最終予選)から掲げている『走り勝つシューター軍団』のコンセプトだ。

 そのコンセプトの中身は、2ガード体制にしてボールハンドラーを2人置くことにより、サイズでは不利になるものの、クリエイト力を高めたことにある。また、大会ごとに修正しては増えていくチームの原則を『スクリプト』という名の台本に見立て、「判断に迷うくらいなら台本を丸暗記して動いてほしい」と恩塚HCが言うほどまでに、台本を体に染み込ませて臨んでいる。

 迎えたパリ五輪でのアメリカ戦――日本は39本の3ポイントを試投し、15本成功(38パーセント)。特に前半は23本中9本(39パーセント)決めている。40パーセントに近い確率と40本に迫る試投数は『走り勝つシューター軍団』の姿だった。

 ただ後半は、やはり東京五輪と同様にアメリカにオールスイッチをされたことにより、サイズの差で対応しきれずに個々の1対1にならざるを得なかった。

アメリカの高さとパワーに押し切られる結果に [写真]=fiba.basketball


 また、逆に走れていたのはアメリカのほうだった。前半からリバウンドを制されて走られたが、後半は特にスイッチしたビッグマンが日本のミスを誘って前線を走り、パスもさばいていた。リバウンドは日本27本、アメリカ56本と圧倒され、ファストブレイクでのポイントは、日本の5点に対してアメリカは17点。ここで差がついた。

3年間の進化を見せてくれた髙田真希町田瑠唯

 では、3年間のチャレンジが実を結ばなかったのかといえば、決してそうではない。違いを出したのはセンター髙田真希(デンソーアイリス)だ。髙田は大会前に「これまでとの違いはセンターのポストアップが増えたこと。インサイドを使って賢く攻めるクリエイトな部分を見せます」と発言しており、大会直前のヨーロッパ勢との強化試合では見せなかったポストでの攻撃を積極的に仕掛け、8本の試投をすべて決めた。アメリカに対してインサイドで勝負し、3ポイント2本を含む24得点を叩き出している。

 また、髙田はアメリカ戦ではスタメンから外れたものの、みずから「リオ五輪からのコンビなのでルイ(町田)とすごく合う」と言っていっていたように、赤穂ひまわり(デンソー)を含めて、息の合う3人がセカンドユニットとしてコートに立つことで、機能するプレーも見られた。

 そして、恩塚ジャパン初参戦の町田は、前半だけで3ポイントを4本、計6本も打って2本決めている。これは東京五輪での悔しさから自身に科した課題を乗り越えようとした証だ。さらに、5本のアシストを記録したことで、みずからが作った五輪のアシスト記録を更新し、単独4位となる102本へと更新。日本が誇る『最強ホットライン』の2人が、日本が進化するためにチームを先導したことは間違いない。

町田瑠唯は積極的にシュートを放った [写真]=fiba.basketball


 大事なのは次からの戦いだ。

 次戦、8月2日に戦うドイツは五輪初出場ながら、ヨーロッパ女王のベルギーに完勝してアップセットを起こしている。WNBAでプレーするサトゥとニャラのサバリー姉妹のほか、2018年にヨーロッパU18選手権を制した黄金世代が台頭し、ポイントガードの帰化選手、アレクシス・ピーターソンの加入によって急成長を遂げている。この勢いを断ち切るには、日本のコンセプトを押し通すことも必要だが、やはり、リバウンドとディフェンスの修正が急務。依然としてリバウンドで圧倒され、ディフェンスでの仕掛けもまだ見られない。この課題は次戦に持ち越しだ。

 髙田は「相手の高さにやられてしまい、オフェンスの終わり方が悪かったときにブレイクを出されて点差が開いてしまったのは修正しないといけない」と反省を述べ、次戦に向けては「自分たちのいいところもありました。これを自信に変えて次はもう少しチームとして攻めるようにしたい。予選グループを突破するには切り替えが大事。絶対に勝ちます」と力を込めて誓った。

文=小永吉陽子

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