2025.06.25

2000億円超でウルブズ売却と正式決定…新オーナーはビジネス界とスポーツ界の大物デュオ

昨年、コートサイドでウルブズ戦を観戦していたロドリゲス氏[写真]=Getty Images
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■難航した売却がついに決着

 NBAは6月25日(現地時間24日)、ミネソタ・ティンバーウルブズならびにWNBAのミネソタ・リンクス売却について、理事会が満場一致で承認したことを報告した。オーナーシップはマーク・ロア氏およびアレックス・ロドリゲス氏に譲渡されたことを正式に発表。売却価格は15億ドル(約2170億円)となった。

 プロスポーツ史上、最も激しく、長期化したチーム売却がようやく解決を迎えた。元オーナーのグレン・テイラー氏と新オーナーのロア氏およびロドリゲス氏は、4年以上にわたって断続的にチーム譲渡についての争いを続けてきた。両者は2021年に球団売却の基本合意を交わしていたものの、テイラー氏はロア氏とロドリゲス氏が支払い期限を守らなかったとして売却を中止し、チームを取り戻すと主張。支払いは複数に分割して行われることとなっていたが、途中、新オーナー陣が資金調達に難航したことが報じられたほか、プライベートエクイティ投資会社「カーライル」が絡む買収ストラクチャーをリーグが承認しないなど、円滑な買収フローとならなったのは事実だ。

 しかし、ロア氏とロドリゲス氏は最終的にフランチャイズの株式を過半数取得する運びとなり、30年以上もの間、球団を所有してきたテイラー氏はオーナーから正式に退任することとなった。新オーナーの2人はウルブズの新章開幕を迎えるにあたり、NBAの公式サイトを通じて声明を発表している。

「ティンバーウルブズとリンクスを、大胆かつ刺激的な新時代へと導くことを光栄に思います。本日は我々にとって記念すべき節目であり、この素晴らしいフランチャイズのオーナーとしての重責を深く認識しています。我々は、卓越した基準を確立し、世界中から称賛され、世代を超えて誇りに根ざした組織を築くことに全力を尽くします」(ロア氏)

「私はスポーツの世界に人生のすべてを捧げてきました。それは単なる競技としてではなく、人々を結びつけ、地域社会を活気づけ、人生を変える力としてです。袖をまくり上げて仕事に取り掛かることができ、大変光栄に思うと同時に、やる気に満ちています。チャンピオンになるために必要なことを私は知っています。そして、ミネソタに勝利の文化を築くべく、同じコミットメントと情熱を注ぎ込む準備はできています」(ロドリゲス氏)

■新オーナーのプロフィール

ウルブズの新オーナーに就任したロア氏とロドリゲス氏[写真]=Getty Images


 ロア氏は、米フードテック企業「Wonder」の創業者兼CEO。有名シェフやレストランと協働し、1つの店舗で最大30ブランドの料理を実現するこの革新的なフードデリバリースタートアップは、ミールキットサービス「Blue Apron」や、料理動画メディア「Tastemade」を買収するなど急成長を続けており、究極のフードアプリ構想を推進している。それ以前はベビー用品のオンライン専門店「Diapers.com」を「Amazon」に売却し、続いて創設したメンバー制のオンラインショッピングサイト『Jet.com』も「Walmart」に売却するなど、起業家として成功を収めてきた敏腕で、現在はアメリカ西部の砂漠地帯に未来都市「Telosa」の建設計画にも着手している。

 一方のロドリゲス氏は、14度のオールスター選出、ワールドシリーズ優勝の実績を誇るMLBの歴史的スターだ。年齢はまもなく50歳の節目を迎え、同氏はアレン・アイバーソン(フィラデルフィア・セブンティシクサーズ)と同い年。レブロン・ジェームズ(ロサンゼルス・レイカーズ)と同様、18歳でのプロ入りを果たして以来、長期にわたってMVP級の活躍を継続してきた名手で、2000年に締結した当時のMLB史上最高額の契約はリーグの経済ルールに大きな変革をもたらし、このエピソードはNBAにマックス契約制度をもたらしたケビン・ガーネット(元ウルブズほか)を彷彿とさせる。また、現役時代からビジネスにも着手したことで知られ、不動産投資・開発企業「A-Rod Corp」を設立しているほか、プライベート・エクイティ投資家としても複数の成功事例を手がけている。

 NBAの発表によると、両氏は共同議長に就任し、ウルブズではロア氏がガバナー、ロドリゲス氏がオルタネイト・ガバナーをそれぞれ務める。一方、リンクスでは役割が逆転し、ロドリゲス氏がガバナー、ロア氏がオルタネイト・ガバナーとなるようだ。

 また、リーグは「リミテッドパートナーとしてプロスポーツ界で最も尊敬され、称賛されるフランチャイズを築くための長期的ビジョンを掲げてきました」と、両氏を高く評価。2人は、人間性の高い人材への投資、ビジネスイノベーション、選手育成、最高水準のファン体験を重視し、“ツインシティーズ”の地域社会へ揺るぎないコミットメントを維持していくという。

■ウルブスに山積みの課題

本拠地のターゲット・センター[写真]=Getty Images


『The Athletic』に対して、ロア氏は「本当に胸のつかえが取れた気分でした」と安堵した様子で、ロドリゲス氏も「本当に夢が叶った気分です」と喜びを露わにした。しかし、彼らに買収完了を祝福している時間はない。

 同メディアは、ウルブスとリンクスの本拠地であるターゲット・センターの老朽化問題を指摘している。築35年の歴史を持つターゲット・センターは、2017年に1億4500万ドル(約210億5000万円)の大規模改修を実施したものの、さらなる改修が必要とされている。リーグで2番目に老朽化が進んだ会場であり、下段席より上段席が多いという珍しい構造も収益性に悪影響をもたらしている。

 新オーナーたちは、最高水準のアリーナ建設は一筋縄ではいかないことを強調し、時間と創意工夫の必要性を主張。しかし、リーグ競争が激化する中で、アリーナの質は「贅沢ではなく、必要なこと。他の強豪球団が新しい施設で成果を上げているのを見れば、その重要性は明らか」と、今後の可能性を示唆した。

 また、ロスターのサラリー圧迫も大きな課題のひとつだ。2シーズン連続でカンファレンスファイナル進出の実績は目を見張るものがあるが、現状ではセカンドエプロンを超過しており、この状態が続けばラグジュアリータックスの支払いに加えて、ドラフト指名権の凍結・減少のほか、ミッドレベル例外条項(サラリーキャップを超えて選手と契約できるルール)の使用制限といった追加ペナルティが科される。優勝も手の届く位置にいるだけに、選手の入れ替えには慎重になるが、エプロンをクリアするためには中堅クラスの契約選手を手放す必要がある。

アンソニー・エドワーズと握手を交わすロドリゲス氏[写真]=Getty Images


 一方のリンクスはWNBA有数の強豪で、リーグ4度、カンファレンス7度優勝の実績を誇る。チームにはWNBA得点王として関係者たちからリーグ最高選手と評されながら、女子3x3の新リーグ『Unrivaled』を設立したことでも知られるナフィーサ・コリアーが在籍。そのコリアーは、2025年シーズン終了後にフリーエージェントとなる見込みのため、同選手との契約更新もToDoリストの優先事項となっている。

 それでも、懸念されていた本拠地移転については、繰り返し残留を宣言し、この地に根付く歴史とコミュニティに敬意を示している。また、ロドリゲス氏は「バスケットボールの現場判断は現場に任せる」とし、まずはガバナーとして組織の基盤づくりと人材採用に注力するという。

 ビジネス界とスポーツ界のビッグネームによる豪華オーナーデュオの舵取りのもと、ウルブスはさらなる高みを目指す。

文=Meiji

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