2026.09.16
韓国代表のエース、イヒョンジュン(以下ヒョンジュン)はこの夏、やり遂げなければならないいくつものミッションに挑んだ。NBAサマーリーグにワールドカップ予選、そして最大の使命とも言える「兵役免除」をかけたアジア大会での金メダル獲得――。短い夏のあいまに、自身のキャリアを左右するチャレンジが次々に待ち受けていたのだ。
しかしヒョンジュンは、長崎ヴェルカで優勝を遂げた直後の6月上旬、過酷とも言える挑戦を目の前にして笑っていた。
「僕はやりたいことが多すぎるから、忙しいのはありがたいと思ってるよ。先のことは誰にもわからないから、目の前のことに準備して集中するだけ。それに僕はまだ若いから、止まっていたくないんだ。この夏は狂ったようにバスケをして自分の可能性を試したい」
どれほどクレイジーな夏だったかは、アジア大会優勝後に韓国代表のニコラス・マズルスヘッドコーチ(HC)が語った言葉が物語っていた。
「ヒョンジュンはこの夏、地球を3周するほど大変だったが、優勝するためにチームのために尽くしてくれた。決勝では18本もリバウンドを取っている。ヒョンジュンを欲しがらないコーチはいないだろう」
「地球を3周した」は決して大げさではない。6月8日から韓国代表の合宿に参加し、6月20日には代表チームを離れて渡米すると、7月3日からはサンアントニオ・スパーズの一員として、NBAサマーリーグに8試合出場。帰国後は韓国代表に再合流し、8月中旬にはNBAの複数チームとのミニキャンプ参加のために再び渡米。8月末にはアメリカから中東のレバノンに直接合流し、ホームの試合を含めてワールドカップ予選に2試合出場。さらに、9月に入ると韓国でフィリピンとの強化試合を2戦こなしたあと、9月10日からは名古屋で開催されたアジア大会で6戦連勝を飾っている。出場した公式戦は16試合で、強化試合を入れれば実に18試合にも及んだ。
すべてが満点の結果だったわけではないが、ポートランド・トレイルブレイザーズとのエグジビット10契約をつかみ、ワールドカップ予選では2勝2敗(ヒョンジュンが参戦した試合は1勝1敗)、アジア大会では兵役免除の条件である悲願の金メダルを獲得し、夏のチャレンジをやり遂げた。優勝の瞬間、自身が不在の間にチームを支えていたキャプテンのもとに駆け寄り、「先輩たちのおかげで優勝できた」と感謝の気持ちを伝え、喜びの涙を流していた。

優勝を決めてキャプテンのイスンヒョンと熱い抱擁 [写真]=小永吉陽子
韓国は「A代表」が出場しているとはいえ、金メダルへの道のりが順風満帆だったわけではない。アジアの頂点にたどり着くまでには苦労の連続だった。
韓国はヒョンジュンを筆頭とする24~27歳の「黄金世代」とその下の有望選手を招集し、この1~2年で世代交代を進めてきた。兵役免除の対象となる選手が8人(早期除隊1人を含む)も含まれる若い世代で代表チームを構築したことなど過去にはなかったが、韓国協会はこうした若い芽を育てて世界の舞台に出るため、今年2月末のワールドカップ予選Window2から初となるラトビア出身の外国人指揮官のニコラス・マズルスHCに指揮を任せ、黄金世代の最初の目標を「アジア大会金メダル」と定めた。
しかし、すぐには軌道に乗らなかった。言葉や文化の違いや、バスケスタイルの見直しなどから、従来のシュート力を生かしたスタイルを見失い、金メダルはおろか、指揮官の更迭論が飛び交うほどチーム力は不安定な状態に陥った。
そうした困難ななかで今大会に力を発揮できたのは、スモールセンターを務めたベテランたちを主体にディフェンスから立て直しを図ったからだ。彼ら兵役免除がかかっていない30代の選手にしても、総合競技大会ゆえに国民の関心が高いアジア大会において、結果を出したい意志は強かった。日本との決勝は得点源の2人をケガで欠く苦しい場面もあったが、後半にディフェンスのギアを上げ、ヒョンジュンが27得点18リバウンドと爆発したことで日本を退けた。優勝を決めてヒョンジュンは言った。
「金メダル獲得は難しいと言う人はたくさんいました。しかし、僕たちは新しいコーチと新しいシステムの下、チームとしての連携を深めるために努力しました。周囲の雑音に惑わされたり、くじけたりすることなく、ベテラン選手を中心にチームの結束力を高めていったことが、この結果につながったと思います」

新しいコーチ、システムの下、チームを構築していったという [写真]=小永吉陽子
韓国では徴兵制度があり、健康な男性であれば満28歳までに兵役に就く義務が課せられている。そのため、優勝することで兵役免除になる今大会は、韓国代表選手たちの兵役問題に話題が集中していた。
プロバスケ選手の場合は、競争を勝ち抜いたトップ選手のみが所属できる「尚武(サンム)」と呼ばれる国軍体育部隊で約18カ月間、練習を続けながら任務を行うケースと、「社会服務要員」として約21カ月間、公的機関で服務するケースが一般的だ。尚武であれば、KBLの2軍戦の参加に加え、代表活動に参戦することができるが(国際大会の国歌斉唱で敬礼をしている選手は尚武所属)、強度の高い試合数が減るために実力が落ちるケースもある。20代の選手の兵役は、これから全盛期を迎える選手たちのキャリアプランを狂わせることは間違いない。
兵役についてヒョンジュンは「僕は韓国人としての誇りを持っている。韓国男児なら誰もが通る道」と受け入れており、NBAサマーリーグに行く前も「ある意味、これが最後の挑戦」と今年の夏に懸ける思いを語っていた。それゆえに兵役免除となった今は、思いっきりNBAに挑戦してもらいたい思いは、応援している者ならば誰もが同じだろう。優勝を遂げたあと、改めて兵役免除について質問が飛ぶと「正直に言えば、兵役が免除されたことはうれしくないと言えばうそになります」と言ったあと、こう続けた。
「目標だったアジア大会に勝ったからといって、代表活動が終わるわけではありません。僕はアジア大会も、アジアカップも、ワールドカップも全部重要だと思っていますし、オリンピックだって出たい。世界の舞台で『韓国はやれるんだ』と示すことは、NBAでプレーするのと同じくらい実現したい目標です。だからこそこの先は、これまで以上に努力して、国民の皆さんに恩返しをしたい思いが強くなりました」
そして胸に掲げた金メダルをギュッと握り、「これからも自分自身への挑戦を続けていきます。後悔したくないので」と笑顔を見せた。
クレイジーにバスケに向き合った2026年の夏は終わったが、NBAを目指すチャレンジはまだまだ続く。金メダルを胸に母国に戻り、秋夕(チュソク、韓国のお盆)を家族と過ごしたあと、9月29日よりポートランド・トレイルブレイザーズのキャンプに参戦する。

ウイニングボールにキスをするヒョンジュン [写真]=小永吉陽子
文=小永吉陽子
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