2024.08.12

【山脇明子のLA通信】ニックス吉本泰輔ACが語るエグジビット10契約で大切なこと…「自分のプレーをする」

吉本泰輔氏は現在ニックスのアシスタントコーチを務める [写真]=山脇明子
ロサンゼルス在住ライター

名門ニックスの復活にも尽力

サマーキャンプでは4年連続でHCとしてチームを指揮 [写真]=山脇明子


 NBAニューヨーク・ニックスにおいて、名将トム・シボドーヘッドコーチ(以降HC)の下でアシスタントコーチを務める吉本泰輔氏が、7月にラスベガスで行われたサマーリーグで4年連続チームのHCを任された。

「今も試行錯誤の繰り返しです。毎日、新たな学びがあります。今年は私にとって(サマーリーグのHC)4年目ですが、これからもどんどん土台を築いていきたい」と吉本氏。「選手それぞれの長所短所を理解し、チームの強みといくつかの弱みがある中で戦略を立てていかなければなりません。もちろん、今は(以前に比べると)練習の組み立てをしたり、チームを管理したりすることに慣れてきましたし、自信もついています。でももっと成長していきたいです」と意欲に満ち溢れた表情を見せた。

 3勝2敗と勝ち越しで終えたサマーリーグ。最初の4戦は、どれも最後は接戦だった。初戦は残り11秒で2点差、2戦目は残り1分で3点差の試合を落とし、3戦目で1点差勝ちした。この試合では、2点を追う第4クオーター残り2.4秒、ドラフト2巡目指名のタイラー・コーレックがドライビング・レイアップを成功。これがアンドワンとなってフリースローを決め、ニックスが逆転勝ちした。

 自らが指示した作戦が見事にうまくいった。「安堵しました。チームに勝つチャンスを与えることが、私にとって最も重要なことですから。最後の場面では、指示したことを選手たちが実にうまくやり遂げてくれました」。

 次の試合も1点リードを守り切り2連勝。その試合前のミーティングで、チームに前戦のクリップを見せたという。

「選手たちに伝えたことは、あのプレーで私が最もうれしかったことは、(コーレックによるタフな)ショットが決まったことではなく、ベンチにいた誰もが立ち上がって、床に倒れていた彼を助けようとしたことだということです。あれが、あのプレーの醍醐味でした。作戦が描いたとおりに成功を成すことはとてもうれしいことですが、選手たちのああいった行動により、より高いレベルであのプレーが実現しました」と、チーム全員で戦えたことに満足感を示した。

 吉本氏がサマーリーグを迎えるチームに与えたテーマは、「個」ではなく「集」であり、「チームとして成長していくこと」だったという。チームの中心になるのは、どうしてもロスター入りしている選手やドラフト指名された選手になり、吉本氏も「(出場時間が与えられない)何人かの選手にとっては、とてもハードなこと」と言う。それでも「彼らはチームの一員として、素晴らしいチームメイトでい続け、自分の行動に責任を持ち、お互いに助け合える存在でいてくれています」と誇らしげに語った。

「彼らには常に準備し、練習を続けるように言っています。いつチャンスが訪れるかわかりません。時に故障が起きることもあるし、何だって起こりえます。(サマーリーグは)彼らにとって素晴らしい機会です。30チーム(のスカウトたち)が彼らを見ているのですから。そして、ときに、素晴らしいチームメートであることが、大きな意味をもつこともあります」。

 確信を持って、そう語った。

吉本氏も楽しみにする富永、河村のプレー

2011年からNBAのチームに携わる [写真]=山脇明子


 吉本氏は大阪府出身で現在43歳、大商学園高校(大阪府)卒業後渡米し、短大やNCAAディビジョン3の大学などでプレー。大学卒業後指導者に転身すると、2008年にニュージャージ=・ネッツ(現ブルックリン・ネッツ)の関連会社へ就職してビデオ分析を学んだ。

 その吉本氏がシボドーHCの下で働くチャンスを得たのは、2011年。1986年にNBA最優秀コーチ賞を受賞するなど、アトランタ・ホークス、クリーブランド・キャバリアーズ、メンフィス・グリズリーズの指揮官として活躍したマイク・フラテロ氏がウクライナ代表HCとなり、同チームのビデオコーディネーターになったことに遡る。

「ウクライナのHCになったとき、私はさまざまなスタッフを集めなければならず、ビデオコーディネーターもその一人だった」とフラテロ氏。同氏が、それを相談したのが、吉本氏が当時勤めていた会社で、すると「ぴったりの逸材がいます」と紹介されたのが、吉本氏だった。

「彼の労働論理の高さは素晴らしい。疲れを知らず、仕事を成し遂げるためにあらゆる時間を費やしている。彼のようなビデオコーディネーターこそが、我々が求めていたものだった」と、フラテロ氏は当時を振り返った。

 そう感じたのは同氏だけではなかった。同代表のアシスタントコーチで、ブルズのアシスタントコーチだったエド・ピンクニー氏もその一人。前年からブルズを指揮していたシボドーHCに「凄いビデオコーディネーターがいる」と話したことで、シボドーHCと吉本氏の歩みが始まった。

 シボドーHCに認められた吉本氏は、以降シボドーHCが違うチームと契約するたびに「右腕」として帯同。同HCは、吉本氏について、「努力家で頭がいい。非常に高いリーダーシップ能力を持っており、優れた指導者だ」と話し、「サマーリーグでチームを指揮した経験により、彼は多くを学び、より良いコーチになっている。(コーチとして経験した)試行錯誤も学びの大きな部分を占めている」と愛弟子の成長を感じている。

 昨季ニックスは、イースタン・カンファレンスのプレーオフで準決勝まで勝ち進んだが、故障者が続出する中、インディアナ・ペイサーズと7戦まで戦った末、敗戦。このオフは積極的な選手編成を行っており来季への期待は高まるばかりだが、吉本氏は「私たちはシボドーHCのリードに従うだけ」と冷静だ。それでも、「(昨プレーオフで)チームにチャンスがあったのは確か。でも(負けてまったので)チームとして、もっと良くなるだけです。私たちが目指していることは、日々向上し来季に挑むこと」とさらなる進歩を図る。

 NBAに携わっている日本人として楽しみなこともある。今秋、河村勇輝がメンフィス・グリズリーズで、そして富永啓生がペイサーズでエグジビット10契約選手としてNBAに挑戦することだ。

「彼らがプレーするのを見るのが楽しみです。個人的に彼らのことを知っているわけではありませんし、生でプレーを見たこともありません。でも一人はFIBAで素晴らしいプレーをし、もう一人は(アメリカの)大学の高いレベルでプレーしてきた選手です。激しい競争になると思いますが、彼らのチャレンジは、とても意義のあることだと思います」

「エグジビット10契約でキャンプに参加する選手にとって、大切なことは?」と聞くと、こう答えた。

「ほとんどのチームがそうだと思いますが、上の(NBA)チームと傘下のチームは(シーズン中)同じシステムでやっていきます。そのためシーズンの序盤からチームのコンセプト、チームの戦略を自分のものにすることです。そして、フロアに立つ機会を得たら、自分のプレーをすること、自分の長所を発揮していくこと」

 日本のバスケ界に大きな影響を与えた渡邊雄太NBAを離れて日本に戻り、今季から千葉ジェッツでプレーすることになった。しかし、NBAと日本のコネクションはまだまだ続く。

 2020年以来の王者復活を目指すレイカーズの八村塁、新風を巻き起こそうと奮闘する河村と富永、そして、ニックスの土台を築いていく一人として粉骨砕身する吉本アシスタントコーチ。

 2024-25シーズンも熱くなりそうだ。

文=山脇明子

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