2025.06.08

日本の“華”が再びコートに…渡嘉敷来夢が3年ぶりに代表戦に出場「うれしいですね、素直に。ただ…」

頼もしい背番号10が代表に帰ってきた [写真]=黒川真衣
フリーライター

「やっとスタートラインに立てたとい思います」

 試合直後にコート上で行われたインタビューのとき、そしてミックスゾーンでメディアから質問を受けたときも、彼女はこのように答えた。

 6月7日、女子日本代表は愛知県の豊田合成記念体育館(エントリオ)にて女子チャイニーズ・タイペイ代表を迎え、「三井不動産カップ2025(愛知大会)」第1戦を戦った。結果は95ー42と女子日本代表が快勝。その中で3年ぶりに日本代表としてプレーしたのが渡嘉敷来夢(アイシンウィングス)だった。

 今年からコーリー・ゲインズヘッドコーチ体制となった女子日本代表。渡嘉敷にとってはENEOSサンフラワーズに入団した1年目に当時ゲインズヘッドコーチが指揮を執っていたフェニックス・マーキュリーの練習に参加するなどつながりの深い指揮官でもある。「コーリーは、こういうバスケットがやりたいんだろうなというのはだいぶ理解できています。ペースやスペースをすごく大事にしていて、3ポイントシュートのチャンスがあったらどんどん打っていいとも言われているので、そこは意識しています」と、渡嘉敷は言う。

 その3ポイントシュートに関しては、「コーナーから1本、打ってもよかったなと思ったのがあったけれど、(田中)こころにいいアシストができたので、若くて日本代表が初めての選手を引き立てることができたのはよかったです」と、振り返る。それは第2クォーター序盤、コーナーでボールを受けたときのことで、自身が3ポイントシュートを放つチャンスもあったが、ドライブを選択し、そこから豪快なパスから田中の3ポイントシュートを演出したプレーだった。

 今、女子日本代表は候補選手が25名おり、7月の「FIBA女子アジアカップ2025」に向けたメンバー争いの最中でもある。だが、「一緒にやっている仲間と競わなきゃいけない、負けたくないと思わなきゃいけないのかもしれないですが、それよりも自分が成長したいという気持ちの方が強いです。ベクトルは(他の)人じゃなくて自分に向いてる感じがあるので、それをクリアできれば残れるんじゃないかなって思っていて、自分次第だと思っています」と、気負いはない。

 冒頭に触れた場内インタビューでは2学年上で桜花学園高校時代、そして日本代表と、長きにわたってともに戦ってきた髙田真希(デンソーアイリス)とのプレーについて聞かれ「久しぶりだったけれど、そんな感じもしなくて。もっともっといいプレーはたくさん生まれてくると思うので今後に期待していただけたらなと思っています」と、笑顔を見せていた渡嘉敷。

 これに対して髙田にコメントを求めると、「(試合に)出場できることもそうですし、日本代表として一緒に活動できている日々はものすごく自分にとっても楽しく充実しています。必ず日本にとって大切な選手だと思っているし、毎日毎日3ポイントシュートなどいろんなことに挑戦している姿を見て自分自身も頑張ろうと思えるので、そういう選手が戻ってきたのはよかったなと思います。高さや彼女のリーダーシップがチームのプラスになっていて、そこは私も負けずに一緒に頑張っていきたいです」と、熱い言葉を返した。

「日本代表全員でいいチームを作って、もう1回勝っていい景色をみなさんにお見せできたらなと思うので一緒に戦ってください」

 こう締め括った場内インタビュー。そもそもインタビューに際し渡嘉敷の名前が呼ばれると場内からはたくさんの拍手が送られた。

「うれしいですね、率直に。帰ってきたということで注目度も少し上がっていると思うので」と、渡嘉敷。一方で、「すごくうれしいんですけど、ただ、ちょっと今日の感じだと、なんか名前呼ばれるのには、まだまだだよねと思ったりして」とも言う。

詰めかけたファンに感謝の言葉を述べた [写真]=黒川真衣

 第1戦のスタッツは9分12秒の出場で3得点3リバウンド2アシスト。ディフェンスなど数字に表れないプレーも光ってはいたが、渡嘉敷自身は、インタビューに呼ばれるほどの活躍ではないと自身を律したのだろう。

 もちろん、渡嘉敷本来のプレーがこの程度ではないことは多くの人たちが承知している。それでもなお、3年ぶりに日本の背番号10が躍動する姿を見ることができ、彼女の新たな挑戦のスタートを共有できたこと、そして彼女の声を聞くことができ喜びを感じたのだ。

 メンバーに選ばれることではなく、メンバーに選ばれて結果を出すことが目標と力強く発する渡嘉敷。日本の至宝は、目標に掲げている2028年のロサンゼルス・オリンピックに向け、再び走り出した。

文=田島早苗