2020.12.14
高校時代に生粋のスコアラーとして全国を沸かせ、東海大学に進学した大倉颯太。大学1年次には「関東大学バスケットボールリーグ戦」と「全日本大学バスケットボール選手権大会(インカレ)」の2冠を達成して順風満帆なスタートを切るも、昨シーズンは結果が出ずに苦しんだ。そんな彼が12月中旬に練習生として千葉ジェッツに加入、その後にチームでケガ人が発生して特別指定選手として2カ月間を過ごした。
練習生として加入した当初、チームリリースには「特別指定選手及び大学卒業後のプロ契約が目的」と記載されていたが、大倉はそのうちの一つを早々に実現させる形となった。今後行われるU22日本代表のスプリングキャンプ、そしてその後には大学での新シーズンがスタートするため、プロの舞台で過ごす時間は終了することになる。
2月15日の大阪エヴェッサ戦、出番は突然やってきた。第2クォーター残り7分37秒でコートに立つと約2分半プレー、5試合ぶりの出場だった。スコアメイクはできなかったものの、出場するタイミングではアリーナ中からすさまじい大歓声が沸き起こった。
大倉にとっては同郷かつ、野々市市立布水中学校の大先輩でもある大野篤史ヘッドコーチは「本当はもっと試合に出してあげたかったんですよね」と正直な言葉を残しつつも、試合後に彼についてこう語ってくれた。
「当初はあくまで練習を一緒にするという話でしたが、チームにケガ人が出て、急きょ特別指定選手としてゲームに出す事になりました。ただ、僕はこのチームを1年間作っていく中で、彼が途中で抜けるという部分にリスクがあると思っていて。彼がプレータイムを十分確保したとして、その後にやってくる大事なシーズン終盤戦やチャンピオンシップでの他の選手たちのモチベーションを考えていました。自分がプレーヤーだったら、どういう気持ちになるのかなと」
「チーム作りを考えた上なので、彼が悪くてプレータイムが少ないわけではありません。彼自身もチームと一緒に練習して、スキルや考え方などの部分を上げていきたい意向はありました。この期間中のトレーニングなどの時間を通じて、しっかりと2カ月間経験を積んでくれたのは、今後の彼にとってステップアップできる一つの要素になると思っています」
大倉自身も大野HCの考えをしっかりと理解しながら、プロの現場を経験したことで自分自身を見つめ直すことができたようだ。
「ここまでの大学2年間は、勝ちにこだわって、自らチームの先頭に立ってけん引していくような時間を過ごしてきました。けれど、千葉に加入して練習などをさせてもらうことでフラットに自分を見つめ直すことができたというか、自分には何が必要で何をしなければいけないのかなど、トレーニングやスキルの部分などをイチから見つめ直すことができました。特に体のファンダメンタルの部分は大きく見つめ直せたかなと。プロの舞台でも『これは絶対に通用しないな』というのはなかったんですけど、大学とは違う短い時間でもやるべきことにフォーカスして自分を表現するのは非常に難しく、プロの選手はすごいなと感じました。プロの世界は多くの人の支えで成り立っているのを自身の目で感じることができて、その部分は大学にも還元できると考えています。このタイミングでこういう経験ができて、プロの難しさも含めていろいろと感じつつ、今後は危機感を持って大学でプレーできるのはいいことだと感じています」
そんな中で大野HCは同郷の後輩に対して、時折笑顔を見せながら愛のあるコメントを残した。
「彼のことは本当に小さい時から見ていますし、大きく育ってほしいと感じています。そして、僕がそのお手伝いをできればなとも思っています。今後、彼が千葉ジェッツに来てくれるかどうか分かりませんし、その時に僕が千葉ジェッツにいるかどうかも分からないですが(笑)。でも、どこに行ってもいいキャリアを積んでもらえればと思いますし、ずっと応援していきたいですね」
その言葉を大倉に伝えたところ、「自分も大野さんと一緒にやりたいと思っていましたし、今でもその気持ちは変わらないです。先輩や後輩の間柄を抜いてもリーグの中で偉大なコーチですし、尊敬しています。ここでいろいろなことを学べてすごくうれしいです」と彼も笑顔を見せて語ってくれた。
千葉に来る前に大学の陸川章監督からは「しっかりやってこい、そこで学んだことをチームに還元させるためにすべて吸収してきなさい」と言われたという大倉。この2カ月という濃密な期間で多くのことを吸収し、成長したに違いない。その経験を活かし、今シーズンは昨シーズン味わった悔しさを晴らして、再び大学の頂点へ。その想いは非常に強い。
「昨シーズンの失敗を繰り返さないよう、大学でやらないといけないことは分かっています。その中で僕がリーダーになって、千葉での経験を活かせたらなと考えています。やっぱり今シーズンはすべての大会で優勝してシーズンを終わりたいですね。そして、プロの選手ともやりあえると感じているので、オールジャパン(天皇杯)でしっかりと勝ち抜いて、B1のチームに立ち向かっていきたいです」
バスケに対する限りない向上心を持った、将来を嘱望される大倉颯太。「千葉に来れて良かった、たくさんの収穫があって満足しています」と残した言葉の通り、この経験を東海大学の復権のために活かすだろう。結果を残した先には、日本を代表するガードとしての未来が待っているはずだ。
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