2023.10.25

「正直楽しくない」…葛藤を抱え、今季最初の壁にぶつかる津屋一球「今は我慢。成長できるチャンス」

サンロッカーズ渋谷での2シーズン目を迎える津屋一球 [写真]=B.LEAGUE
フリーライター

 第3節を終えてチームの成績は1勝5敗。自身のプレータイムは限られ、コートに立っても思うようにプレーできていない。サンロッカーズ渋谷津屋一球は必死にもがいている。

「正直、楽しくはないですね」

 今シーズンのSR渋谷は、日本代表のジョシュ・ホーキンソンアルバルク東京のエースとしてリーグ連覇を成し遂げた田中大貴、さらにはルカ・パヴィチェヴィッチ新ヘッドコーチの招へいもあり、チームが大きく変わった。加入して2年目のシーズンを送る津屋は「僕がまた移籍したような雰囲気」と、不思議な感覚もあるという。

「どんな選手なのかよくわからない」

新チームが動き出した頃、津屋はパヴィチェヴィッチHCからそんな言葉をかけられた。

「最初の評価はすごく低かったです。けど、徐々にディフェスができるタイプだと思ってくれたようで、試合で使われるようになりました。今、コーチから求められているのはアグレッシブなディフェンスのみですね」

“のみ”という言葉に違和感があった。津屋はディフェンスだけの選手ではない。3ポイントを軸としたアウトサイドシュートにも光るものがあり、本人も「昨シーズンはチャンスがあればどんどん3ポイントも打っていました」と言う。

 しかし、今シーズンはオフェンスにおいても違うプレーを要求されているようで、試合でチャンスがありながら、シュートを打たない津屋がいる。

 開幕戦では4本中2本の3ポイントを沈めた。だが、その後の4試合では合計5本中1本のみの成功と、そもそも打っている本数が物足りない。10月22日の長崎ヴェルカ戦では、約13分間の出場で1本もシュートを打たなかった。萎縮してしまっている理由について、津屋は正直に打ち明けた。

「僕は今、試合に出られるか、出られないかの狭間にいる選手です。僕がミスするのと、大貴さんがミスするのでは、同じミスでもコーチにとっては捉え方が違うと思います。1ミリも油断できないですし、今はオフェンスでミスをしたりシュートを外したりすることは求められていないので、 効率よく決めなきゃいけないという重圧があって打てていないです」

 指揮官は、津屋を「ローテーションメンバーの1人」と位置づけている。しかしその中でも、一定の評価を与えて起用しているのも事実だ。

「彼は正しいエナジーを使っていますし、体も強い。それがチームの助けになることを信じて起用しています」

開幕から6試合すべてに出場する津屋 [写真]=B.LEAGUE

 主戦場とするシューティングガードで先発を担う田中は、津屋にとって学生時代からの憧れの存在でもある。「最初はうれしい気持ちでいっぱいでしたし、今でもすごくリスペクトしています」。チームメートとなった7つ年上の先輩についてそう口にした津屋は、こう続けた。

「今は練習からバチバチやらせてもらっていてすごく勉強になっています。僕としてはやっぱり大貴さんという存在がリスペクトから超えなければいけない存在に変わってきています」

 頼もしい仲間が加わればチーム内の競争も激しくなり、指揮官が変われば求められるプレーも以前とは異なることだってある。

「それがプロの世界」。津屋自身も重々承知しており、「コーチの言っていることは間違っていない」と、あくまで自分にベクトルを向ける。

「今は我慢の時期でもあり、成長できるチャンスだとも感じています。試合に出るためにはコーチから求められることを100パーセント完璧にできなきゃいけないと思っています」

 欲を言えばもっとわがままにシュートを打ちたい。しかし今は、白星を伸ばせていないチームのために最優先でやるべきことがある。

「やっぱりディフェンスですね。相手のエースを周りの選手やヘルプに頼らず、1人でバチッと止められるようになりたいです。またバスケが楽しいと思えるようになるためには、今の我慢の時期を成長につながるまで頑張るしかないです」

 悩める25歳の前に現れた今シーズン最初の壁は、高いのか低いのか我々にはわからない。けれど、それを超えることができれば、津屋一球は今までとはまた違った輝きを放つはずだ。

文=小沼克年

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