2025.08.26

「これはただの一歩」…八村塁が『BLACK SAMURAI 2025』で日本バスケ界に刻んだ熱狂と未来への約束

八村主催の「THE CAMP」は大盛況のうちに幕を閉じた [写真]=山田智子
ライター・カメラマン

 NBA・ロサンゼルス・レイカーズに所属する八村塁選手が主催する「BLACK SAMURAI 2025」が、8月18日から3日間、愛知県名古屋市のIGアリーナで開催された。

「日本のバスケを強くしたい」

 そう繰り返し語ってきた八村自身が、世界の舞台で培ってきた学びや視点、マインドセットを日本のバスケットボール界と共有したいと思いから誕生したプロジェクトで、今回が初めての開催となる。

 18、19日の2日にわたって行われた、本気で世界の舞台を目指す中高生を対象にした育成キャンプ「THE CAMP」には、応募総数3314名から選ばれた男女153人が参加。八村と元ロサンゼルス・レイカーズのアシスタントコーチで、レブロン・ジェームズをクリーブランド・キャバリアーズ時代から指導してきたことで知られる名コーチ、フィル・ハンディ氏が直接指導を行った。

■「一生懸命を楽しむ」を体現した20分間のワークアウト実演

八村とともに指導にあたったフィルコーチ [写真]=山田智子


八村塁が日本のバスケのために考えたイベントがスタートします」というアナウンスで始まった最終日20日に行われた「THE SHOWCASE」は、八村が全体練習の前にいつも行っているワークアウトの実演からスタートした。ワークアウトが始まると、八村が登場で大歓声に包まれたアリーナがピリピリとした緊張感に包まれた。

 20分間。ハンドリング、そしてレイアップ、ポストアップからのジャンプシュート、3ポイントシュートなど様々なスポットからのシュートと八村が試合で使う4、5の要素を短い時間中で凝縮して行う。内容はシンプルでファンダメンタルなものばかりだが、それを「ゲームスピードで行う」ことを求める。常に動き続け、息をつけるのはフリースローの時だけ。フィルコーチが哲学とする「量より質」が具現化されていた。

 これから世界を目指す中高生プレーヤーは言うまでもなく、バスケをしていない大人も、世界最高峰で活躍する人間が放つエネルギーや細部にまで行き渡った集中力を目の当たりにし、圧倒されたことだろう。八村の動きに目を凝らし、アリーナは静まり返った。強烈な20分間だった。

 印象的だったのは、「ディフェンスなしで行うのは、選手の想像力を使ってディフェンスをイメージしながらやってほしいから」というフィルコーチの言葉。そうすることにより、選手の想像力を鍛えられるだけでなく、常に試合を意識してすることができるし、イメージの中で、実際には対戦したことのない、例えばNBA選手とも自由に対戦ができる。イメージだからこそのさまざまな効果が得られそうだ。

 ワークアウトを終えた八村は汗びっしょりで、続くオープニングトークでは「疲れていて、言うことないです」と開口一番。「僕は一生懸命やることが楽しい。皆さんも一生懸命を楽しめるように頑張ってください」とメッセージを送った。

■今季よりIGアリーナを本拠とする名古屋Dの選手、富樫、エブリンも参戦

富樫や馬瓜のサプライズ登場に会場は大盛り上がり [写真]=山田智子


 今シーズンからIGアリーナを拠点とする名古屋ダイヤモンドドルフィンズとのコラボコーナーでは、張本天傑今村佳太アイザイア・マーフィーアーロン・ヘンリーの「名古屋ダイヤモンドドルフィンズチーム」と「BALCK SAMURAIチーム」がシューティング対決で盛り上げた。BALCK SAMURAIチームにはサプライズゲストとして日本代表の富樫勇樹女子日本代表馬瓜エブリンが加わり、観客を沸かせた。

 1勝1敗で迎えた最終対決では、「U19日本代表の遠征で同部屋だった」マーフィーと八村が米国で遊び感覚でよく行われるという「H―O―R―S―E」で競った。

 全く同じシュートを交互に打ち、先に5回失敗すると負けになるルールで、「彼はたしか左手が苦手だったと思う」と八村が左手のレイアップで仕掛けたり、マーフィーがゴールを背にしたトリッキーなシュートを何度も決めれば、八村がハーフコートシュートを沈めたり。八村本人がこの場にいる誰よりもバスケを楽しみ、なおかつ遊びであっても勝負事には絶対に負けなくないというトップアスリートのメンタリティを垣間見せた、貴重なひとときだった。

U19時代のチームメートであるマーフィーとシュート対決 [写真]=山田智子

■MVPには福岡大大濠高1年の白谷柱誠ジャック

 クライマックスは「THE CAMP」選抜選手男子16名、女子12名によるスペシャルマッチ。八村とフィルコーチがそれぞれ監督を務め、2日のキャンプで学んだことをぶつけ合った。

 女子はチームPhilが勝利。男子は最後の1秒までどちらが勝つかわからない死闘を繰り広げ、チームRuiが1点差で勝ち切った。

参加した選手たちを盛り上げる八村 [写真]=山田智子


 試合後、感想を聞かれたチームPhilの若野瑛太名古屋ダイヤモンドドルフィンズU18)は「チームとしては負けましたけど、僕はジャック(白谷柱誠ジャック)に1対1では決められていないので、ジャックには僕が勝ちました」とU16日本代表で共闘した同世代のライバルへの闘争心を剥き出しにすれば、白谷柱誠ジャックはファストブレイクでダンクを決めたシーンに触れ、「でも、自分の上からダンクを叩き込まれるのは相当に恥ずかしいことだと思います」と応戦。大観衆の前で舌戦を繰り広げた。

「競争心」もまさにこのキャンプで八村とフィルコーチが参加者に伝えてきたこと。スキルを短期間で身につけることは難しいが、意識はすぐに変えられる。メンタリティの変化を垣間見える一幕だった。

 イベントの締めくくりはスペシャルトークショー。八村はイベントを振り返り、「日本の皆さんのモチベーションになれるキャンプにしていきたいと考えていて、これはただの一歩です。これからもどんどんやっていこうと思っています」とイベントの継続を示唆。

 さらに、「NBAで長くやりたい、優勝したいという目標が出てきた」と語る八村に対し、MCの佐々木クリス氏が今後のキャリアプランと尋ねると、「でも、日本でもやりたいんでね。どのチームがいいですかね?」と発言。アリーナは喜びで沸き立った。

佐々木クリス氏とのトークに観客は聞き入った[写真]=山田智子


 最後は、この日IGアリーナを埋めた1万510人の観客に質疑応答の“プレゼント”も。「何を食べればルイ君みたいに大きくなれますか」という少年の質問には、「小さい頃僕がよく食べていたのはチキンです。お母さんが鶏肉の料理が上手かったので、毎日のように鶏肉を食べていました」と笑顔で返答。パワーフォワードのポジションを任されているという小学校4年生の男の子から「今の時代に求められるパワーフォワードの動き方はありますか」という質問には、「今の時代のパワーフォワードはどちらかと言うとウイングプレーヤーでもあると思うので、3ポイントもしっかりと練習して、ドリブルやハンドリングもやったらいいと思います」とアドバイスを送った。

 最も大きな歓声が上がったのは、「今後、日本代表で活躍する八村選手をファンは期待していいでしょうか」と問われると、「おおー、来た」と顔をほころばせ、「もちろんです!」と力強くサムアップ。アリーナから万雷の拍手が沸き起こった。

 3日間にわたって開催された『BLACK SAMURAI 2025』。日本のバスケを強くしたいという八村の想いは、確かに次世代プレーヤーに、日本のバスケファンに届いた。これはただの一歩。八村が描く日本バスケットボールの新たな未来への第一歩だ。

[写真]=山田智子


取材・文=山田智子

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