2025.09.12

U16アジア杯、高い結束力で「二つの目標」を達成した日本代表…“逸材”白谷柱誠ジャックには課題も

スポーツライター

 日本バスケットボールの次世代を担う若い力が、2大会ぶりに世界への扉をこじ開けた。

 8月31日〜9月7日にモンゴル・ウランバートルで開かれた「FIBA U16アジアカップ2025」。U16男子日本代表(FIBAボーイズランキング26位)は4位に入り、ベスト4のチームに付与される「FIBA U17ワールドカップ2026」(来年トルコ開催)の出場権を獲得した。U17ワールドカップへの出場は2014年、2022年に続いて3度目となる。

 最大の目標を達成した一方で、格上と対戦した準決勝以降は世界レベルと戦う上での課題も見えた。大会を総括する。

取材・文=長嶺真輝

■小柄な「PGトリオ」活気と爆発力生む

(左から)宮里、越、高橋[写真]=fiba.basketball


 大会を通して存在感が際立ったのは、全6試合で先発ガードを務めた越(Concordia Lutheran School of Omaha/163センチ)と宮里俊佑(琉球ゴールデンキングスU18/179センチ)、そしてベンチから出てくる“3人目”を担った高橋秀成(U18川崎ブレイブサンダース/175センチ)の小柄なポイントガード(PG)トリオだ。

 共通するのは、自分から率先してよく喋ること。「ノースリー!」「我慢我慢!」「ボックスアウト頑張ろう!」など、時には手を叩きながら味方に声を掛け、司令塔としてチームの共通認識の維持に努めた。

 この3人を中心にチーム内のコミュニケーションを活発にしたことが大きな勝因になったのが、83-72で勝利した準々決勝のチャイニーズ・タイペイ代表戦だ。ピックを起点にハンドラーがプルアップの3ポイントシュートを多投する相手に対して「スイッチ!」「前出ろ!」と小まめに意思疎通を図って距離感やマークマンが入れ替わるタイミングを調整していき、後半に決められた3ポイントシュートは2本のみ。7試合中3試合で100点以上を記録したチャイニーズ・タイペイにとって、72点は大会最少得点だった。

司令塔として存在感を示した越[写真]=fiba.basketball


 持ち前の爆発力で得点面をけん引したこともガード陣の特筆すべき点だ。個人スタッツで大会6位の平均17.8得点を記録した越は、スピードのあるドライブや3ポイントシュートを武器に準々決勝でゲームハイの31得点。92-93で惜敗した3位決定戦のニュージーランド戦の24得点も両チームで最多だった。この試合では、高橋も3ポイントシュートを5本沈めて猛追の火付け役となった。

 これから高校進学でアメリカへ渡る越。大会最終日の記者会見では、NBAで活躍する河村勇輝についてどう感じているかを問われ、「今は憧れている状態ですが、これからアメリカに渡り、もっとバスケットを学んで、いずれは河村選手を超えられるプレーヤーになりたいです」と力強い決意を述べた。大柄な選手が多い国際大会でも持ち前の高い得点力を発揮できたことは、渡米を前に自信につながったはずだ。

 一方、ガード陣のターンオーバーの多さは大きな課題として残った。アレハンドロ・マルチネスヘッドコーチ(HC)は大会中に「ドリブルを突き過ぎてミスが多いので、もっと顔を上げて、パスができる時はパスをするのが一番いい」と指摘し、宮里も準々決勝の後に「ドライブをしてオープンな選手にパスを出したり、ファウルをもらえたりした部分は良かったのですが、まだコントロールできていないところが多いです」と反省を口にしていた。より高いレベルの国と対峙するU17ワールドカップに向け、ガード陣の状況判断や視野の広さはさらに磨いていきたいポイントだ。

■準々決勝でファウルがかさんだ白谷「もっと成長したい」

大会終盤は欠場した白谷[写真]=fiba.basketball


 世代ナンバーワンの逸材である白谷柱誠ジャック(福岡大学附属大濠高校)についても触れたい。個人スタッツは16.0点(全体10位)、11.5リバウンド(同4位)、3.0スティール(同4位)。足首を痛めて準決勝以降は欠場したが、出場した4試合では持ち前の高い万能性を発揮した。2年前のU16アジアカップ、昨年のU18アジアカップではいずれも準々決勝の壁に跳ね返されたため、「過去2回のアジアカップで悔しい思いをしてきたので、ようやく目指してきたワールドカップの舞台に立てることがとてもうれしいです」と頬を緩めた。

 ただ、課題も残った。世界への挑戦権がかかった準々決勝は前半でファウルが三つとかさみ、第4クォーターの終了間際に退場。16得点、14リバウンドと要所で存在感は見せたが、他の主力級が30分以上コートに立った中、出場時間は22分55秒と伸び悩んだ。

 マルチネスHCは「必要のないファウルもありました。試合に集中していない証拠です。チームにとってすごく大事な選手ということを、彼自身が理解しないといけません」と指摘。「彼にとって学びになったと思います」とも。厳しい言葉は、期待の大きさの表れだろう。

貴重な経験を積んだ16歳の有望株[写真]=fiba.basketball


 大一番における精神面のコントロールの必要性は、本人も痛感したようだ。「前半でファウルが混んでしまい、そこで落ち着きを持てませんでした。もっと成長していきたいと思います」と振り返る。U17ワールドカップに向けて「準備できる期間はあります。まだできていないハンドラーの部分も含め、U17ワールドカップで新しい自分を見せたいです」と前を向いた。

 飛び級でのU18日本代表選出、A代表候補入りを果たし、逸材であることは間違いない。それでも、まだ16歳の高校1年生。大舞台での悔しい経験は、さらなる成長の糧になるはずだ。

■期待の新戦力が豪州戦の「完敗」から感じたコト

違いを見せつけられたオーストラリア戦…常見はFG7本全て失敗に終わった[写真]=fiba.basketball


 他にも、モンゴルから大きな課題を持ち帰った選手は多い。主力の白谷と栗本富美也福岡大学附属大濠高校)が怪我で欠場した中で迎えた準決勝、大会4連覇を果たしたオーストラリア代表を相手に36-101で完敗。高さ、フィジカルの強さ、スピード…。個々の能力における、あらゆる面で歴然とした差を見せ付けられた。

 日本代表でただ一人の身長2メートル超の選手だった202センチの常見寛章(国際アート&デザイン大学高等課程)は、23分39秒の出場で得点、リバウンドともにゼロ。「日本ではあまり体負けしませんが、オーストラリアはみんな大きくて、走れて、飛べる。レベルの違いを感じました」と、自身初の国際大会でいきなり世界トップクラスの力を体感した。「本当にいい経験になりました。もっと体を強くして、スピードを上げていきたいです」と今後を見据えた。

 3位決定戦で当たったニュージーランド代表も高さと強さのあるチームだったが、日本は17本もの3ポイントシュートを決めて1点差の接戦を演じた。195センチのイヘツグットラックチネドゥ(開志国際高校)は「普通にシュートを打ったらブロックされるけど、中を攻めてキックアウトすればフリーのシュートも作れる。状況判断が一番大切だと感じました」と話し、体格で勝る相手と戦う上で一定の手応えをつかんだようだった。

イヘツはニュージーランド戦で自己最多9得点を挙げた[写真]=fiba.basketball


 マルチネスHCは「選手たちが大会の経験から多くを学び、それを生かしてトム・ホーバスHCが率いるナショナルチームでプレーできる選手になることを目指しています」と言う。各選手のコメントからも分かるように、今大会は「U17ワールドカップの出場権獲得」に加え、「選手たちが自身の成長につながる経験を積むこと」という二つの目標を達成したと言えるだろう。

 来年に大舞台が設定されたことは、彼らが日々のトレーニングに向かう上で大きなモチベーションになるはず。それは、今回代表入りできなかった同世代の選手たちも同様だ。来年6月27日にトルコ・イスタンブールで開幕するU17ワールドカップ。日本の将来を担う有望な若手にとって、さらなる成長の糧になることは間違いない。

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