2025.09.17

NBAが創出する高校生国際大会“RSI”…ソフトバンクが技術で支える未来の挑戦

初めての開催ながらNBAライジングスターズ・インビテーショナルは華やかに閉会した[写真]=NBAライジングスターズ・インビテーショナル
バスケットボールキング編集部

今夏、NBAがアジア太平洋地域で初めて主催した高校生国際大会「NBAライジングスターズ・インビテーショナル(以下RSI)」がシンガポールで開催された。アジア・オセアニア地域の高校チャンピオンが集まり、アジアNo.1を決める舞台となったこの大会について、開催の目的と成果、今後の展望をNBAジャパンの髙市康太氏、そして大会をサポートしたソフトバンクの関戸淳文氏に話を聞いた。

インタビューに応じたNBAジャパンの髙市康太氏(左)とソフトバンクの関戸淳文氏 [写真]=兼子愼一郎

インタビュー・文=入江美紀雄
写真=兼子愼一郎

なぜRSIは生まれたのか

京都精華学園高校がRSIの初代女王に [写真]=NBAライジングスターズ・インビテーショナル

――まず、高校生を対象にした国際大会というのは非常に新しい取り組みですが、NBANBAライジングスターズ・インビテーショナル(以下RSI)を立ち上げた経緯を教えていただけますか。
髙市 アジア太平洋は、ファンの数では北米を超える市場になっているんです。ただ、NBAというブランドを“実際に体験”できる場がほとんどなかった。だからこそ、アジア各国・地域の高校チャンピオンを一堂に集めて、“アジアNo.1”を決める。しかし、それだけではなく、出場した皆さんにとって、海外での競争や異文化交流を通じた“リアルな成長体験”になる。そういう舞台を作りたいという強い想いが元になってRSIを立ち上げました。

――これまでにもジュニアNBAなどの取り組みはありましたが、RSIはどのような点で特別なのでしょうか。
髙市 ジュニアNBAや国境を越えた交流試合などはありましたが、今回のようにアジア全域の高校チャンピオンが集まって戦う大会は初めてです。しかもU18世代に特化した競技系統としては世界でも例のない試みでした。

アジアはNBAが重要視するマーケットと髙市氏 [写真]=兼子愼一郎

――開催地にシンガポールが選ばれた理由についても教えてください。
髙市 当大会の実現に際してはシンガポール政府観光局と、シンガポール文化社会青年省の法定機関であるスポーツシンガポールとの複数年に渡るパートナーシップの締結が基盤にありました。シンガポールは地理的にアクセスが良く、安全性が高い。加えて運営力も優れていて、メディア対応から会場の設営、移動・滞在面にも抜かりがなかった。親御さんや学校が安心して参加させられる環境だったのは大きかったですね。

――続いて関戸さんに伺います。ソフトバンクとして、この新しい大会に参画することを決めた経緯をお聞かせください。
関戸 NBA大会のスポンサーは初めてでした。ただ、NBAだからというより、「高校生のチームがアジアの国際舞台で戦う」というコンセプトに強く共感しました。私たちは高校のウインターカップや中学ではJr.ウインターカップなど、国内でこの年代の大会をサポートしています。その延長線上にRSIがあると感じ、参画を決めました。

国際交流の化学反応と日本勢の手応え

福大大濠は惜しくもベスト4で大会を終えた [写真]=NBAライジングスターズ・インビテーショナル

――実際に現地で開催された際の雰囲気はどのようなものでしたか。印象に残っている場面を教えてください。
髙市 ウェルカムパーティーの光景が印象的でした。最初は緊張して黙々と食事をしていた選手たちが、時間が経つにつれて隣のチームに声をかけたり、笑い合いながらインスタを交換したり。試合後に翻訳アプリを使って「あなたのプレーに憧れている」と勇気を出して話しかける場面もありました。競技だけでは得られない、人としての成長の瞬間をたくさん見られた気がします。

――大会期間中には観光のプログラムも組み込まれていたと伺いました。
髙市 はい。マーライオン観賞やマリーナベイ・サンズでの記念写真、地元スタッフが案内する市内散策ツアーなど、シンガポールという国全体の魅力も体験してもらいました。これもシンガポールが安心できる環境であることが大きいのですが、選手にとっては新鮮で大きな刺激になったと思います。

――日本勢の戦いぶりや得られた成果については、どのように受け止めていますか。
関戸 女子は京都精華学園高校(京都府)が優勝、男子は福岡大学附属大濠高校(福岡県)がベスト4。国内で勝つこととアジアの舞台で結果を残すことは意味が違います。その自信を持ち帰れたのは非常に大きいと思います。

髙市 フェニックス・サンズのライアン・ダン選手、オソ・イゴダロ選手が京都精華のウォームアップを「規律がしっかりしていて素晴らしい。今まで見た中でベストだ」と評価してくれました。声を出し続け、ハッスルする姿勢が現役NBA選手の目にも強く映ったんです。日本の高校生が国際舞台でリスペクトを勝ち取ったのは価値ある出来事でした。

――大会の裏側では映像制作や情報発信の取り組みも行われていたと聞きます。
髙市 ソフトバンクと協力してドキュメンタリーシリーズ「Level Up」を制作しました。各国チームの練習風景や背景を掘り下げ、Level UpをはじめSNSも含めて合計2300本近いコンテンツを発信。累計再生数は1億2000万を超えました。試合だけでなく、その裏にある“物語”を伝えられたのは大きな成果だったと思います。

配信の革新とこれから描く未来

番組作りや配信の技術はまだまだ発達すると関戸氏 [写真]=兼子愼一郎

――配信や中継の面では、どのような工夫や課題がありましたか。
関戸 国際配信なので時差や情報発信の調整が難しかったと言えます。ただ、NBAが主催する大会だからだと思いますが、カメラの数が多く選手の表情やプレーを細かく伝えることができ、日本のファンに臨場感を届けられました。普段の国内配信とは一味違う体験になったと思います。

――SNSやデジタルでの展開はどのように考えていたのでしょうか。
髙市 今の若い世代の中にはSNSショート動画を見るだけで「NBAを見た」と満足する層もいます。一方でフルゲームを楽しみたい層もいる。その両方に対応するよう配信を設計しました。多様な“見方”を受け入れることが重要だと考えています。

――これからの大会運営における技術活用の可能性についてもお聞かせください。
関戸 蓄積した撮影映像からAI解析を行い、試合映像上で選手個人のデータを表示しプレーの質を可視化するなどしていきたいですね。例えばその日のジャンプの高さから疲労度がわかったり、その位置からのシュートの確率などが可視化されることで、試合を映像で楽しんでいる方への新しい楽しみ方を提供できるようになると考えてます。

――RSIは初開催を終えましたが、今後はどのように発展していくのでしょうか。
髙市 次回は今回参加できなかった国や地域からも参加希望が届いています。各国で予選会を実施し、シンガポール大会へつなげる形も検討中です。さらに、プレーヤーズラウンジや交流ゾーンを用意して、オフコートでの繋がりを一層促進したいと考えています。

関戸 私たちは「いつでもどこでも見られる環境」をさらに進化させます。AI時代に対応した配信と工夫を取り入れ、ファンが没入できる体験を広げていきたいです。

髙市 NBAとしての大きなミッションは「アジアからでも“届く可能性”を実感できる場を作ること」。RSIはその第一歩です。今後も挑戦を続けていきます。

福岡大学附属大濠高校の関連記事

NBAの関連記事