Bリーグ公認応援番組
『B MY HERO!』
優勝の夢が絶たれた瞬間、涙も出なかった。福岡大学附属大濠高校(福岡県)の湧川裕斗(3年)は取材エリアでも淡々とインタビューに応じていた。
第1シードとして挑んだ今夏の「令和6年度全国高等学校総合体育大会バスケットボール競技大会(インターハイ)」は、ベスト4で涙をのんだ。最後まで接戦を繰り広げた準決勝で、勝負強さを示したのは美濃加茂高校(岐阜県)の方だった。
「何度か逆転できそうなタイミングはあったんですけど、一線目のディフェンスで守りきれなかったり、3ポイントを決められたりしてしまいました」
敗戦後、湧川はそう反省を口にした。指揮を執る片峯聡太コーチが悔いた場面も同じだった。
「第4クォーターで私がタイムアウトを取った場面は、オフェンスがうまくいかなかったことでディフェンスの一線も緩くなってしまい目の前でポンとシュートを打たれてしまいました。あそこは正直、もっと気合いを入れて凌いでほしかった。自分たちのシュートが入らなかったことで、どうしても我慢がしきれなかったのかなと。それも含めて、やっぱりいろんな意味での日頃の鍛錬がまだまだ足りないです」
第4クォーター残り4分7秒、福大大濠は3点を追う場面で3ポイントシュートを献上。拮抗した展開で差を6点に広げられ、片峯聡太コーチはたまらずタイムアウトで時間を止めた。決めたのは美濃加茂の後藤宙(3年)。マークについていたのは湧川だった。
今年の湧川は、これまでよりも果敢にシュートを狙う姿が光り、得意の3ポイントに加え鋭いドライブからの得点も増えた。美濃加茂戦でもゲームハイの25得点をマーク。ただ、勝たなければ意味がない。現在のチームにとって初のインターハイが地元開催という好機にも恵まれたが、決勝に進むこともできなかった。
地元の皆さんに優勝の景色を見せる――。その目標を実現できず、「本当に悔しいっす」と湧川はさみしそうに言った。しかし、日本一を獲得できるチャンスはまだ残されており、「冬に向けてはあと4カ月しかない」と危機感をつのらせた。
「ここで顔を下げて落ち込んでしまったら絶対にリベンジできないと思います。3年生がもっとチームを引っ張っていくという自覚を持って、絶対に日本一になりたい」
コートで感情を出すタイプではないが、主将としてチームメートを気づかい、次々と得点を重ねる湧川からは今までと違うメラメラとしたオーラを感じる。そこでもこの夏、指揮官が求める「求心力のある選手」にはなれなかった。
湧川裕斗はこれからも1人のプレーヤーとして、福大大濠を背負うキャプテンとして試行錯誤を続ける。「日本一」という目標は明確だが、そこにたどり着くまで過程は1つではなく、正解があるわけではない。仲間とともにもがき苦しんだ先に、最高の景色が待っているはずだ。
取材・文=小沼克年