2021.11.19
東京2020オリンピックでは、3x3女子日本代表がメダルこそ届かなかったものの5位と健闘。そして5人制では快進撃を続けて準優勝、銀メダルを獲得した。
日本だけでなく世界を熱狂させた日本代表選手たちにオリンピックのことや10月から始まるWリーグ、さらにはその先についての話を聞いた。
第14回はポイントガードの本橋菜子(東京羽田ヴィッキーズ)。トム・ホーバスヘッドコーチが率いるチームにおいて、欠かすことのできない司令塔は、昨年負った大ケガから見事に復帰し、オリンピックの舞台に立った。オリンピックまでのリハビリ期間や本大会での思いを聞いた。
――東京オリンピックで銀メダル獲得した感想をお願いします。
本橋 目標にしていた金メダルに届かなかった悔しさはあるのですが、バスケット界では史上初となるメダル獲得については、素直にうれしいです。
――自身のパフォーマンスを振り返ってください。
本橋 100パーセント出し切るという点で、それまでのことを考えれば、悔しさがないかと言われたらそうではないです。ただ、あれが今のすべてだったのかなと。自分のできることはすべてコートに出せたと思います。
――オリンピックでは2番手での出場が多かったですが、コートに向かった時の気持ちは?
本橋 短い時間でのプレーになりますが、出場した時は、『自分の役割を全うする』ということだけを考えていました。ディフェンスでプレッシャーをかけ、持ち味である自分のシュートをどんどん狙うということを意識していました。
それと、大会ではドライブで抜いてシュートを決め切ることが難しかったので、途中から3ポイントシュートを今まで以上に意識して、シュートチャンスがあったら積極的に狙うようにしていました。3ポイントシュートに関しては、シュートタッチがいいと大会直前から感じていたし、大会に入ってからは、ただただ無心で打っていました。
――膝の前十字靭帯損傷という大ケガからの復帰となりました。その道のりは大変だったと思います。
本橋 1人でリハビリをしていた頃は無我夢中で、できることを一生懸命やっていましたが、日本代表合宿に合流して、みんなのプレーを間近で見ながらリハビリしていた時期は、『この人たちとまた一緒にプレーできるようになるのかな?』といった不安や焦りを感じました。それに、その不安や焦りに対してあまり自覚がなかったのか、気づいたらその思いが溜まっていて、いきなりフッと苦しくなったり悲しくなったりしました。
プレーができるようになってからも、パフォーマンスを上げていくのに時間がかかったし、大会直前までうまくいかないことがあって。メンバーに選考されるまでもいろいろと焦りはありましたね。
――つらい時に支えになったものは?
本橋 本当にたくさんの人が支えてくれ、応援もしてくれました。その人たちに恩返しをしたいという気持ちで頑張れたこと、それとケガをしてから、同じように苦しんでる人たちに何か届くことがあればいいなと思っていたので、その思いで乗り越えることができたと思います。
でも、苦しい時にはそれを自分自身で重りに感じてしまうことがあって…。そういった時に、「オリンピックのメンバーに選ばれなかったとしても誰も責めないし、こうやって頑張っていることが応援してる人たちにとってうれしいことなんだよ」と、友達など周りの人が声をかけてくれて、スっと楽になったところもありました。
――ケガを乗り越えて出場したオリンピックは特別でしたか?
本橋 無観客だったこともあり、オリンピックを感じることは少なかったのですが、そこをゴールにして自分のできる準備はしてきたし、これ以上頑張れないくらいやり切れたので、やっぱり特別というか、清々しい気持ちになりました。銀メダルという結果もついてきたので、余計に良かったなという気持ちですね。
――大会では初戦のフランスに勝ったことが大きかったのでは?
本橋 チームとしても1カ月以上、フランスに対しての練習をしていたので、それぐらい初戦に懸けていました。それと、試合を重ねる度に『やるべきことをやり切れば通用する、結果もついてくる』という自信が一人ひとりに出てきたと思います。個人的にはベルギー戦(準々決勝)の勝利で勢いに乗ったと感じていて、スタートの選手が出ずっぱりの中で、最後までディフェンスを仕掛けた強いメンタルと脚力はすごかった。ベンチから見ていて勇気をもらいました。
――オリンピック後は、スポンサーへの挨拶を行いました。
本橋 多くの方に喜んでいただき、『感動した』とも言っていただきました。それに、さらにバスケットに興味を持った、ファンになったとも言ってくださり、本当にうれしいです。
――本橋選手は日本代表でもありヴィッキーズの代表、顔でもありますよね。
本橋 ヴィッキーズ(所属)で日本代表としてオリンピックに出たいという思いがあったので、それを実現できて良かったです。
――チームは今シーズンより大学時代の恩師でもある萩原美樹子さんがヘッドコーチ(以下HC)に就任しました。
本橋 オーさん(萩原HC)のバスケットは大学4年間で教わっているし、私自身、オーさんのバスケットは大好きで、信頼できるヘッドコーチだと思っています。一緒にできると知った時は、これまでとはまた違うバスケットが見せられる、チームも変わるのかなと思ってうれしかったです。
――東京羽田での昨シーズンを振り返ってください。
本橋 前半戦はチームオフェンスの中で、自分のチャンスを見つけることがなかなかできず、得点も伸びませんでした。チームとしてうまく連携が取れず、一つにまとまっていませんでした。それで前半戦の後にはみんなで話し合い、後半戦に向けて頑張ろうとなった時に、私がケガをしてしまって…。そこからはチームを離れてリハビリをしていたので、これからという時にチームにいられなかったことは申し訳ない気持ちでいっぱいでした。だからこそ、今年は余計にチームに貢献したいです。
――今シーズン、どのようなバスケットを見せたいですか?
本橋 今まではフリーランスの中で自分たちで判断するバスケットでした。噛み合ったらすごく強いのですが、うまく噛み合わないこともあって…。どうしたらいいのかというモヤモヤがありましたが、オーさんはそこをどうにかしたいと考えていて、今は解消されつつあると思います。
――個人的にどんなプレーを?
本橋 まずはチームのやりたいバスケットを率先して引っ張れるように。ポイントガードとしてゲームコントロールをできるようにと思っています。ただ、メインで私がプレーすることはそこまでないというか、(同じポジションに)軸丸ひかるもいるので、私は試合に出た時にチームの流れが悪ければ良い方に、良ければ継続できるようにしっかりコントロールしてやれればいいなと思っています。
――メインでのプレーがそこまでないというのは、ケガをした足の状態から?
本橋 そうですね。足もそうですし、(日本代表活動で)長い間チームから離れていたので、前半戦は無理せずといった感じです。
――オリンピック後、初めてヴィッキーズを見る人たちに伝えたいチームの良さは?
本橋 地域密着型のチームで、一緒に地域を盛り上げて元気にしていくという活動をしているので近い存在だと思います。
――普段より注目されるシーズンです。
本橋 注目されているという自覚を持って。女子バスケット界が盛り上がるチャンスだと思っているので、これまで試合を見たことがなかった方たちにもWリーグは面白と思ってもらえるバスケットを見せたいです。
取材・文=田島早苗
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