2021.10.08

【短期連載・TOKYOの先へ】長岡萌映子(トヨタ自動車/女子日本代表)

強さと上手さを持ち、得点能力の高い長岡萌映子 [写真]=Wリーグ
フリーライター

 東京2020オリンピックでは、3x3女子日本代表がメダルこそ届かなかったものの5位と健闘。そして5人制では快進撃を続けて準優勝、銀メダルを獲得した。

 日本だけでなく世界を熱狂させた日本代表選手たちにオリンピックのことや10月から始まるWリーグ、さらにはその先についての話を聞いた。

 第13回はオールラウンダーのパワーフォワードとして主軸を担った長岡萌映子トヨタ自動車アンテロープス)。初戦となった予選ラウンドのフランス戦では試合終盤に勝利を引き寄せる3ポイントシュートを沈め、銀メダル獲得につながる“勢い”を作った。

チーム解散後、「寂しくて涙が出てきました」

――銀メダル獲得おめでとうございます。振り返って、メダル獲得のポイントになったと感じる試合はありますか?
長岡 (準々決勝の)ベルギー戦は決勝に行くために勢いづいた試合だったと思います。それと個人的には初戦もすごく大事だったかなと感じます。フランスに対して時間をかけて準備してきたし、あの試合に勝たなければ決勝トーナメントもどうなっていたか分からなかった。そういった意味では初戦の入りが良かったことと、ベルギーに勝てたことがポイントだったと思います。

――その初戦ですが、最後まで競った展開の中、長岡選手は残り28.2秒でリードを4点とするシュートを決めました。
長岡 あの時は迷いなく打つことができました。ショットクロックも残っていたし、隣にキキ(林咲希/ENEOSサンフラワーズ)もいたから別に私が打たなくても良かったのですが、第3クォーター入りから(自分自身の調子が)すごく良くて。ディフェンスでもオフェンスでも波に乗れていました。その前にも3ポイントシュートを決めていたので、夢中だったこともあって打っていました。ただ、打った後に『やばい、これ外したら…』とは思いましたけど(笑)。終わってみれば、ああいう場面でインパクトを残せたのは良かったと思います。

――あそこで3ポイントシュートを放ったのは、点取り屋の感性がそうさせたのでは?
長岡 そう言ってもらったり、初戦が大事で、そこに勝ったことが良かったと言ってもらえたりするのは、うれしいです。

――大会では途中でスタートからバックアップに。どのように気持ちをコントロールしていましたか?
長岡 スタートはスタートという責任があるので、『しっかりやっていこう』と思っていました。セカンドメンバーで出る時は流れを変えないといけない、それが今の自分の仕事だと思ってやっていました。

 選手としてはいろんな葛藤がありましたが、気持ちを切り替えられた大きな理由は、『このチームが好き』ということ。本当に楽しいと思えるチームだし、いくら苦しくても『このチームのために頑張ろう』『このチームで勝ちたい』という思いがありました。それで自分自身をしっかりしてコントロールしてできたと思います。

――『チームが好き』と思えた大きな理由は?
長岡 トムさん(ホーバスヘッドコーチ)が言っていたように、チームには、スーパースターがいなかったからこそ、みんなで頑張った。今回のチームは、誰が出ても強く、私がスタートで出ていても、交代で入ってきた選手たちがすごく頼もしくて。選手1人ひとりがしっかりと仕事をして、求められる役割が明確だったからこそ、それぞれがこのチームで頑張ろうと思えたのだと思います。

(準々決勝の)ベルギー戦、最後接戦だった時に全員が『大丈夫行けるよ!』と声を出していて、みんながみんなを信じる気持ちは大きかった。信頼し合っていたことがチームの結束につながったと思います。

 だって、チームが解散した時、テレビに出る人や実家に帰る人など、みんなバラバラだったんですよ。私は1人で名古屋まで新幹線で帰ってたのですが、その時寂しくて涙出てきましたもん。『楽しかったな』と思って(笑)

初戦となるフランス戦では値千金の3ポイントシュートを決めた [写真]=Getty Images

五輪でもつかんだ手応え「ディフェンスで貢献できる選手に」

――大会を通してディフェンスでの貢献が大きかったと感じます。
長岡 ありがとうございます。でもそれは、日本代表だからということではなく、富士通レッドウェーブから移籍したトヨタ自動車でも生き残っていくための術というか、ベテランになってきた中で、今まで自分は何で支えられてきたかを考えた時にディフェンスだったんですよね。例えばセナさん(水島沙紀/元トヨタ自動車)はディフェンスでヘルプしてくれました。そう考えた時に、日本代表もトヨタ自動車もタレントがそろっているので、ディフェンスで貢献できる存在になりたいと思っています。ディフェンスでは、オリンピックを通して、チャージングを取ることできたので、価値を見出すことができたのかなと思います。

(札幌山の手高校のコーチである)上島(正光)さんにもオリンピックでのディフェンスを褒めてもらって。ディフェンスを褒めてもらったの初めてというぐらい(笑)。「体を張っていて良かった」と言ってもらい、うれしかったです。

――とはいえ、これからもたくさん点を取るシーンも見たいです。
長岡 みんな点を取れるので…(笑)。ただ、大事なところで1本を決められる選手にはなりたいですね。

――5年前のリオではプレータイムが短く悔しい思いをしました。そこから自分自身、どこが成長したと感じますか?
長岡 バスケット的にも、人間としても少しは成長したのかなと思います。

 今回、トムさんに練習から求められていたのは、「僕より先にみんなに声をかけてほしい」というリーダーシップでした。練習ではずっと声を出していたし、トムさんが怒りそうだなと気が付いたときには先に声を出すようにもしました。そういったことを任せてもらえたのは、5年間で築きあげてきたものなのかなと思います。だからこそ、どんな時も私が腐ってはいけないと思っていました。

――オリンピックを終えて反響もあったと思います。
長岡 反響が大きく、環境が変わったと感じます。だからこそ、メダリストとしての過ごし方などは気をつけないといけないですね。橋本聖子会長(2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会)が、「人生のメダリストになるように」とおっしゃっていいましたが、メダリストという肩書きを最高のものにするには、この後の行動が大事だと思っています。

――話は変わり、Wリーグの開幕が近くなってきました。今シーズンのトヨタ自動車の特長は?
長岡 5人制と3人制のオリンピック代表選手も多く、タレントがそろっているので、個々の能力の高さは特長だと思います。ただ結果がすべてだと思うので、結果にこだわって、チームワークを乱さずやっていくことは見てほしいです。Wリーグとしては、どのチームも攻防の切り替えが早いので、スピードあるバスケットが見られると思います。

――チームでは、三好南穂選手とともにチーム最年長です。
長岡 みんな個性が爆発してるので、しっかりと声をかけて、まとめること。試合中から頻繁に声をかけていきたいです。

――最後に今シーズンの抱負をお願いします。
長岡 ディフェンスは重きを置いてやっていきたいです。ただ、トヨタ自動車では得点も求められているので、そこはバランスよくできたらいいなと思います。若い選手もたくさんいるので、どれだけの時間で試合に出るかわからないですが、出た時には自分のやれることをしっかりやっていきたいです。

取材・文=田島早苗

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