57分前

河村勇輝が直面した「自分ではコントロールできない現実」【後編】…悔しさを糧にする「きつい夏」

様々な困難を感じたサマーリーグとなった [写真]=Getty Images
ロサンゼルス在住ライター

■シクサーズ戦で見せた圧巻の好プレー

 もう一つ、自分ではコントロールできなかったことがあった。

 それを強く感じたのが、高さがなくてもこれだけ守れると河村が証明した2戦目のフィラデルフィア・セブンティシクサーズ戦。序盤から厳しいディフェンスを見せていた河村は、第3クォーター、自らよりも大きい相手の前をしっかり守って前進させず、バックコートバイオレーションを誘い、8秒バイオレーション、オフェンスファウルと立て続けにターンオーバーを誘導した。

 河村の好ディフェンスにインディアナ・ペイサーズのベンチの向かいに座って試合を観戦していたパスカル・シアカムたちが立ち上がって拍手を送るなど、ペイサーズの中心選手たちも含め、会場全体が興奮に包まれた。すると今度はトップの位置で、ドリブル突破すると見せかけてディフェンダーを後退させ、ステップバックして3ポイントを成功させた。

 同クォーター、攻防両面での活躍で自らがプレーしている間に24点差を10点差まで縮めた河村について、ブライス・テイラーヘッドコーチは、「彼はすべてのポゼッションで奮闘する。今日は試合の流れを変えたグループの1人だった」と話し、「彼がプレーで見せるあの精神や闘争心は、本当に素晴らしい。誰もがそのエネルギーに感化される」と評価した。

 河村は第3クォーターから10分半以上プレーした第4クォーター残り6分半ごろベンチに下がった。接戦になった場合のことも考えて、いったん休憩させたのかと思われた。だが、その後ペイサーズが追い上げ、オーバータイムになっても河村がコートに立つことはなかった。

思いどおりにならない状況でのプレーを強いられた [写真]=Getty Images

 サマーリーグのオーバータイムは2分。この試合では、河村が第4クォーターにスミスとの交代でベンチに下がって以降、スターターだけでプレーして12点差を同点に追いついたため、オーバータイムでも同じメンバーで勢いを保ちたかったということも考えられるし、チームの今後を考えるうえでも、スターターに名を連ねる選手の戦いぶりを見ておきたいということもあったかもしれない。

 前日のクリーブランド・キャバリアーズ戦で河村は、「コートに立って、最後しっかり勝ち切れたこと、コントロールもうまくできたと思っているので、そこは今日で一番良かったところ」と声を弾ませていたが、その機会は訪れなかった。ペイサーズはオーバータイムを無得点で敗戦した。

 一方で、自分の本領を発揮できなかったり、ミスを悔やんだこともあった。3戦目のトロント・ラプターズ戦では、序盤相手にイージーショットを決められるなど、「相手のフィジカルというところの準備はしてきましたが、うまく対応できずにかなりランされてしまった」。また第3クォーター終盤に2連続ターンオーバーを犯して相手のリードを広げるきっかけを作ってしまうなど4回のターンオーバーを犯し、「今日は相手のディフェンスが、かなりドロップしてきてたので、そのなかでしっかりと相手のビッグマンにプレッシャーをかけるというところで、ペイントアタックを意識的にやるようにはしていましたが、ステップがうまくできずにトラベリングになったりとか、パスが合わずにターンオーバーになったりとか、オフェンスチャージングを取られたりとか、もったいないターンオーバーがすごくありました。ポイントガードとして、あってはならないこと」と歯がゆい思いを口にした。

 実際、第2クォーターには自ら8得点するなどで、2ケタ得点差にされた試合を逆転に持ち込むきっかけを作ったが、第4クォーター残り1分半ころコートに入り、タイの場面でオープンの3ポイントをミスしたこともあり、「今日はいいところが一つもなかった。良かったプレーというのは、今は思いつかない。負ける原因の1つ、1人になってしまったのは、すごく悔しい限りです」と厳しい表情を見せた。

■実力不足を痛感した悔し涙と新たな覚悟

チャンスをつかみ取るための決意を話した [写真]=Getty Images

 サマーリーグ5試合を戦い終えて、河村は1試合平均17.5分の出場で8.2得点4.8アシスト。最後のニューオーリンズ・ペリカンズ戦では、5得点に加え12アシスト、5リバウンドを記録するなど、後半リードを一気に広げたチームの立役者となった。ただ3ポイントが5試合で13本中わずか1本の成功に終わり、「NBAでやっていけるレベルのパーセンテージじゃないのは間違いない。もちろんこのサマーリーグに向けてしっかり準備はしてきたし、自分自身のなかでは、やりきってここまで来たと思いますけど、それでも何かが足りなかったということだ」と思いを巡らせた。

「去年シカゴ・ブルズ(のサマーリーグチームに)いたときは、僕がピュアなポイントガードの役割をかなり担っていた。今回はドラフトされた彼(スミス)とすごくスタイルが近いというのもありますし、一緒に出ることも多くないので、短い時間でリズムを作ることができなかった」と、河村は唇をかみしめた。今回のサマーリーグの経験で持ち帰りたいものを聞かれて、「この悔しい経験」と言い、「やってきたことが何も出せなかった。自分の実力のなさをすごく痛感します」と涙を浮かべながら語った。

 だが、悲しみに浸ってはいない。

「次のNBAのシーズンまでの2カ月間、ここ数年で一番きつい夏にしようと思っている。それぐらい覚悟を持って、この夏、もう一回自分に向き合って、質だけではなくて、もっと量の部分もこなしながら、今はなかなか思えないですけど、必ず『このサマーリーグがあったからこそ成長できた』と思えるようにしたい」と視線を高く上げた。自分ではコントロールできない部分も含めて、また成長のきっかけができた。

 この夏も昨年同様、サマーリーグ契約で、今後はフリーエージェントとしてどのチームとも契約可能だ。しかしそれも手伝い、8月下旬に控える「FIBAバスケットボールワールドカップ2027 アジア地区予選 Window 4」への出場は、サマーリーグを終えた時点では未定のままだ。

 ただ変わらないことは、河村が必死の努力を続けることだ。

 覚悟を決めた河村の進化をしっかり見守りたい。

文=山脇明子

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