2026.03.11
ホームアリーナのすぐ近くで生まれ育ったバスケ少年がすくすくと成長を遂げ、今では地元クラブでエースへの階段を上っている。
広島ドラゴンフライズが本拠地とする広島サンプラザホール。広島市西区にあるアリーナは1985年に開館した。その16年後の2001年、徒歩圏内の井口(いのくち)で三谷桂司朗は生まれた。広島市立井口小学校の6年生だった2013年にドラゴンフライズが創設され、近所のアリーナは、「地元の中の地元で、小さい頃からずっとあった」というバスケ少年にとって憧れの舞台だった。
「ドラゴンフライズが設立された時期に当時のバスケ部の仲間と一緒に試合を見に行ったこともありますし、中学時代は広島で高校のインターハイが開催されて、全国レベルの試合を観戦したことは鮮明に覚えています」
三谷は広島市立井口中学校卒業後、広島市南区にある県内強豪校の広島県立広島皆実高校に進学。エースとして活躍していた3年生のときに特別指定選手として広島に加入し、2019年12月29日にサンプラザでBリーグデビューを果たした。

[写真]=B.LEAGUE
「(試合を見ていた場所で)まさか高校3年生の時にBリーグでデビューできると思ってなかったですし、いまもチームのユニフォームを着てプレーできることも本当にありがたいことだと思っています。サンプラザでは本当にいろんな貴重な経験をさせてもらいました」
広島は創設以来12シーズンにわたってサンプラザをメインアリーナとして使ってきたが、来シーズン開幕の「Bプレミア」から広島市中区の広島グリーンアリーナに移転する。サンプラザをメインアリーナとして戦う最後のシーズンだった今シーズン、地元出身の三谷は「自分の中でもすごく特別な思いがあります」という思い出の地で、エース候補に名乗り上げる飛躍の1年を送った。

[写真]=B.LEAGUE
シュートを打ちきること。言葉で伝えることは簡単だが、実際に意識を植え付けるには、「近道はなくて、時間をかけてやっていくしかないと思います」と朝山正悟ヘッドコーチ(HC)は同22日の練習後に話していた。
「普段から常に寄り添って、今のショットはどういう考えで、なぜ打てなかったのかといったことを話しながら、とにかく結果から先に入るのではなく、まず打てたことを一番に評価する。その上で、もっと打てるシチュエーションがあったことを伝えていくしかないと思います。桂司朗は去年も(シュート)フェイクを縦に何回も入れて、1試合で1本しか3ポイントを打たないことが結構ありました。でも、ときに一緒に練習をして、伝えて続けたことで、良くなってきて、(試合中の)一つの成功体験がまた自分の自信につながる。その繰り返しだと思います。それが結果的にEASLでビッグショットになったこともあるので。そこは、もともとできる選手もいれば、難しくて消極的になってしまう選手もいるので、どうサポートするのがいいのかを見極めることも僕らの大きな仕事です」

[写真]=B.LEAGUE
「シュートを打たずにパスを返したり、プレーを悩んで相手のディフェンスに煽られる経験の方がもったいないなとシーズンを通して学びました。なので、少しでも打てると思ったらまずはシュートを狙って、それが得点につながれば自信になりますし、入らなくても相手に『この距離で打ってくる』という意識は植えられるので。そこからもっとシュートを打っていこうと思いましたし、チームもそれをどんどん認めてくれたので、そこはすごく成長できたところだと思います」
積極的に打ちきる大切さを胸に刻んだ広島のホープは、持ち味のディフェンスに加えてオフェンスでもアグレッシブさを増して飛躍を遂げた。今シーズンは1試合平均のフィールドゴール試投数が昨シーズンの5.1本から7.6本に増え、特に3ポイントシュートの試投数は2.8本から5.3本と倍近く増加。1試合平均得点は5.8点から8.0点に伸ばした。
1月24日のファイティングイーグルス名古屋戦では3ポイントシュートを6本決めて、チーム最多の22得点でキャリアハイを更新。2月7日の秋田ノーザンハピネッツ戦でも当時最多に並ぶ6本の3ポイントを含む20得点で勝利に貢献した。そして、4月8日のシーホース三河戦では3ポイントシュート7本とチーム最多の25得点で再びキャリアハイを更新。数字でも表れた確かな成長に、本人は「迷いなく自分のプレーができるようになってきました」と胸を張る。

[写真]=B.LEAGUE
「怪我人が続出した中で、プレータイムが伸びて、いろんな役割を試合中に担うことが増えたので、いろんな経験させてもらって自分の自信につながるところも、まだまだ足りてないところもたくさんありました。それを次のステップにつなげていくことが大事なので、成長できたことに満足せずにもっと上を目指して頑張りたいです」
今シーズン最終節は富山グラウジーズを迎えたサンプラザ最後の2連戦で、チームは健闘したものの、連敗でシーズンを終えた。ただ、悔しい最終節の中にも光るものはあった。GAME1の第4クォーターでは、これまで全試合に出場してきたクリストファー・スミスも怪我で出場できなくなる緊急事態が発生。ドウェイン・エバンスやスミスといったリーダーたちが不在となった中で、背番号34が存在感を放った。

[写真]=B.LEAGUE
積極性は見せたものの、得点を決めきれず、ミスも重なって勝利に導けなかった。「今までクリスに頼っていたぶん、いざ自分に役割が回ってきた時にしっかり遂行できなかったところは自分の足りてない点として顕著に浮かび上がったと思います」と悔しさを滲ませ、「チームを勝たせるために自分がミスをせずプレーを遂行しきることが求められますし、そこもまずは気持ちの面が大事だと思います」と身を引き締めていた。
課題はあったが、地元出身の若手が苦しいときでもトライし続けてコートで戦う姿勢を貫いた。これまで外国籍選手が示してきたようなリーダーシップが垣間見えたその姿勢は、日本人エース誕生への期待の光だった。

[写真]=B.LEAGUE
ただ、苦しいときだけ輝くのがエースではない。どんなときでもチームのためにアグレッシブな姿勢とリーダーシップを発揮できてこそエースだ。この広島において、三谷はその能力やポテンシャルを間違いなく持っている。朝山HCも「もっと貪欲であってほしいし、もっと上を目指せる選手だと思います」と期待を込める。
「間違いなく今シーズン、チームで一番成長した選手の1人だと思います。でも、プレーの中身もオフコートもまだまだ足らないと思うので、現状に満足せずに取り組んでほしい。広島出身の選手がシーズンを通してスタートでコートに立ち続けている中で、その意義をもっと彼は背負っていいと思っています。それができる選手だからこそ背負わせているし、努力もできる選手なので、ずっと言い続けて彼は成長してきてくれました。ただ、より上を目指して、本当に日の丸を背負って戦える選手になるには、もっと気持ちの部分も技術力も必要だと思いますし、現状そこを不動にしている選手たちはもっとインパクトがあるので、僕は彼がそういう選手になれると信じています」(朝山HC)

[写真]=湊昂大
「今シーズンで成長したところを自信を持ってアピールすることが一番だと思います。スケジュール的にも全員タフなのは当然わかっているので、その中でも勝ち残っていくことが今後の自分の評価や自信にもつながると思います。まずは負けない気持ちを持って戦いたいです」
シーズン最終戦から一夜明けた5月4日、サンプラザでは今シーズン最後のイベントとなるファン感謝祭が開催された。コート外では和やかな雰囲気を放つ三谷は、思い出の地でチームメートと一緒にファンとの交流を楽しんでいた。今シーズンの活躍や地元の期待から“広島県民の息子”と呼ばれる愛されキャラは、「自分たちが楽しくやることが一番ファンのみなさんも楽しめると思ったので、とにかく楽しもうという気持ちでした」と最後にブースターとともに笑顔で過ごした。

[写真]=湊昂大
地元の期待を背負う“広島県民の息子”はこれからもすくすくと成長していく。「今はまだいいですけど、僕がもしキャリアを重ねたら、息子からお兄ちゃんとかに変わるんですかね?(笑)。そこはちょっと気になったので、楽しみにしながら頑張ろうと思います」と飾らない笑みをこぼした。広島の愛すべき背番号34は真っ直ぐにエースへの階段を上っている。
文=湊昂大
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