2026.07.07
八村塁が主宰するプロジェクト「BLACK SAMURAI」が、今年さらにスケールアップして帰ってくる。
「キャリアとしても折り返し地点に来ている。この時点で僕から日本のバスケにシェアできることはないか」。2024年、八村のそんな一言をきっかけに、本格的に動き出したのが「BLACK SAMURAI」だった。目指したのは、日本にはないスケールで、世界基準の刺激を育成年代に届けるキャンプ。構想は白紙の状態から始まり、2024年11月ごろからプランニングが進められた。
そして昨年8月、名古屋のIGアリーナで育成年代向けのイベント「BLACK SAMURAI 2025 THE CAMP」が初開催。今年は神戸、名古屋、富山の国内3都市へと舞台を広げ、それぞれ異なるテーマを持ったイベントが実施される。
日本バスケットボール界の未来を担う若い選手たちに、世界最高峰の舞台で戦う八村は何を伝えようとしているのか。そして、その思いを形にしたプロジェクトは、どのように作り上げられてきたのか。
BLACK SAMURAIプロジェクトを進行してきた統括プロデューサーの加藤優貴氏と、クリエイティブディレクターの鈴木宣彦氏に、昨年の手応え、今年3都市で展開される各イベントの狙い、制作の裏側で感じた“世界基準”、今後の展望について話を聞いた。
インタビュー=藤田皓己(バスケットボールキング編集部)
写真提供=BLACK SAMURAI


[写真]=BLACK SAMURAI 2025
加藤 当日に見えた景色や雰囲気は、Bリーグでもウインターカップでも、NBAジャパンゲームズでも見たことがないようなものでした。僕らが展開しているコンテンツを欲している新たな人たちがいたんだな、という感覚がありましたね。
携わってくださった方々からは、「新しい歴史が動いたよね」という言葉もありました。抽象的ではありますが、現場にいた人たちにはその感覚があったと思います。
参加選手たちも、キャンプ後に八村がやっていたワークアウトを動画で見返しながら練習していたと聞いています。日頃選手たちを指導する先生方からも、バスケットボールへの向き合い方が変わったという連絡がありました。少しでも子どもたちの人生や可能性を広げるイベントになったのではないかと思います。
――第1回を終えて見えた課題や、今年開催されるイベントに生かした点はありますか。
鈴木 お客さんに対するコミュニケーションと、参加する選手たちへのコミュニケーションは、同じプロジェクトの発信ではありますが、どう出し分けるかは課題としてあります。八村選手の思いがちゃんと伝わるように、一番刺さる部分をしっかり伝えていく。そこは今も大切にしている部分です。
加藤 あとは、もっと“個”を出していくことですね。日本だと自己主張やエゴという言葉が、少し悪い意味に聞こえてしまうことがあると思います。でも、エゴを出すことは悪いことではない。アリーナ内の演出でも、次世代の選手たちをどう立たせるか、どう認知を上げていくかは、今年に向けたテーマになっています。

[写真]=BLACK SAMURAI 2025
加藤 拡大というよりは、テーマ分けをしたいというところから始まりました。八村としては、トップ選手にはエリートプログラムを用意したいし、バスケットボールが大好きでもっと上手くなりたいと思っている子たちにも、また違うプログラムを用意したいという考えがあります。
今年に関しては、富山では地元の小中学生を対象に、バスケットボールを一緒に楽しむ“触れ合い要素”が強い内容になります。神戸では、去年のTHE CAMPのように、ビデオや書類審査に突破したバスケに本気で打ち込んでいる中高生。それぞれ参加した選手たちが、次のステップに進んでいくようなシステムを作っていきたいと考えています。
――名古屋で開催される「BLACK SAMURAI SUMMIT 2026」は、完全招待制で行われます。日本にも、協会の育成事業や年代別代表など、上手い選手が集まる場はありますが、BLACK SAMURAIが取り組んでいることは、そうした場と何が違うのでしょうか。
加藤 練習だけではないところです。もちろんプロ意識を高める練習もありますし、八村がワンポイントでアドバイスすることもあります。ただ、今の日本の子どもたち、次にプロになるような子たちに足りないと感じているのは、例えばメディア対応の仕方や、将来プロになった後のお金の使い方、マインドセット、メンタルの話などです。
八村自身が海外で経験したキャンプには、そうした要素も含まれていました。練習だけではなく、次のステップを見据えた対応の仕方や教養の部分を高めたいという思いがあります。そこが違いかなと思います。ただの練習という感じではないですね。
――女子選手の参加については、どのように考えていますか。
加藤 神戸で実施する「Daiichi Life Group PRESENTS BLACK SAMURAI KOBE CAMP」には女子選手も参加する予定です。一方で、名古屋で開催する「BLACK SAMURAI SUMMIT 2026」は男子に絞っています。八村は男子バスケットボールについては細かい部分まで具体的に伝えられる一方で、女子バスケットボールはまた違う競技性がある。まずは男子で実施して、そこでどういう反応があるかを見ていきたいと考えています。

[写真]=BLACK SAMURAI 2025
鈴木 八村選手から最初に明確なディレクションがありました。主役は、招待する子どもたち、参加する選手たちだということです。そこを基軸にクリエイティブを作っています。
八村選手はメインビジュアルにも登場していますが、全面に押し出すというよりは、あくまで主役は子どもたちであることを立たせるイメージです。会場でも個人を立たせる演出を考えていて、選手たちが注目されることで感じるプレッシャーも作っていくことを意識しています。
――選手たちにプレッシャーのかかる環境を用意することも、八村選手の考えなのでしょうか。
加藤 そうですね。八村に緊張や不安を選手たちに感じさせたいのかと聞くと、「いやいや、緊張はワクワクすることだから」と言うんですよ。人によっては、大舞台に立ったらプレッシャーを感じると思いますけど、八村はジョーダン・ブランド・クラシック(※全米最高峰の高校生世代オールスターゲーム)の時も「俺がやってやる」という感じだったみたいで。そういうマインドを、次世代の子どもたちにも感じてほしいと思っているのだと思います。

[写真]=fiba.basketball
――トップ・オブ・トップに挑戦する選手が出てきてほしい。そのためには、そういうマインドが必要だということですね。
加藤 そういうことです。八村と話していて、面白いことがありました。レイカーズの一員としてプレーオフでプレーするときにどのくらい緊張するのかと聞いたら、「全くしないです。僕はずっと日本を背負ってきたから」と言うんです。
日本代表として日の丸を背負ってきたから、アメリカの大観衆の前でプレーしても何も感じないと。日本代表を高校生のころから本気で背負って、そこを乗り越えてきたことが、今、世界で戦っていることにすごく生きているという話をしていました。
それは僕にとっても驚きでした。僕らは、むしろ向こうに行った方が緊張するんじゃないかと思うじゃないですか。でも彼は逆なんです。だからこそ、これから日本を背負っていく子どもたちには、その意味をもっと感じてほしいんでしょうね。“サムライ魂”のようなものを、彼は伝えたいのではないかと思います。

[写真]=BLACK SAMURAI 2025
加藤 八村と一緒に仕事をしていると、計画通りに進まないこともあります(笑)。ただ、それは“変更”というより“進化”ですね。一緒に作っていくなかで、どんどん良くなっていくんです。
鈴木 やり方や見せ方が変わることはありますが、八村選手が見ているゴールは変わらないんですよね。だから僕らもメッセージングやクリエイティブを調整しながら、八村選手の思いが一番伝わる形を探している感覚です。
加藤 今年の取り組みで言うと、神戸のCAMPで評価された選手が名古屋のSUMMITに進めるようなスキームも面白いのではと考えたことがありました。でも八村は「そこは違う」と。神戸は神戸、名古屋は名古屋で、目的が違う。そこは自分の概念が一度崩された部分でした。
鈴木 子どもたちを極限の環境にするために、アリーナの規模もそうですし、演出も世界基準でやっていきたいという思いは強くありました。日本の高校生の大会では、会場を真っ暗にして、音楽が鳴って、映像が流れて、ということはあまりないと思います。そういう普段と違う環境にしたいというオーダーは大きかったです。
加藤 名古屋で開催する「BLACK SAMURAI SUMMIT 2026」では、GAME DAYの前に、IGアリーナのサブアリーナで非公開のキャンプを行うことになりました。僕らとしては「こんなに立派なアリーナを借りたのにサブアリーナかい!(笑)」って思ったんですけど、八村としては8月8日のGAME DAYで選手たちがメインコートに立った時に、しっかり緊張感を持ってもらいたいという思いがある。
興行として考えれば、メインアリーナでキャンプをやって、たくさんのお客さんに見てもらった方がいいかもしれません。でも、八村はあくまで参加する選手たちの経験を最大化することを第一に考えている。「プレーヤーファースト」という言葉がありますけど、こういう観点が本当の「プレーヤーファースト」なのかなとBLACK SAMURAIチームでは話しています。八村の思いをどう具現化するかを、いつも考えています。

[写真]=BLACK SAMURAI 2025
鈴木 八村選手もそうだと思いますが、バスケットボール界をより良くアップデートしていきたいという考えがある一方で、将来の選択肢をバスケットボールだけにしてほしくないという気持ちも、同時に持っているのではないかと感じています。
夢をもっと大きく持つこと、それを叶えるためのステップを知ること、自分の本当に好きなことに向き合って楽しむこと。そうした姿勢は、バスケットボール界に限らず、もっと広く届けていきたいものなのかなと、僕自身は解釈しています。
このイベントを通して、バスケットボールをやっていないお父さんやお母さんにも、子どもに夢を持つことをどう伝えるのか、挑戦する姿勢をどう後押しするのか、そういう部分が少しでも届けばすごくいいなと思っています。
加藤 僕も同じです。次世代のサムライスピリットのようなものを、このイベントを通じて作っていければと思っています。BLACK SAMURAIに来たことで人生が変わった、もう少しチャレンジしてみようと思えた。そういうきっかけになってほしいです。
八村は、自分自身の考え方を共有しているだけで、全国のバスケットボール少年少女に必ずNBAに行ってほしいと強制しているわけではありません。刺激を受けた子たちが、将来は一般企業で活躍してもいいし、この先バスケットボールを続けなくてもいい。自分が見てきた世界を日本に還元することで、その人の夢が叶ったり、新しいことを始めたりする。そういう影響があるとうれしいと話しています。
そのうえで、バスケットボール界に対しては、BLACK SAMURAIを世界への扉のような存在にしていきたいです。ここに関わることで、エージェントや業界関係者の目に留まるかもしれない。若い選手たちにとって、自分をアピールできる場になり、NBAを夢のまた夢ではなく、もっと近い存在として感じられるようにできたらと思っています。

[写真]=BLACK SAMURAI 2025
――BLACK SAMURAIは、今後どのように発展していくのでしょうか。
加藤 まずお伝えしたいのは、イベントはあくまでプロジェクトの一部だということです。八村としては、名古屋で開催する「BLACK SAMURAI SUMMIT 2026」のような場を毎年続けていきたい。ジョーダン・ブランド・クラシックのように、毎年の恒例として定着するものを作りたいという思いがあります。
全体的なプログラムとしては、アジア展開も視野に入れています。将来的にはSUMMITを台湾や韓国で開催し、日本vs韓国、日本vs台湾のような舞台をBLACK SAMURAIとしてプロデュースしていく構想もあります。
その背景にあるのは、子どもたちに世界を感じる経験を届けたいという思いです。今は円安などの影響もあり、簡単に留学できる時代ではなくなってきています。八村自身、アメリカに渡ったことで視野が広がり、今のバスケットボールスタイルにつながっている。だからこそ、子どもたちにも世界に触れ、自己成長につながる経験をしてほしいと考えています。
もう一つ、八村にはアジア全体のバスケットボールを強くしたいという思いもあります。日本だけでなく、韓国や中国なども含めてアジア全体が底上げされることで、NBAに挑戦するアジア人選手がもっと増えていく。そういう未来を見据えているのだと思います。
さらに、八村が日本にいないシーズン中でも、子どもたちがいつでもどこでも世界基準を学べるオンラインアカデミーのような仕組みも考えています。将来的には、トレーニング施設を作ることや、BLACK SAMURAIのファンデーションのような形で、留学や海外挑戦に向けた資金面のサポートを行うことも視野に入っています。
単にイベントを開催して収益を上げるのではなく、そこで生まれたものを次にどうつなげるか。どうバスケットボールを高め、日本だけではない選択肢を子どもたちに示していくか。そこは八村が常に考えている部分です。
▼Daiichi Life Group PRESENTS BLACK SAMURAI KOBE CAMP
日程:8月4日(月)~5日(火)
会場:GLION ARENA KOBE(神戸)
▼BLACK SAMURAI SUMMIT 2026
日程:8月6日(水)~8日(金)
会場:IGアリーナ(名古屋)
▼BLACK SAMURAI 富山 Homecoming
日程:8月22日(土)
会場:YKK AP ARENA(富山)
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▼Daiichi Life Group PRESENTS BLACK SAMURAI KOBE CAMP
https://blacksamurai.jp/2026/kobecamp/
▼BLACK SAMURAI SUMMIT 2026
https://blacksamurai.jp/2026/summit/
▼BLACK SAMURAI 富山 Homecoming
https://blacksamurai.jp/2026/toyama/
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