2023.09.02
コート上での振る舞いやチーム最年少ながら報道陣への対応でも、チーム最年少とは思えない落ち着きを見せるのが河村勇輝(横浜ビー・コルセアーズ)だ。しかし、そんな河村でもワールドカップのデビュー戦はホロ苦いになったと言えるだだろう。ドイツとの初戦、第1クォーター残り4分55秒、コートに入るとらしくないパスミスを犯してしまった。
「1対1の部分でタフショットになってしまったり、自分が打てるタイミングでも、チームのタイミングではなかったりしました」と、不完全燃焼だった初戦を河村は振り返っている。
迎えたフィンランドの第2戦、第1戦同様、スタートの座は富樫勇樹(千葉ジェッツ)に譲ったが、第1クォーター残り5分41秒、いつものように深々とお辞儀をしてコートに入った河村は積極的に1対1を仕掛け、ペイントエリアに侵入した。
「(思いどおりにプレーできないこともあったが)そこはドイツ戦で学んで、自分のプレースタイル、このチームで僕が求められている役割というのは、ペイントアタックすることと3ポイントを決めること」と決意を新たに臨んだこの試合、河村は後半に大爆発する。
第3クォーター、比江島慎(宇都宮ブレックス)、馬場雄大、渡邊雄太(フェニックス・サンズ)、ジョシュ・ホーキンソン(サンロッカーズ渋谷)とコートに入った河村は、最初のプレーでホーキンソンのゴールをアシスト。自身も2本のジャンプシュートを連続で決めて勢いをつけた。
さらに残り3分37秒、比江島に替わって富永啓生(ネブラスカ大学)が入ると、立て続けにシュートを演出。終了間際には馬場の3ポイントを引き出し、最後の10分に入っていった。
スコアは63−73と点差は10。だが追い上げる勢いは日本にあった。まずは富永の長距離砲が決まり、フィンランドのディフェンスが前ががりになる。するとゴール下にスペールができ、そこに河村、ホーキンソンが飛び込んでいった。フィンランドのディフェンスの勢いがなくなっていくのと対照的に、日本は一気呵成に攻め立てる。残り4分35秒、河村のフローターがバスカンとなり、ボーナススローも決めて、日本はついに逆転に成功した。
「やっぱり、1人に頼ることなく、全員がバランスよく得点を取ること。1人がボールを持ち続けることなく、ボールをムーブして、いろんなオプションを試していくこと。それが相手に的を絞らせることなく、点に結びついたんじゃないかと思っていて。そこの5人、12人でバスケットをした結果だと思います」
河村は初戦の反省を生かし、第2戦では思うようにゲームをコントロールできるようになっていった。
そして、「最後は1対1の場面でチームがボールを託してくれました。それを決め切れたことはすごく良かったかなと思います」
逆転したあとも河村の勢いは止まらない。1対1の場面から3ポイントを決めきる。途中、フィンランドは213センチのエース、ラウリ・マルカネン(ユタ・ジャズ)を河村にマッチアップさせるが、逆に「全然やれると思いましたね。シュートを打つまでのフェイクでマルカネン選手が『揺さぶられているな』という感覚はあったので、フリーで打てるなという感覚は強かったです。そこで決め切れるかどうかはまた別の問題でしたけど、迷いなく打ち切ることができたのは良かったと思います」。憎らしいほどに河村は冷静だった。
フィンランドのシュートが外れ、こぼれ球を河村が回収。そして歓喜の瞬間が訪れた。男子日本代表は、オリンピック、ワールドカップ(旧世界選手権)を含めた世界大会で、17年ぶりに勝利をつかんだ。しかし、「アジア1位になってパリオリンピックの出場権を獲得する」という目標はまだ達成していない。
「特別変わったことはなくて、これまでやり続けてきたことをオーストラリア戦もやり続けるだけ。自分の強みはアグレッシブなディフェンスとペイントアタックなので、そこはぶらさず、特別なことはせずにやっていきたいなと思います」
本来の自分を取り戻した河村が世界3位のオーストラリアに挑む。
文=入江美紀雄
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