2025.11.01
緻密な戦術と攻守のスキルがぶつかり合うスリリングな展開、観衆を総立ちにさせる派手なプレー。NBAの試合はどの角度から見ても、最高のスポーツエンターテイメントであることに疑いの余地はない。しかし、ため息が漏れ、ホーム&アウェイ関係なくアリーナの全員が頭を抱え、目を塞ぎたくなる状況がある。それが、選手のアキレス腱断裂だ。
この大ケガは、選手のキャリアそのものに終止符が打たれることもあるコートの悪魔だ。今シーズンは、デイミアン・リラード(フリー)、ジェイソン・テイタム(ボストン・セルティックス)、タイリース・ハリバートン(インディアナ・ペイサーズ)を含む7選手がアキレス腱を断裂。これを受けたリーグは、専門家委員会を設置し、原因調査へ踏み切っている。
ケビン・デュラント(ヒューストン・ロケッツ)も過去にこの災難に見舞われた1人だ。2018-19シーズンのNBAファイナルでこのケガを負ったデュラントは、続く2019-20シーズンを全休。2020-21シーズンも左膝の捻挫により35試合の出場に止まるなど、キャリアのピークでケガとの付き合いを余儀なくされた。
レブロンは、アキレス腱断裂を「バスケットボール選手にとって最も最悪なケガ」と言い表すと、デュラントは両手で顔を覆い、復帰までの道のりを「修行」と表現。デュラントの元にはリラードやテイタムからも連絡があったことを明かし、過去にも同様の負傷を経験した選手からアドバイスを求められたことがあるという。
デュラントは、アキレス腱断裂がキャリアを占う重症であることを理解しつつも、自身を筆頭に復活の前例はたくさんあったと語る。それを踏まえ、復帰に向けての第一歩を踏み出した選手たちに対して、励ましの言葉を送っている。
「彼らはそもそも特別な才能の持ち主だ。だから今回の負傷は、旅の途中でちょっと立ち止まるだけの出来事。1年間は離脱する。この現実をしっかり受け止められれば、逆に集中しやすいと思う。最初の数週間は『マジで1年も離脱するのか……』という気持ちで、実感がわかない。バスケ人生で初めて、“絶対にプレーできない期間”を味わうわけだからね。そこで沈むか、這い上がるか。俺の考えでは、この2人はこれまで何度も這い上がる姿を見せてきた。今回も必ずステップアップして戻ってくるよ」
しかし、デュラントはリハビリは「本当に過酷」と、復帰までの道のりで想像を絶する苦労と努力をしてきたことを示唆。以前のように足を健全に動かすためには、とてつもないトレーニングが必要で、デュラントは現在も当時のリハビリメニューを一部継続しているという。
また、アキレス腱のケガはプレースタイルそのものにも大きな変化をもたらすことになると経験者は語る。15度のオールスターはホストたちの前で、復帰に向けた自身の工夫について詳細を明かした。
「アキレス腱を切ると、ふくらはぎの筋肉が文字通り“消える”んだ。3ヶ月間、ほとんど動かさないと、ふくらはぎが萎縮して消滅する。今、俺の脚を見せられたらいいんだけど、右脚は左脚より明らかに細い。4~5ヶ月もの間、全く使わなかったせいで完全に機能停止していた。だから、まずはふくらはぎを元以上にデカく、強く戻すことが最大の課題だ。デイム(リラード)やテイタムなんかは特に、ディープスリーをガンガン撃つだろ?難しいステップバックスリーとかも。俺もケガする前はそうだったが、復帰後は右脚にまだ十分なパワーがなくて、そうした動きを一度封印してゲームを組み立て直す必要があった」
後輩たちがデュラントに教えを乞うのは、デュラントが完全復活を遂げた最も顕著な例だからに他ならない。2023-24シーズンは75試合に出場し、平均37.2分をプレーして27.1得点をマーク。昨シーズンも62試合で平均36.5分プレーし、チームが軌道に乗れない中でも孤軍奮闘して26.6得点を記録しており、史上最高のスコアラーの物語は今なお続いている。

デュラントは大ケガからの復帰後もリーグ屈指の得点能力を維持している[写真]=Getty Images
「人間の身体だね。自分の身体の構造を深く学ぶきっかけになった。パワーの伝達とか、動作パターンとか、ウェイトルームでどのように筋肉を刺激すればプレーに直結するかとか。以前もトレーニングはしていたが、目的意識がぼんやりしてた。今は『このエクササイズは俺のプレーのここに効く』というのを完全に理解して、超具体的にメニューを組んでる。それが俺がここまでスムーズに復活できた最大の理由だと思う」
極限の運動が求められ、ハードコートでプレーする以上、これからもリーグにこのケガは付きまとうだろう。しかし、正しいトレーニングと復帰後のアプローチ次第では、再びカムバックできることをデュラント自身が証明している。
「あとは本人たちが身を投じるだけ。二人なら絶対大丈夫。早く彼らの復活が見たいよ」と、デュラントは後輩たちの背中を力強く押している。
文=Meiji
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