Bリーグ公認応援番組
『B MY HERO!』
やはり負けに不思議の負けなし、ということだろうか。
「令和3年度 全国高等学校総合体育大会バスケットボール競技大会(インターハイ)」の出場権をかけた福岡県予選の男子決勝。最大21点のビハインドを背負いながら、第4クォーターに猛追。あと1点が及ばずに敗れた福岡第一高校の井手口孝コーチは、その追撃を今後の収穫になるかと問われて、こう答えた。
「それはそうですけど……、やはり負けは負けですから。起こってはいけないミスが多すぎました」
近年、その強力なチームディフェンスと、高速トランジションで全国を席巻してきた福岡第一。しかし6月6日に行われた福岡大学附属大濠高校との決勝戦では序盤からディフェンスで後手に回り、トランジションゲームにも持ち込めなかった。そこにはもちろん福大大濠の個々の能力の高さや、「福岡第一に走らせてなるものか」と素早く戻る、規律の取れたディフェンスがあったことは言うまでもない。留学生の高さに対しても、2年生センターの副島成翔(195センチ)と注目ルーキー・川島悠翔(199センチ)が勇敢に戦う姿があった。
しかし、それは今に始まったことではない。福岡第一が本気で日本一を目指すチームになったときから、能力で圧倒的に上回る福大大濠を倒すことは、彼らにとって最大のミッションだったはずだ。そのためには1対1を強く守り、相手が苦しんだところを二の矢、三の矢を継ぐ福岡第一のディフェンスが出なければいけない。
それが出せなかった――。
河村勇輝(東海大学2年)・小川麻斗(日本体育大学2年)の代、ハーパージャン・ローレンス・ジュニア(東海大学1年)たちの代。福岡第一が強いと言われた時代のディフェンスは強力でありながら、変幻自在だった。どこからともなく二の矢、三の矢が放たれていて、気がつくと相手チームはボールを失っている。福大大濠であってもだ。しかもそれは井手口コーチの指示ではなく、選手たちが自ら判断し、動いていた。圧巻のディフェンスだった。
今回もそうしたディフェンスが各クォーター垣間見えたのだが、相手の戦意を喪失させるだけの大きな波にまでは発展させることができなかった。
「うまく追いついた感じなんだけれども、やっぱりゲームをやっていないから、ポイント、ポイントでどうでもいいようなミスが出てしまった。ゲームキャリアでしょうね。ゲームをやっていない……お互いそうでしたけどね」(井手口コーチ)
今年は新型コロナウィルスの影響でどのチームも思うような練習試合を組めず、ゲーム勘を磨き上げることができていない。そういった点においては福岡第一も、福大大濠も同じ条件なのだが、そうなってくるとサイズを含め、個々の能力でやや劣る福岡第一には分が悪い。彼らは徹底したファンダメンタルと、それに裏打ちされたコンビネーションを極限まで高めることで、チームを築いているからだ。ゲームキャリアを積めないことは、目指しているチーム作りの大幅な遅れを意味する。あと一歩が及ばなかった要因は、そうしたところにあったのかもしれない。
ライバル相手の敗戦に「収穫はあまりない」と言う井手口コーチだが、決してそんなことはない。福大大濠の片峯聡太コーチがその可能性を認める2年生ガードの轟琉維の奮闘や、早田流星(3年)のケガでチームの精神面を一手に担った3年生の佐藤涼成の終盤の集中力など、冬に向けた光明は少なからずある。残り4分37秒で出てきた、これも2年生ガードの城戸賢心も光るものを見せていた。
悔しさを糧にできれば、バスケ王国の頂点に返り咲くことは十分に可能である。2002年以来、19年ぶりにインターハイ出場を逃した福岡第一の夏は、例年以上に熱くなりそうだ。
写真・文=三上太